待宵

喜壱

01.約束






おはよう。








 僕が兄ちゃんにそう伝えたのは、何年前になるのだろうか?




 なあ、兄ちゃん。

 僕、もうあの時の兄ちゃんと同い歳になったよ。

 もうお酒を呑むこともできるよ。兄ちゃんと一緒に呑みたいな。


 兄ちゃんが吸ってたあの煙草だって、真似して吸ってるんだ。やめとけって笑って言うのかな。





 今でも思い出す。

 あの日、僕の頭に手を置いて微笑む兄ちゃんの顔を。

 


 僕の手を握る温もりを。

 


 遠ざかっていくその背中を。

 


 行ってくる、と放った声を。



 すぐ戻るから待ってろよ、って指切りした指を。








 僕との約束を破った事、怒らないからさ












 ただいま。












 そう言って玄関を開けて、はやく帰って来てよ。

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