第二章 夢の国から

 眠れ。眠れ。心安らかに。眠れ、眠れ。夢の中で幸せになれ。

 

 甘い匂いに包まれて僕は揺られていた。優しいその声は僕に降り注ぐ。どこか悲しい声は段々と薄れて僕の視界は開いた。黒猫が一匹、通り過ぎる。


「ランタオ、起きたのね。さぁ、朝ごはんの時間にしましょう」


 僕と同じ色のピンクの髪の毛をきらめかせて、女性は言った。


「あら、どうしたの不思議そうな顔をして」


 心なしかぼんやりとして見える女性はゆらゆらと近づいてくる。その手が頭の上にきて、左右に行ったり来たりした。


「どうしたの、ランタオ。母さん心配よ」

「.......母さん」


 そうか、夢を見ていたのだと気づきはっとする。ずいぶんと長い間眠っていたかのような感覚だ。


「母さん、お腹すいた」


 そういうと母さんは笑って僕に朝食を出してくれた。やわらかいパンとシチューを口に含んで、頬に温かいものがすうっと落ちた。


「泣いてるの、ランタオ」

「.......うん、なんかよくわからなくて。懐かしい夢を見ていたような」

「不思議なこともあるのね、さぁ冷める前に頂きなさい」


 いただきます、と涙を流したまま食べるパンは不思議な味をしていた。


 

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