離宮にて

 ギルバートは離宮に戻るとその足で王への謁見を申し入れた。すると、王のほうでもそのつもりであったのか、すぐに部屋へと呼ばれた。

「失礼いたします」

一礼して部屋に入ると、王の隣には王妃が座っていた。

「ご苦労だったな。ユリアの様子はどうだ?」

「はい。落ち着いてゆったりと過ごしています」

王に尋ねられてユリアの様子を答えたギルバートは王妃に向き直った。

「王妃様、母から、外の敵はお任せくださいとの言伝てを預かってまいりました」

「まあ、それは頼もしいですね。ありがとうございます」

ギルバートの言葉に王妃が小さく微笑む。王は少し驚きながらもクスクス笑った。

「ユステフ伯爵の奥方は穏やかそうに見えて実はかなり強かだという話は本当のようだな」

「陛下や王妃様がユリアを大切にしてくださっていることに両親は感謝しておりました。そして、もし陛下が陛下のなさろうとすることの妨げになるものを一掃なさるおつもりなら、いつでもお声をかけてほしいと申しておりました」

両親の言葉を伝えるギルバートに王は満足そうに目を細めた。

「それは心強いな。とはいえ、実際動くのはギルバート、そなただろう?」

「そうなるかと思います。もうじき、もうひとりの妹の婚約者も王都に戻り、親衛隊の所属となります。私とその者はどうぞ陛下のお好きなようにお使いください」

頼もしいとうなずいた王は妹の婚約者とは誰だったろうかと考えた。

「ユステフ伯爵の長女の婚約者。確か、男爵家の次男だったか?」

「はい。今までは自ら志願して国境警備の任についておりましたが、今回王都に戻りしだい親衛隊へと転属になります」

「そうだ。貴族の生まれながら自ら志願して国境警備の任に行き、腕もいいという。なかなかに見込みがあるからと国境警備部隊の隊長から推薦があったのだった」

王は思いだしたとにっこり笑うと満足そうにうなずいた。

「私はまだ直接その者に会ったことがないが、戻りしたい謁見の予定を入れよう。ギルバート。これからユリアの身辺はますます騒がしくなろう。できる限りのことはするが、私では力及ばぬことがあると思う。王という肩書きは、時に愛する者を守ることすら許してくれぬものだ。私より王妃のほうが自由に動けることもある。王妃にも力を貸してやってほしい」

どこか悲しげに、悔しげに言う王にギルバートは深く頭を下げた。

「もちろんでございます。私の力など微々たるものではございますが、できる限りのことをいたします」

「ありがとう」

「頼りにしていますね。いずれカリン様にお手紙など差し上げましょう。その時は取り次ぎを頼みますね」

王妃の言葉にうなずいたギルバートは一礼して退室した。


 王と王妃の元を辞したギルバートは無意識に詰めていた息を吐き出した。

 まだ家督を継いでいないとはいえ、ギルバートもユステフ伯爵家の嫡男として父の代わりに公の場に出ることも増えてきた。それでも王や王妃の前に立つことはまだまだ緊張することだった。

「父上にはまだまだ勝てないな」

普段おっとりとしていて侮られることが多い父だが、ギルバートからすれば未だに勝つことのできない人だった。剣術や知略においてはギルバートのほうが勝っているだろうが、人としての器は父のほうがずっと大きかったし、何より父は人を動かすことに長けていた。妻であるカリンや息子であるギルバートはもちろんのこと、領民たちに至るまで、父は本人たちにはそうとは気づかれずに動かすことがあった。今回のユリアの一件も、カリンのほうが動いているように見えるが、動きすぎれば伯爵が待ったをかけるだろう。伯爵が何も言わないということはまだ好きにしてもいいということ。カリンもそれがわかっているため、ユリアを守るために容赦をするつもりはなかった。

 可愛い妹を守るため、ひいては国を守るため、自分もできることをしよう、そのためには強くならねばと心を新たに、ギルバートは公爵の指導を受けるべく中庭に向かった。


 ユリアが離宮を離れた翌日、王妃は残っている妃たちとキース親子、ルクナ公爵とシアンを招いてお茶会を開いた。

「城へ帰ればこうして集まることも難しいでしょうから、せっかくの機会ですしたくさんお話いたしましょう」

そう言って小さく微笑む王妃に、妃のそばに控えていた侍女たちは驚いていたが、当の妃たちは驚くことなく微笑みながらうなずいていた。

「ユリア様のことも心配ですしね。城へ戻ればいらぬ噂話なども流れましょう」

「そうですね。ここに連れてきている侍女や侍従たちは皆信頼しておりますけど、どこからどう話が漏れるかわかりませんし」

微笑みながら言うカリナにイリーナ。それにうなずくのは公爵だった。

「そうですね。しかしながら、後宮は王妃様が掌握なさっておいでです。ユリア様や他の妃の方々に害をなそうという者はそうそういないでしょう」

「そう願います。わたくしは後宮を預かる者として妃の皆様を守る義務がございますから」

「何かありましたらいつでもお声をかけてくださいね。妻はともかく、私や息子たちがお役にたてることもあるでしょう」

何か決心したように強い目をしている王妃にキースも微笑みながら言う。王妃はにこりと笑うと「ありがとうございます」と軽く会釈をした。

「皆様、頼りにしておりますね」

王妃の言葉に茶会の出席者たちはそれぞれ真剣な表情でうなずいた。

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