14:眼前の行為

 新学期が始まると、瞳ちゃんから連絡が来て「弥生がもう学校に行っちゃったって」と連絡が来た。

 俺たちに黙ってさっさと登校してしまったらしい。

 俺は瞳ちゃんと合流すると、2人で登校をすると弥生はミチルたちと仲良さそうに話していた。

 その光景を目にした俺は、極力冷静さを保った状態で弥生に話し掛ける。


 すると、「ごめんね。忙しかったんだ。それでコタくん。放課後に体育館裏に来てくれないかな? もちろん一人でお願いね」と弥生から言われた。

 弥生の声を聞くの本当に久しぶりだな。

 俺はそんなことを一瞬考えたあとに、ついに俺は弥生から振られてしまうのかと思うと、テンションが思いっきり下がりしてしまった。


 放課後になって体育館裏に行く前に、俺は瞳ちゃんに「これから話をしてくる」と伝える。

 瞳ちゃんは「心配だから私もついて行くね。陰に隠れてるから安心して」と言うのでついて来てもらうことにした。


 体育館裏に行くと、弥生はもうすでに待っていた。

 周りを見渡してもミチルの姿はない。

 本当に一人で来ていたようだ。


 俺は何も知らない感じで、「弥生どうしたっていうんだよ? 夏休みに何があったんだ?」と聞いてみた。



「予定があるって言ったでしょ?」


「だからそれがなんの予定だったのかって聞いてるんだよ」


「コタくんと同じことしてたんだよ? コタくんも忙しかったみたいだもんね?」


「同じこと? 弥生もバイトしてたのか?」



 俺と同じこと?

 弥生は何を言ってるんだ?

 バイトをしていないのは知っていたが、俺と同じことの意味が分からずについ聞いてしまう。



「ううん。バイトなんてしてないよ。――まぁ、いいや。コタくん。もう私たち別れましょ?」



 やっぱり来たか。

 そうだよな。

 もうミチルと何度もデートしたりエッチしてるんだもんな。

 俺よりも好きなんだろう。

 だけど、理由くらいは聞かせて欲しい。



「は? 別れる? なんでだよ?」


「だってもうコタくんより好きな人がいるんだもん。裏切ったあなたよりも好きなの。傷付いた私を癒してくれた大切な人がいるの」



 俺が裏切った?

 そして、傷付いた弥生を癒してくれただって?


 弥生が言ってる意味が分からずに、言葉を出すことが出来ないでいると、体育館の影から男が近付いてくるのが分かった。

 その男とはミチルだ。



「おい、ミチル。なんでお前がここにいるんだよ?」


「今の話を聞いて察してるだろ?」


「何を――」



 俺はミチルのニヤついた顔にムカついて詰め寄ろうとする。

 するとミチルは弥生の顎を掴んでキスを始めたのだ。

 弥生はそれを受け入れるどころか積極的に首に腕を回してキスをしていた。

 しかも普通のキスじゃない。

 舌と舌が絡み合った濃厚なキスだった。


 俺はその光景に耐えられず「や、やめてくれ――」と懇願し、気付いたら涙を流していた。

 そのお願いは2人の耳には届いていないのか、さらにキスは激しくなりミチルの手は弥生の胸を揉みしだいていた。

 弥生は「あっ……んふぅ……あん………」と気持ち良さそうな声を出しながら、下半身とミチルのものに擦り付けている。


 それを見せつけられた俺は耐えることが出来ずにその場に嘔吐してしまった。

 俺のその姿を見ても弥生はキスをやめようとしない。

 それどころか行為はさらに激しくなっていく。


 そして、俺に見せつけるのに満足したのか「あぁ、汚いなぁ。そういうことだからさ、もう私に関わらないでね、浜崎くん」と今までに聞いたことのないような冷たい声で俺に訣別の言葉を告げた。

 その場に崩れ落ちていると後ろから、「これからエッチしにいこ」と弥生の甘えた声が聞こえてきた。




 ―




 瞳ちゃんは崩れ落ちる俺の元に来てくれて、またハンカチで口元の汚れを取り除いてくれた。

 この子には情けないところを何度も見せちゃってるな。

 そのまま俺は瞳ちゃんと一緒に下校をして、また公園のベンチに座って話をしている。


 正直俺の今の感情はグチャグチャだ。

 ハッキリ言って何もする気が起きない。

 そんな俺に瞳ちゃんはずっと寄り添ってくれている。



「瞳ちゃんもう帰っていいよ。俺のことなんて放っといてもいいからさ」



 自嘲気味に笑いながら、俺のことを放っといてくれと伝える。



「ううん。出来ないよ。こんなに傷付いてる鼓太郎くんを残して帰ることなんてできない」



 瞳ちゃんの方に顔を向けると、涙を零しながら真剣な眼差しを向けていた。

 その真っ直ぐな目を俺は直視することができずに目を逸らしてしまう。



「ダメ。私の方を見て」



 そう言うと、瞳ちゃんは両手で俺の頬を挟むと、グイッと自分の方に顔をむかせた。

 瞳ちゃんの顔が凄く近くにあって、さっきあんなところを見せられたというのに俺はドキドキとしてしまった。



「鼓太郎くんは何一つ悪くないよ。だからそんなに落ち込まないで。私が、私が明日弥生と話をして理由をちゃんと聞いてくるから」


「なんで瞳ちゃんはそこまでしてくれるんだ? 今だけじゃない。夏休みのことだってそう」


「それはね……」



 さっきまで勢いよく話していた瞳ちゃんの口が途端に重くなる。



「それは……鼓太郎くんのことが好きだから……」


「え?」


「私鼓太郎くんのことが好きなの。中学一年生のときからずっと好きだった。だけど、弥生と付き合うようになって、とても苦しかったけど親友の彼氏だから諦めたの」



 瞳ちゃんが俺のことを好きだった?

 しかも中一からだって?



「諦めてたんだけど、どうしても諦めきれなくて聡くんに色々と相談に乗ってもらってたんだ」


「そ、うだったのか……」


「うん。あと私は悪い子だからさ。弥生と別れた鼓太郎くんを癒したら、私を女の子って意識してくれるかなって思っちゃってる。――あはは、最低だよね……」



 そうか。

 瞳ちゃんは俺のことをそんな風に思ってくれてたんだな。

 だけど……。



「気持ちは嬉しいよ。だけど、今すぐに瞳ちゃんと付き合うことは出来ない、かな」


「分かってる。こんなことがあってすぐに切り替えられるわけがない。だけど、一緒にいてもいいよね? 私が鼓太郎くんのことを支えてあげたいの」



 支えてあげるってなんかとても情けない気がしたけど、瞳ちゃんの気持ちはとても嬉しかった。

 だから、「うん、もちろんだよ。だけど支えるとかじゃなくて、今まで通り仲良くしてくれると嬉しい」って返事をした。

 瞳ちゃんは「良かった。だけど、これから覚悟しててよね。――えいっ!」と言うと俺の胸に飛びついてきて、「ごめんね。今だけちょっとお願い」と言いながら俺の胸で涙を流した。

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