トゥルーヒーローズストーリー 〜英雄達の物語〜

夏霧 尚弥

第1章 プロローグ

第1話

 約200年前、高度な機械や魔法を操る文明が世界を支配していた。


 贅を尽くした国々の王達は、抑える事のない欲望を剥き出しにし、世界を手に入れようと各国で戦争が起こった。


 長きに渡る戦争で疲弊した人々や各国の重鎮達。痩せ細っていく大地。汚れていく空。

 人々は、平和を願う事しか出来なかった。


 そして王達は間違いを犯した。

 大量殺戮兵器の投入である。


 兵器の力は凄まじく、人を街を国を次々と滅ぼしていった。

 そして最後には、僅かな人を残し全てが滅んだ。


 生き残った人々は、同じ誤ちを繰り返さないよう物語として後世に伝えていく事になる。


 星歴180年。

 世界を変えた戦争が終わり約200年の時が過ぎた。

 これは、新たな時代の英雄達が紡ぐ物語である。




 「アレク待ってよー!」

 「早く来いよソフィア!」


 幼馴染の女の子に捕まらないように村の中を駆け回る俺。

 後ろを振り向き声をかけると、ソフィアと呼ばれた女の子の顔が笑顔になり、俺の方に走ってくる。

 俺の前で立ち止まると、肩で息をしながら少し怒った表情で、


 「アレク早いよ〜。女の子を無視して先に行ったらダメなんだからね!」

 「ごめんごめん。次からは気を付けるよ。」


 そう言い俺は、ソフィアに向かって頭を下げた。


 「わかればよろしい。」


 ソフィアは胸を張りながらそう言った。

 村の中で1番若い俺達の様子を皆は微笑ましい表情で見ていた。


 この村はだいたい100人くらいの小さな村で、村民達の中で知らない者はいないくらいの規模だ。

 果物屋さんのおっちゃんが俺達に向かって、


 「アレクー! ソフィアー! お前達の親が探していたぞ!」

 「わかったー! おっちゃんありがとう! 早く帰るぞソフィア!」


 そう言い残し俺は家に向かって走り出した。ソフィアを置いて。


 「もぉ~! また先に行く! 待ってよー!」


 ソフィアの声が後ろから聞こえやってしまったと思ったが、また後で謝ればいいかと自分の中で無理矢理納得し、


 「早く来いよソフィアー!」


 後ろに付いて来ているソフィアに叫んだ。


 アレクー! ソフィアー!


 遠くの方で俺達を呼ぶ声が聞こえる。

 声を頼りに走っていくと、人影が見えてきた。


 果物屋のおっちゃんが言っていたとおり、親達が俺とソフィアの事を探しているようだ。

 俺は手を振りながら、


 「父さーん! 母さーん! 呼んだー?」

 「やっと帰ってきたかアレク。ってソフィアちゃんは? 一緒に遊んでいたんじゃないのか?」

 「ソフィアなら後ろに……。あれ? ソフィア?」


 後ろを振り向くと、いるはずのソフィアがいなかった。

 

 「おいアレク。どういう事だ?」


 後ろから普段より低い声で俺の事を呼ぶ声が聞こえた。

 今振り向いたらダメだ! 殺られる!


 「あ、あははは。ソフィアはどこに行ったんだろうね?」


 冷や汗をかきつつ、明後日の方向を向きながら俺は答えた。

 どうにかしなければ! と、何か良い方法はないか考えていると、遠くの方からソフィアが走って来ていた。

 よし! ソフィアが来れば父さんの怒りも収まるはずだ!

 期待を込めた目でソフィアを見ていると、泣きながら走って来たソフィアが、


 「アレクのバカー! 放って行かないってさっき言った所なのに!」


 その叫びと共に、俺の左頬にソフィアの右ストレートが炸裂した。


 「ぶふぉ!」


 なんとも情けない声を出しながら俺は吹き飛び、父さんの足元まで転がった。

 起き上がろうとすると、父さんに首根っこを掴まれ、


 「お前、ソフィアちゃんを無視して先に走って来たな?」

 「そ、そんなつもりはなかったんだ……。」

 「問答無用!」

 「ぐはっ!」

 

 俺の頭に父さんから強烈な拳骨をもらい、あまりの痛さに悶絶した。

 それを見たソフィアは、俺の方を指差し笑っている。

 くそ〜。誰のせいでこんな痛い思いしたと思ってるんだよ。

 俺はソフィアの方を睨むが、本人は俺の事を完全に無視していた。


 「まぁまぁ。アレクもあなたも早く帰りますよ。明日はお客様が来るから早く寝ないと。」

 「そうだな。アレク! ソフィアちゃんに謝っておけよ。」


 そう言い残し、父さんと母さんは家に帰って行った。

 俺が痛い思いしたのに謝らないといけないのかよ。

 ソフィアの前に立ちしばらく唸っていたが、色々と諦めて、


 「ソフィアごめん。」

 「仕方ない。許してあげよう!」

 「こらソフィア。アレクくんにそんな言い方したらダメだよ。」


 上から目線で返事をしたソフィアを、ソフィアのお父さんが注意する。


 「は〜い。」


 ソフィアもお父さんに怒られたのがショックなのか、しょんぼりとした表情になった。


 「アレクくんもいつもソフィアと遊んでくれてありがとう。少しわがままな子だけど、悪気はないからこれからも仲良くしてあげてくれないか?」

 「俺達はこれからもずっと仲良しだから大丈夫だよおじさん!」

 「ふふふっ。ありがとう。さ、ソフィアも帰ろうか。」

 「わかった! アレクまた明日ね!」

 「おう! 明日は探検だからなー!」


 帰っていくソフィアの後ろ姿に向かって叫んだ後、俺も家に帰った。


 「ただいまー!」

 「おかえりなさいアレク。ご飯出来てるから手を洗っておいで。」


 母さんに言われた通り手を洗い、俺は椅子に座った。


 「今日は、蒸かし芋とサラダよ。たくさんお食べ。」

 「いただきまーす。」


 勢い良く食べる俺を見て父さんが笑いながら、


 「そんな勢い良く食べなくてもたくさんあるからゆっくり食べな。あんまり良い食べ物を用意出来なくてすまんな。」

 「全然いいよ! 母さんの料理は最高だし。」


 子供ながらに我が家は裕福ではないと知っていた為、ほんの少しのお世辞と本音を言った。

 母さんが頭を撫で、


 「アレクは優しい子だね。」


 そう言われ、俺も笑顔で母さんを見た。


 「ところで、明日はお客が来るからあんまり迷惑をかけたらダメだぞ。」

 「お客って誰が来るの?」

 「この村や他の色んな地域を治める領主さんだよ。」

 「ふーん。まぁ明日はソフィアと探検しに行くからいいや!」

 「お前は男の子なんだからちゃんとソフィアちゃんを守ってやれよ?」

 「まかせてよ!」


 自信満々に胸を叩く俺を見ながら母さんが、


 「ほら。早く食べて今日は寝なさい。」

 「わかった! ごちそうさま!」


 食べ終わると俺は椅子から立ち上がり、寝室に向かおうとした。


 「ちゃんと歯を磨いて寝るんだよ。」


 そう言われ俺は、歯を磨いてから寝室に向かった。


 「明日はどこに探検しようかな? よし、森の奥に行ってみよ!」


 ベッドに入り、明日の行く場所を決定すると、早く寝る為に目をつぶり意識を手放した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る