第28話 剣と剣

「その決闘を受ける!」門のところからリーカーが現れた。

「リーカー。やめるのだ!」ナガス管長は止めようとした。

「いえ、お止めくださるな。剣士として決闘を申し込まれたからには逃げるわけにいかぬ。」リーカーはマークスの前に出て来た。

「いい心構えだ! リーカー! 剣士の生き様を教えてやる!」マークスは剣の柄に手をかけてリーカーとの間合いを詰めてきた。

「マークス様!」ミラウスが剣を抜いてそばに寄ろうとしたが、

「来るな! これは1対1の決闘だ! 手出し無用!」とマークスは声を上げた。それを聞いてミラウスは思いとどまった。リーカーも剣の柄に手をかけた。

「姑息な魔法など使わぬ。正々堂々かかって来い!」マークスは言った。両者は柄に手をかけたまま、その間合いを保ちながら左に回り始めた。言い知れぬほどの緊張感が辺りを包んでいた。

(腕前はマークスの方が上だ。しかしリーカーには必死さがある。それを考えると五分と五分・・・はたして・・・)2人の戦いを見ているナガス管長はそう思っていた。2人はにらみ合ったままそのまましばらく時間が流れた。

「ヤーッ!」その静寂を打ち破ってマークスが剣を抜いてリーカーに斬りかかった。リーカーも剣を抜いてその剣を受け止めてはね返すと、今度は斬りかえした。だがそれをひらりと避けたマークスが剣を振り下ろしてきた・・・両者の剣がぶつかって火花を飛ばしていた。

「マークス様・・・」ミラウスは加勢できない自分を歯がゆく思っていた。自分であれば魔法力をフルに使ってリーカーをすぐに葬るのに・・・なぜ、マークス様は剣士としてのメンツにこだわるのか・・・ミラウスは唇をかんでいた。

 リーカーとマークスは剣を合わせ、また離れ、そして駆け回り・・・門から離れて丘の方にまで戦いの場を移していた。お互いに五分と五分、死力を尽くしていた。

「カキーン!」また剣が合わさり鍔競り合いになった。お互いに顔と顔を向け合った。

「リーカー! エミリー様だけでもこちらに渡すのだ!」マークスが言った。

「エミリーは渡せぬ。亡き妻に誓ったのだ。エミリーを守り抜くと!」リーカーは声を上げた。

「貴様は追われる身だ。エミリー様まで危険が及ぶ。」

「いや、私が狙いではない。エミリーが狙いなのだ。」

「なに!」マークスは驚いた。

「ワーロンが企んでいる。いや、その背後に何者かがいるのだ!」リーカーはそう言って剣を押し戻してマークスから離れた。2人の間に少しばかり距離ができた。

「しかしこうなったからには剣士としての意地がある。貴様を倒す!」マークスは剣を大上段に構えた。

「望むところ・・・我らは道を切り開かねば前に進めぬ。」リーカーも剣を構えなおした。

「いざ!」2人が必殺の剣を放とうとお互いに駆け寄った。そして両者は交差し、

「カキーン! グサ!」と音が響き渡り、そのまま通り過ぎた。しばらく2人は動かずそのままだった。

 しばらくしてリーカーが振り返った。肩から袈裟斬りに斬られていたがそこは鉄に置き換わっており、リーカーは無事だった。

「リーカー! 見事だった・・・」そう言うとマークスは崩れるように倒れた。リーカーも振り返ってマークスを見た。マークスは深手を受けていたがまだ生きていた。彼は何とか身を起こした。

「さらばだ。」リーカーが声をかけた。

「なぜ止めを刺さぬ? 生かしておくとまた貴様を斬りに来るぞ。」マークスは息も絶え絶えに言った。

「あなたにはもはやその気はないはず・・・」リーカーはその場を離れた。

「待て!」ミラウスがその後を追おうとしたが、

「追うな!」とマークスが声を上げた。

「なぜです!」

「今回のことは陰謀のにおいがする。予想もつかないほど大きな・・・。だからリーカーを斬っても解決せぬ。だからお前に頼みがある。」マークスが言った。

「何でしょうか?」ミラウスが聞いた。

「王宮のサランサ様の元へ行け! サランサ様のお力を借りて、一体、何が行われているかを調べるのだ。そして魔騎士の誇りにかけて女王様をお守りするのだ。」マークスはそう言った。

「はっ。心得ました。」ミラウスは頭を下げた。

「さあ、行け!」

 マークスのその言葉にミラウスは魔兵を連れて王宮に向かって行った。マークスはかすかに見えるリーカーの後姿を見て、

「リーカー! 貴様の意志は確かに受け取った。このマークス、王宮の陰謀を阻止する。この傷が癒えたら王宮に向かうからな。それまでは生きているのだ。」と言った。


 寺院の門のところにはエミリーが心配して出て来ていた。彼女はリーカーを見ると、

「パパ!」と声をかけて駆け寄った。リーカーはエミリーを抱き上げると、

「ここから出るぞ!」と言った。

「ここから行かれるのですか?」ナガス管長は尋ねた。

「はい。私の居場所が知れた以上、ここには私を狙う魔騎士たちが押し寄せるでしょう。大変なご迷惑をかける。私は自らの道を切り開くため、エミリーと別の場所に移ります。」リーカーは言った。

「そうか。ならば止めはせぬ。くれぐれも気をつけてな。」ナガス管長はそう言った。

 リーカーとエミリーはまた道を歩き始めた。彼らを狙う追っ手から逃れるために・・・。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る