8章24節:帝都突入

 私とリーズがレンを護衛していると、突然、未だ洗脳の影響下にあった男たちが一人残らず正気を取り戻した。

 どうやら無事にリゼッタを倒せたらしい。

 少しして、討伐に行った者達が帰還する。

 《黄泉衆》は全滅したようでレンが嘆いているが、その他の犠牲は無し。

 充分に大勝と言っていい結果である。それにも関わらず、フェルディナンドとエミルはどこか気落ちした様子だ。

 まさか見た目だけは可憐な少女であるリゼッタを殺すことになって、今更ながら罪悪感が湧いてきたか?

 いや、流石にそれはないか。エミルはともかくフェルディナンドは人間族至上主義が抜けていないだろうし、種族のことを差し置いてもリゼッタは外道そのものであり、温情を抱くような相手ではない。


 さて。敵将こそ死んだが、戦闘が終わった訳ではなかった。

 ルミナス側は領主を中心として残存兵力を結集させ、決死の覚悟で抵抗を続けているようだ。

 将軍フレデリックは彼らを掃討するべく、全軍を村に突入させ始めた。

 そうこうしているうちに、偵察に向かわせていたウォルフガングがライルと共に戻ってきた。


「リア、戦況はどうなっている?」

「一番厄介なリゼッタが死んだから、後は殲滅戦って感じ。そっちは?」


 ライルが答える。


「城壁を通過する為の通用門を見つけたぜ。衛兵も居るっちゃ居るけど、あのフレイナおじょうさまの力を借りられるならどうにかなりそうなレベルだな」


 私が頷いてレンの方を見ると、彼女は不敵に笑った。


「洗脳も収まったことじゃし、護衛はもうよい。行って参れ」

「りょーかい。頑張ってくるよ」

「良い報告を期待しておるぞ」


 短いやり取りをした後、今度はフレイナに声を掛ける。


「今のうちに行くよ。後のことは他の連中に任せよう」

「ちょうどそうしたいと思っていたところですわ。もはや崩壊寸前の軍勢を一掃するなど、わたくしの仕事ではありませんもの」


 これで状況も戦力も整った。後は完全に各々の実力と気迫次第だ。

 ウォルフガング、リーズ、ライル、フレイナ。

 少人数ながらも頼れる仲間たちだ。大丈夫、このメンバーなら勝てる。

 否、私自身の為、そしてこの戦いに命を捧げるつもりでいるリーズの為にも絶対に勝たねばならない。

 私は皆の前に立って宣言した。


「さあ、いよいよ本気を出す時だよ。この戦争を終わらせよう……私たちの手で!」


***


 移動中、ライルから詳しい状況を聞いた。

 既に連合軍主力はかなり敵側を押しているようだ。

 今まで冒険者や傭兵に露払いをさせていたラトリア王国正規軍がついに本格参戦したというのも無視は出来ないものの、やはりユウキ達や《竜の目》、聖団騎士長アルフォンスといった精鋭の活躍によるところが大きいか。

 特にアルフォンスなんかは単身で最前線に立ち、凄まじい勢いで魔族や奴らに操られた魔物の大群を屠っているらしい。

 かつて聖団領アレセイアに行った二人が言うには、彼はあらゆる魔法や異能の類を打ち消す力を持っているとのことだ。これによって敵の魔法使い共を無力化し、切り込んでいるのだろう。

 恐らく主力部隊が帝都に踏み入るまでの時間はそう残されていない。急いで魔王を討伐せねば。

 まあ最小限の人員かつ補給もないから、どの道、短期決戦を狙うしかないのだが。


 しばらく歩くとライルの言っていた通用門が見えてきた。

 敵兵が居るが、《隠匿コンシール》で気配を断った上で接近しているのでまだ気付かれていない。

 

「すぐ傍まで近づいたら一気に突破する。戦う準備しといて。あと、ライル」

「ん、どうかしたか?」

「《隠匿コンシール》を維持しながら戦うのはしんどいと思うけど、フレイナちゃんには掛けてあげて」

「ああ、分かった。お嬢様はしっかり守っておくぜ」

「それは一体どういうことですの? まさかわたくしを見くびって……」


 フレイナが機嫌を悪くしたので、私は慌てて意図を話した。


「そういうことじゃなくって。フレイナちゃんの近接戦闘能力の高さはアカデミーでの模擬戦でよく分かってるけど、《権限》で射撃をしつつ身を守るってのも厳しいでしょ?」

「それは……」

「だから気配を消しながら戦ってもらう。ライルの腕が良いとはいえ同じ場所で撃ってたら速攻でバレるから絶対に動き続けて」

「承知しましたわ……でも、そんな手間を取らせてしまって良いんですの?」

「まだ実戦経験自体少ないんだから、付き合わせてる身としては無理させられないよ。それに、うっかりきみを死なせちゃったらルアちゃんに顔向け出来ない」

「仮にそうなったとしてもあの陰険猫は『すぐ死ぬと思ってた』なんて言うに決まっていますわよ」

「もう、素直になりなよ。あの子はどう見たってきみのことが大好きだし、きみも同じ筈だよ」


 そう言うと、フレイナは「えっ!?」と驚きを見せた。

 これから戦闘しようという時に話すことでもないのかも知れないが、「無事に帰る理由」を意識して欲しくて、あえて話した。


「『大好き』って……わ、わたくしとあの子の関係は飽くまでライバル。決して友人なんかじゃありませんの!」

「なはは! じゃあそれでもいいよ。ライバルの為にも絶対に生きて帰ろう」

「そういうことなら言われるまでもありませんわ!」

「よし! じゃあ行こっか!」


 慎重に通用門に迫っていく。

 まばらに存在する木や小屋くらいしか遮蔽物が無い道をこそこそ歩くというのはかなり緊張するけれど、不安そうに震えているフレイナを見ると「自分はしっかりしなきゃ」と思えてくる。

 やがて彼我の距離が50メートル前後になると、敵兵の一人が気配遮断を貫通してこちらに勘付いたかのような素振りを見せた。


「今だよっ!」


 私の言葉と共にフレイナ以外の気配遮断が解かれ、散開する。

 衛兵および城壁の上に居る魔法使いや弓使いが一斉にこちらを狙ってきた。

 目論見通り注意は引けた。後はフレイナに頑張ってもらおう。

 敵の後衛が魔法や弓を放つよりも早く彼女は《権限》を行使、炎弾を撃って潰していく。

 まだ不慣れである為か狙いが正確とは言えないが、それでも攻撃範囲が広いお陰で充分に機能している。

 その後、遠距離の敵に対応出来る私とライルはターゲットをフレイナに変えた者を見極めて優先的に撃破。彼女が移動して気配を消せるようにする。

 距離を詰めてくる奴らに関してはウォルフガングとリーズが押さえる。


 戦闘はごく短時間で終わった。

 防御面が不安だが《ヴェンデッタ》の誰よりも優れた射程と殲滅力を有するフレイナ。

 対応力はあるものの、後衛を一気に殲滅する術は持たない私たち。

 両者の連携が上手くいったからこその成果だった。

 出来ることならフレイナをルア共々パーティに加えたいくらいだ。当然、そういう訳にはいかないから思うだけに留めておくけれど。


 ひとまず最初の懸念事項はクリアしたが、休んでいる暇はない。

 すぐに増援が駆けつけてくるだろう。

 ライルに通用門を爆破させると、私たちは速やかに帝都に侵入した。

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