第九章 お友達計画
フレアとの出会いから数日が経ち、リリアーナはお昼休憩のチャイムを聞くと同時に教室を出た。
「やってしまった……まさか今日学食がお休みの日だったとは」
そう、今日の授業は午前中まででお昼ご飯はお弁当を用意する日であったのだが、それをすっかり忘れてしまっていて、今日も学食を食べるつもりでいたため何も持ってきていなかったのである。
「うぅ……お昼休憩終わったらすぐに下校になるとはいえ、何も食べずに過ごすっていうのはつらいよ」
空腹でお腹の虫が鳴くたびに恥ずかしさで頬を赤らめた。せめて誰にも出会わないようにと裏庭にある小さな森へと向かう。
「あ。お姉様……」
「っ!? メ、メラルーシィさん?」
(誰とも会わないようにって思ってここに来たのに、何でメルがここにいるのよ)
森の中へと入った彼女へと誰かが声をかける。その声に反応しそちらへと振り返るとメラルーシィがまるでピクニックしているかのようにビニールシートを広げその上へと座っていた。
「お姉様もここでお昼ですか?」
「ぅ……」
嬉しそうに微笑み尋ねてくる彼女へとリリアーナは必死にお腹の虫がならないことを祈る。
「あ、そうでした。この前お姉様私のお弁当を食べたいって言ってましたよね」
(そ、そんなこと言ったっけ?)
何かを思い出したメラルーシィがカバンの中を探ると可愛らしいピンク色のお弁当箱を取り出す。
「はい。お姉様のために心を込めて作りました。どうぞ召し上がってください」
(メルの手作り弁当!)
優しい微笑みを浮かべ差し出されたお弁当にリリアーナは内心で叫ぶ。
「し、仕方ありませんので、食べて差し上げますわ」
(おぉ、メル。あんたは私の救世主だよ! これでお腹の虫を気にしなくてすむ)
空腹に耐えられなかった彼女は渋々といった様子を装いながら差し出されたお弁当を手に取り広げる。
「い、いただきます……はむ」
「……どう、でしょうか? 美味しくできていたら良いのですが」
震える手でホークを持ち興奮する気持ちを押し殺しながら一口食べた。メラルーシィが不安そうな顔で尋ねてきたが彼女は返事をせずただ無言で次から次へと口の中へと料理を運ぶ。
(ん~ん! 最高! 幸せだよ。メルの手作り弁当を生で食べられるなんて私はなんて幸せ者なの)
「お姉様……ふふ」
眩い笑顔で一心不乱にお弁当を食べるリリアーナの姿に彼女は嬉しそうに微笑む。
その少し前に森の中へとやって来た二人の人物。
「たしか、この辺りだって言っていたよね」
「あぁ。そのはずだけど」
顔のそっくりな双子。以前クイズ対決でメラルーシィ達を助けたルーティーとマノンである。
「あ、あそこにいるわ」
「待て、メルの隣にいる奴ってこの前メルをいじめてたやつだろ」
メラルーシィの姿を見つけたルーティーが駆け寄ろうとするのをマノンが止めた。
「本当だ。何してるのかしら?」
「またメルをいじめる気じゃ……」
そう思い二人で様子を見ようと頷き茂みの中へと隠れる。
「なんか、メルのお弁当を食べてるみたいだけど……」
「そのようだな」
「お姉様に喜んでもらえて嬉しいです」
二人が様子を見守っているとメラルーシィが口を開く。
「あ……」
(ついつい夢中で食べてしまった)
弁当箱が空になった頃に我に返ったリリアーナは恥ずかしさで頬を真っ赤に染める。
「メ、メラルーシィさん。このお弁当美味しかったですわ。でも、私がこんな事言ったなんて絶対に他の人には特にエル様には言わないように」
「はい。二人だけの秘密ですね」
慌ててお弁当箱をつき返すと明後日の方角を見ながら捲し立てて話す。
その様子にメラルーシィはお弁当が美味しかったと言ってもらえて嬉しくて顔をほころばせた。
「そ、それでは私はこれで」
リリアーナは言うと立ち上がり校舎の方へと戻って行った。
「……ねぇ、マノン。リリアさんて悪い人なのかと思っていたけど」
「うん。案外いい人なのかもね」
茂みの中から様子を窺っていたルーティーとマノンは顔を見合わせこそこそと話し合う。
「リリアさんはきっとエルさん達にこき使われてるんだわ」
「つまり、その人達から引き離せばいいわけだね」
彼女の言葉に彼も頷き話す。
「リリアさんを助けるために……」
「リリアをエル達から引き離すために……」
「「目指せお友達計画!」」
二人は頷き合うと声をそろえて宣言すると腕を空へと向けて突き出した。
その頃リリアーナは……。
「へくしゅん な、なんだろう。風邪かな」
お友達計画が開始された事など知ることもなく小さなくしゃみを一つついて身震いしていた。
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