十五章 少しの変化が起こる日
エドワードの頼みを聞いて、キールから警戒心を持てと言われた翌日。
リリアーナは花の水やり当番の為花壇の前にいた。
「今日もいい天気……平和だな~」
「リリアーナ様。本日も麗しゅうございます」
ご機嫌に鼻歌を歌いながら水やりをしていると背後から溜息が聞こえ振り返る。
「エミリーではりませんか。私に何か御用でもありまして?」
「いいえ。本日も親衛隊のお仕事ですわ。何時如何なる時でもこうして側でお見守りいたしておりますので、安心してお過ごしくださいませ」
そこに立っていたエミリーへと問いかけた。それに彼女が首を振ってにこりと笑い答える。
「前から気になっていましたが、私とエミリーさんて特に親しい間柄ではありませんでしたわよね。それなのに如何して私の為に親衛隊などお作りになったのですか」
「そ、そうですわよね。今まで特に接点もなかったのですから、行き成りで戸惑われましたわよね。わたくし、エル様のあのように明るく穏やかな姿は生まれて初めてみましたの。ですから、エル様の御心を動かしたリリアーナ様の事をとても尊敬いたしておりますのよ。ですので、その日からずっとリリアーナ様の為に何かしたいと考えておりましたの。それで、親衛隊を作ったのですわ」
ずっと疑問に感じていたことを訊ねるリリアーナへとエミリーは答えた。
「エル様の心を私が動かしたですって? そ、そんなふうに思われていたなんて……エミリーさん。それは違いましてよ。エル様が最近穏やかになり明るくなったのはメラルーシィさん達のおかげで、私は何も――」
「まぁ、何と謙虚な。ご自分のご活躍なのにご友人方に譲るそのお優しきお心。わたくし感激いたしましてよ」
エルシアが変わったのはメラルーシィ達のおかげだと話す彼女に、エミリーが感涙しながら言葉を遮る。
(人の話全然聞いてくれない……)
「リリアーナ様は本当にお優しいお方でしたのね。わたくし貴女様の事を知れて嬉しいですわ。わたくしリリアーナ様とご友人になりたいのです。ですから、これからも仲良くしてくださいますか」
内心で呟き溜息を吐いていると彼女がもじもじしながら勇気を出して問いかけるように言う。
「よくわからないけれど、友人になるのに基準なんてなと思いますわ。ですから、エミリーさんと私が友達になる事に許可なんて必要ないと思いましてよ」
「リリアーナ様……そうですわよね。わたくしどうしてもこういうことに慣れておらずに……これからもよろしくお願い致しますわ」
その言葉の意味が分からなかったがリリアーナの想いを伝えると、エミリーが驚き目を見開いた後微笑みそう言った。
「えぇ。また一緒にご飯食べたりお話したりしましょうね」
「はい。それでは、またお昼をご一緒させて頂きますね」
彼女の言葉にエミリーが答えると笑顔で手を振って立ち去る。といっても物陰に戻っただけなのだが。
(まさか、ああやって私を見守ってるって事?)
物陰からすごく熱い視線を感じながらリリアーナは小さく苦笑を零した。
それから時間は経過し、夕方下校の時間となった頃。リリアーナはメラルーシィと組んだ読書会をするため図書室へと向かっていた。
「メルまだ来ていないみたいね」
図書室には人はおらず誰もいない空間に目をやり呟くと、彼女が来るまで適当に本を手に取り読もうと棚へ向かう。
「危ない」
「へ?」
そこに誰かの声が聞こえてきたと共に上から本が大量に落ちてくる。
「すみません。誰もいないと思って本棚の整理をしていました。……大丈夫ですか?」
「私は大丈夫ですわ。って、ロト?」
本が頭にぶつかると思い固く目を閉じていたがいつまでも衝撃が来なくて、代わりに申し訳なさそうな声が聞こえ目を開けるとリリアーナの目の前にシャルロットが立っていた。
「貴女に怪我がなくてよかったです」
「どうしてロトがここに? あ、貴方も本を読みに来たのね」
申し訳なさそうな顔で微笑む彼に彼女は尋ねる。
「僕は図書係なんです。この時間帯は人があまり来ないので本棚の整理をしていたのですが、手を滑らせて棚の中の本を落としてしまいまして。すみません」
「図書係……そうだったのですね」
(あのモブキャラ君が図書係だったなんて新たな発見だわ)
シャルロットの言葉に頷きながら、新たな発見をしたと内心で同時に声をあげて、彼の顔をまじまじと見詰めた。
「どうしました?」
「い、いえ。何でもありませんわ。あの、今まで忘れていたのですが、私とロトって昔一度お会いしたことありましたわよね」
余りにも見詰めすぎていたため不思議そうにシャルロットが尋ねてくる。それに慌てて取り繕う様に話題を変えるリリアーナ。
「!? ……覚えていてくださったんですね。幼い頃に一度しか会ったことが無かったので、もうお忘れになったと思っていたのですが……」
「私もつい最近まで忘れていましたの。でもロトと会って思い出しまして」
(本当はリリアが教えてくれた事だけれど)
驚いた後少し寂しそうに瞳を陰らせ語る彼に彼女は話した後内心で呟き空笑いをした。
「……」
「……」
(何、この微妙な空気は?)
急に黙り込んでしまったシャルロットの様子に冷や汗を流しながらどうしようと考える。
「お姉様、お待たせいたしました。遅くなってしまい申し訳ございません」
「ご友人がいらしたようですので、僕はこれで」
「あ、ロト……」
そこに空気を壊すようにメラルーシィの明るい声が聞こえてきて、彼がにこりと微笑むと作業に戻るように本棚へと歩いて行ってしまう。
つい呼び止めてしまったが、だから何かを伝えたいというわけではなく、リリアーナは伸ばしかけた手を下ろす。
その後は同じ空間にいるにもかかわらず特に話すこともなく、メラルーシィと読書会をして過ごした。
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