第32話 屑(ゴミ)処理は完璧に
side.ヴァイス
「さてと」
すべきことは二つ。
スフィアに求婚届を送ってきている連中と話し合って、丁重に事態をお願いすること。
そして、屑の処理だ。
「まずは屑ゴミ処理かな」
◇◇◇
side.アリエス
「きゃっ」
この私が罪人なんてあり得ない。そう思っていたら神様が私の願いを叶えてくれた。私を哀れに思った騎士が私を牢屋から出してくれた。
騎士の案内でやって来たのは寂れた場所のぼろい一軒家。
貴族の令嬢である私をこんな所に連れてくるなんてどういうつもりかしらと文句を言いたかったけど色々あり過ぎて疲れていたので今は大人しく従うことにした。
「スフィア、覚えていなさいよ」
私をこんな目に合わせておいてタダではすまないんだからとスフィアに思い知らせてやることを心に決めながらボロ屋に入るとそこにはワーグナー殿下がいた。
王子である彼が権力を使って愛する私を助けてくれたんだわ。スフィアと違って私は愛されている。
感極まって私はワーグナー殿下に抱き着こうと駆け寄った。するとワーグナー殿下は私の頬を殴ったのだ。あまりの強さに私の体は後ろに傾き、汚い床にお尻をつけてしまった。
一瞬、何が起こったのか分からない。
殴られた衝撃で歯が抜けて床に転がる様を見て、ジンジンと熱を持つ頬に触れる。殴られたのだと理解してから痛みを感じた。
「スフィアに手を出したことは責めはせん。寧ろよくやったと褒めてやる案件だ。この俺に迷惑をかけなければの話だが」
「は?」
汚い床に転がる私を起こそうともせずにワーグナー殿下は私を睨みつけながら言う。
「この俺に釣り合う為に行動したことも可愛げがあって好ましい。だからこそ、わざわざ男爵令嬢であるお前を選んでやったんだ。お前が公爵家の養女になることがあの時点では確定されていたからな」
何それ。私が公爵家の養女になる話が持ち上がっていなかったら私を選ばなかったってこと?
あんな地位だけの女に私が負けるとかあり得ないんだけど。ワーグナー殿下、さっきから何を言っているの。
「もっと上手くやればいいものを。お前のせいで俺まで平民だぞ!この俺が!王子である俺が、選ばれた人間である
俺が平民なんてあり得ないだろうが!どうしてくれるっ!」
「は?」
平民?誰が?目の前の男が?
「どういうことよ、それ。何であんたまで平民になってんのよ!マジであり得ないんだけど。平民のあんたと婚約してたって何の意味もないじゃない。あんたが王子だから婚約したのに、こんなの最悪だわ。私の人生計画が台無しじゃない。どうしてくれるのよ」
「お前、王子である俺にそんな口を利いていいと思っているのか」
「はぁ!?あんたさっき自分で平民になったって言ってたじゃない。頭、大丈夫?あんたはもう平民なんでしょう。王子じゃないのよ。王子じゃないあんたに何の価値もないじゃない」
「何だとぉっ!」
「だってそうでしょう。あんたなんて馬鹿だし、横暴だし、エッチだって痛いだけで下手じゃない。それでもあんたが王子だから付き合ってあげてたのに。もうっ!最悪っ!」
「なん、ぎゃあっ」
またお得意の暴力を振るって来ようとしたワーグナー殿下を前に身構えたけど、ワーグナー殿下の間抜けな悲鳴が聞こえた。
ワーグナー殿下は口から泡を吹いて床に倒れた。
「え?何?何なのよ、急に」
「がっ、あがっ、あ゛っ」
ワーグナー殿下は首を押さえながら苦しみ出した。
「何よ、何なのよ、もうっ」
私は訳が分からなくて、怖くて、その場から逃げ出した。ボロ屋を出てすぐ、何かに足を取られて転んだ。
「もうっ!何なのよっ、ひっ」
足に何が引っかかったのか確認しようと体を起こすと蛇が私の足に巻き付いていた。
「あ゛っ、ぐあ゛っ」
足を噛まれて直ぐに息ができなくなった。毒蛇だと分かった時にはもう体が動かない。
地面の上でのたうち回る私の首を誰かが掴んだ。ズルズルとその人は私を引きずりながら私が逃げ出したボロ屋に連れて来た。
ボロ屋にはまだ泡を吹いて苦しんでいるワーグナー殿下がいた。彼の体には無数の蛇が群がっていて、噛み痕も複数あった。
ワーグナー殿下の元に私の体は放り投げられた。
「愛する人を置いて行っちゃダメだよ。愛しているのならずっと、死ぬまで、死んでも一緒にいるべきだろ。それが人を愛するということだ」
‥‥…ヴァイス殿下
◇◇◇
side.ヴァイス
燃え盛るボロ屋を見つめる。
「これで屑ゴミ処理、完了」
彼女の父親であるアトリも既に地獄へ送った。これでスフィアを害した者たちはいなくなった。
「そろそろ、スフィアに俺のことを話さないとな」
本当のことを話したらスフィアは俺のことを嫌いになるかもしれない。俺のことを拒絶するかも。顔も見たくないと思われるかもしれない。もし、そうなっても俺はスフィアを放してあげることができない。
「俺もあいつらと変わらないな」
スフィア、幸せにする。
誰よりもあなたを愛すると誓う。だからどうか、真実を知っても俺のことを嫌いにならないで。愛してとは言わない。心が欲しいと乞うことはしない。だからどうか、傍に居ることを許してほしい。
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