第39話 暗黒剣に消える
「なんということを・・・」ワーロン将軍は真っ青になって、それ以上の言葉を失った。愛する娘を自らの手にかけるとは・・・。体の力が抜けてしまったようでその剣を床に落とした。もはや彼には戦意はなくなってしまった。あまりのことにサランサの亡骸のそばに行くこともできない。
だがその光景を見ていたマデリーがイライラしながら広間に出て来た。役立たずどもよと。そして不甲斐ないワーロン将軍に向かって怒鳴った。
「何をしているのです! さっさと片付けなさい! 裏切り者の娘のことなど忘れてやるのです!」その目は冷酷で邪悪に染まっていた。その言葉にワーロン将軍の目も邪悪に染まり、急に薄笑いを浮かべて戦意を取り戻した。それは服従魔法にかかっている者の挙動に違いなかった。
「こうなったら貴様たち、皆殺しだ。」剣を拾うと呪文を唱えた。するとその剣は赤黒く染まった。
「
「我が力を見よ!」ワーロン将軍は、試し斬りとばかりに近くで身構えていた衛兵を斬り倒した。すると衛兵の姿は一瞬にして消えていった。やはり暗黒の剣はうわさ通りに恐るべき剣だった。
しかしリーカーはそれにひるむことはなかった。彼は必ずワーロンを倒さねばならなかった。死んだ妻にため、エミリーのため、そしてエリザリー女王とこの国のために・・・。
「ワーロン、行くぞ!」リーカーは魔法を剣に込めるとワーロン将軍に向かって行った。
「***
「***
様々な技を繰り出すが、暗黒の剣を使うワーロン将軍にことごとくはね返された。またそれだけではなかった。強力な魔法を使いすぎて、全身に
「それだけか。それならこちらから行くぞ!」ワーロン将軍が反撃してきた。リーカーはそれを何とか剣で受け止め、避けていた。だがそのうちにその剣がリーカーの体を捕らえた。すると「ガン!」と鈍い音を立てた。
「ん?」思いもよらない手ごたえにワーロン将軍は戸惑った。しかしその謎はすぐに解けた。
「貴様!
「それがどうした。我が身がどうなろうと構わぬ。お前の陰謀を止めることができたのなら。」リーカーは言った。
「貴様はいずれにしても死ぬ。魔法を使いすぎて鉄になるか、儂の剣を受けて消えるかだ。」ワーロン将軍が言った。
「その前にお前を倒す!」リーカーは剣を握り直した。
「それ!」ワーロン将軍が次々に剣を繰り出してきた。リーカーは何度も剣で受けとめていたが、その暗黒剣の威力についに剣を飛ばされてしまった。
「しまった!」
「死ね!」ワーロン将軍が剣を振り下ろしてきた。それをリーカーは頭上でなんとか両手で挟んで受け止めた。両手から煙が上がり、鋭い痛みが走るが、リーカーは歯を食いしばって耐えた。しかしワーロン将軍がさらに力を籠め、剣がじりじりとリーカーの顔に迫っていた。
「うむ・・・」リーカーも力を込めた。そして受け止めた剣を横に倒すと、鉄で硬化した肘でワーロン将軍に打撃を与えて、蹴り飛ばした。
「ぐうっ!」ワーロン将軍も剣を飛ばされて、痛めた腹を押さえた。リーカーは飛び上がって自分の剣を拾った。
「ワーロン覚悟しろ! ***魔道剣*
リーカーは最大の魔法の力を込めて、その剣をワーロンに向けて突いていった。
「グサリッ!」剣が体を貫いた。
しかしそれはワーロン将軍ではなかった。リーカーの背中をワーロン将軍の暗黒の剣が貫いていた。リーカーの剣はワーロン将軍に届かず、そのまま床に落ちた。
「見たか! 魔法で剣を操って貴様を貫いたのだ!」ワーロン将軍は大声を上げた。
「うううっ!」リーカーは口から血を流してガクッと片膝をつき、両手を床につけた。だが何とか、まだ倒れずにいた。彼はただ悔しそうな顔をして上目使いでワーロン将軍を睨んでいた。
「貴様など、儂の敵ではない!」ワーロン将軍はリーカーの背中に刺さる暗黒の剣を引き抜いた。
「ぐわっ!」リーカーは声を上げた。その背中の傷から血がどくどくと流れ落ちた。それを見てワーロン将軍は邪悪な笑みを浮かべると、
「止めを刺して消滅させてやる!」と剣を振り上げた。その残酷な光景に一同は顔を背けた。
だがただ一人、そこに駆け寄る者がいた。
「パパー!」それはエミリーだった。そして彼女の必死の思いに体内に眠る強力な魔法力が覚醒した。体が輝き、それにリーカーの魔道剣が反応した。「ビューン!」とその剣は飛んできて彼女の手に収まった。エミリーはその剣をしっかり握るとワーロン将軍に突っ込んでいった。
「何だと!」あまりのことにワーロン将軍は驚き、その動きが完全に止まった。エミリーの剣はまばゆい光を放ちながら、
「バーンッ!」とワーロン将軍の体を貫いた。真っ黒な血が辺りに飛び散った。
「ううっ・・・こ、こんなことが・・・」ワーロン将軍は信じられぬという風に目を見開き、やがて苦痛に顔をゆがませるとそのまま消えていった。飛び散った血の一滴までも・・・。そしてその暗黒の剣も床に落ちて消滅していった。
「ワーロンが消えた・・・」マデリーはつぶやいた。だが彼女はまだあきらめていなかった。この上は自分がここにいる者を操って・・・。
だがその目論見は崩れた。そこに満身創痍になったマークスが剣を杖代わりによろよろと壁を伝って現れた。
「女王様は無事だったか・・・」彼はホッと息を吐いた。だがマデリーがそこにいて何かを企んでいるように見えた。
「これはいかん!」マークスは呪文を唱えて剣に封じた。そしてマデリーに向かって投げつけた。
「
それはマデリーの近くの床に突き刺さった。マデリーは邪悪な魔法で周囲の者を操ろうとしたが、それが封じられてしまった。もう誰も味方がいなくなったマデリーを皆が冷たい目を向けた。それはマデリーの心に「グサッ! グサッ!」と突き刺さった。
「見るな! 見るな! 私をその様な目で見るな!」マデリーは発狂したかのように叫んだ。だがそこにいる全員が彼女に非難の目を向けるのを止めようとしなかった。彼女はその視線に耐えられず、そのまま魔法でその姿を消した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます