魔法の国から

赤井

第1章 ランタオと石  

 暗い空間の中で揺れる光が一つ。男がランタンを持ち上げると、男の周りに岩肌が浮かぶ。男の名前はランタオ。時折こうしてこの洞窟を訪れては何かを探している。


「見つけた、見つけた!」


 今回はいつもと様子が違った。ランタオは岩肌の窪みに触れた。ランタンの光である鉱石の存在が浮き彫りになる。鉱石の光が洞窟全体を包み込むように光り輝く。ランタオは驚きを露わにして飛びのいた。


 光は赤黄緑青......と七色に輝いたあとに膨らむようにして弾けた。呆然と座り込んでいたランタオだったが、やがて意を決したように近づいてその石を触る。石はまだ光を包み込んでいた。


「その男、石に触れるとき、光現る」


 今度は女の声が聞こえて、ランタオは尻もちをつく。


「なんだ、光の英雄はひよこか」


 腕を組んで、女はため息をついた。金色の髪が暗闇でも輝いている。


「だ、だれだ......? 」

「リアンだ、よろしく」

「リアン.....よろしく? 」

「お前は、しゃきっとしろ」


 喝を入れられて、ようやくランタオの背筋が伸びた。ランタオはふかふかした帽子を取って頭を軽く下げてまた石に目を戻した。


「あなたも知っているんですね、僕のこと」

「知っているも何も、ずっとお前を待っていたからな。しかしお前だったか」


 ランタオは怪訝そうにリアンの顔を覗き込んだ。


「待っていた......? しかしお前だったか? 」

「ああ、いや。すまん説明不足過ぎたな。私はここの守り神に頼まれて、ここの番を長いことしておった。頼まれるときにお前のような男が来ることを知らされておったのだ。お前のことは何回か来るのを見ていたが、やっと見つけたようで」

「もしかして、石の守り族ですか? 」

「さよう。この洞窟は石の守り族の敷地内にあるからな。お前、ここまではいつもどうやって来ていたのだ? 」


 ランタオは首をかしげて、石を見つめた。


「うーん、難しいな。隣の孤島、って言ったらわかりますかね? 」

「孤島......知らないな」

「僕、物心ついた時からずっとその孤島で暮らしていたんです」

「一人で......? ここの近海は嵐も多いし一人で住むには難を極める。お前が一人で住めるとは思えないが」

「火の焚き方や道具の作り方、魚の釣り方、獲物の仕留め方などは先生が教えてくれました」

「先生?お前は難しいことを言うな。人間はお前ひとりなんだろう? 」

「そう、人間は僕一人」


 ランタオは意味ありげに微笑んで岩の窪みから掘り出して石袋へしまってしまった。


「よくわからないが。とにかく一人では返さないぞ」


 洞窟に今までは気にも留めなかったしずくの滴る音がランタオにはとても大きく聞こえた。

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