02:帰り道

 私が泣き止むまで頭を撫でてくれたコタくんは、いつも以上に優しい表情で私を見つめてくれていた。

 この人に好きって言われたことが、今まで生きてきた人生の中で一番幸せだと断言できるくらい幸せだった。



「コタくんありがと。もう大丈夫だから、早く買って2人のところに戻ろう?」


「あぁ、そうだな。遅すぎたら聡と瞳ちゃんに怒られるもんな」



 そう言うと、コタくんは私に向かって手を伸ばして来る。

 ひょっとして手を繋いでも良いのかな?

 私は勘違いじゃないことを祈りながら、手を伸ばしてコタくんの手を握ると「なんか恥ずかしいね」とはにかんだ笑顔を向けてきた。

 その顔を見た私は胸がキュンキュンしてしまい、この人のことが大好きなんだと改めて思い、繋いだ手を離さないように強く強く握りしめた。




 ―




「ちょっと遅いよ」


「悪い! ちょっと混んでたんだよ」



 瞳ちゃんがコタくんのことを睨みつけてきた。

 だけど、顔は怒ってるけど声は全然怒ってないので、本気じゃないことはみんなが分かっている。

 すると聡くんが「ってちょっと待てよ鼓太郎!」と急に大きな声を上げて私たちの方へズカズカと歩いてきた。



「やっぱり! お前弥生ちゃんと手を繋いでるじゃねぇか! ひょっとして……」


「あぁ、弥生に告白して付き合うようになったんだ」


「マジかよ! おめでとうな、鼓太郎! 弥生ちゃんのこと好きなんだけど、どうしたらいいか俺に相談してたのもんな!」


「お、おい! いきなり恥ずかしくなることを暴露すんじゃねぇよ!」



 突然の暴露にコタくんは慌てていたけど、私は聡くんの言葉を聞いてまた嬉しくなってしまった。

 親友の聡くんに相談するくらい私のことが好きで、ちゃんと考えてくれていたんだ。

 告白される前からコタくんのことが好きだったけど、告白されてからもっともっと好きになっている自分がいた。



「なんかムカつくから、このたこ焼きとかお前の奢りだからな!」


「なんでだよ! お前だって彼女作れば良いだろうが、モテるんだからよ!」


「そんなの関係ねぇよ! だって今彼女いねぇし!」



 不器用な感じだけど、多分聡くんなりの祝福のやり方なんだろうな。

 だって、2人の掛け合いがとても楽しそうなんだもん。



「じゃあ、今日は奢りでいいよ。だけど、今回だけだからな!」


「私も出すからね。一緒に奢ろうよ。――だって2人が原因なんだからさ」


「お、おぅ……」


「かぁ〜! 見せつけやがって! 熱すぎて汗ばんできたわ! 山根さんもそう思うだろ?」


「え? え、えぇ、そうね。2人とも幸せそうな感じがとても出てて羨ましいわ」



 瞳ちゃんは私のところまで来て、「良かったね」と声を掛けてくれた。

 その表情はコタくんに負けじと劣らないくらい優しくて、私はまたしても涙を流してしまったのだ。

 瞳ちゃんは泣いている私を抱き締めて、背中をポンポンと叩いてくれる。

 そんな私たちをコタくんと聡くんは笑顔で見守っていてくれた。




 ―




「ねぇ。あなたたち2人が付き合うのは賛成なんだけど、これからも私たちとも一緒に遊んでよ?」



 私が落ち着いた後に、ベンチでたこ焼きやお好み焼きをみんなで食べてると、瞳ちゃんが心配そうな顔でそんなことを言ってきた。



「当たり前だよ! 瞳ちゃんとは親友だもん。夏休みもたくさん遊ぼうね!」


「だったら安心だわ。鼓太郎くんは弥生のこと悲しませたらダメよ? もし傷付けたりしたら……分かってるわよね?」


「は、はい! 分かってます!」



 般若のような恐ろしい表情を浮かべる瞳ちゃんに詰め寄られたコタくんは、カタカタと震えながら大きな声を出して肯定した。

 それがとても面白くて私たちは大笑いしてしまうのだった。

 その後は、期末テストの成績のお話や夏休みに何やって遊ぶかを話したり、来年から受験だからみんなで同じ高校に行きたいねと言うような話をしているうちに、あっという間に21時を過ぎてしまった。

 流石に遅くなってしまったので、私は「そろそろ帰らないと」と言うと、コタくんが「家まで送るよ」と言ってくれた。

 悪いなって思ったんだけど、「遠慮しないで送ってもらいなよ。って言っても私も途中まで一緒だけどね」と瞳ちゃんが後押しをしてくれる。



「うん。じゃあ、お願いしても良いかな?」


「もちろんだよ。それじゃあ帰ろうか?」


「なんだよ! 俺だけボッチじゃねぇか!」


「だって、聡くんだけ反対なんだから仕方ないじゃない。着いてきたら2人の邪魔になるんだから遠慮しなさいよね」


「つか、お前だって途中まで一緒なんだから、邪魔してるようなもんじゃねぇか!」


「私は良いのよ。だって弥生が襲われないか見張ってないと。ね、弥生」



 激しい攻防だったが、瞳ちゃんの方が圧倒的に強かった。

 本音を言うとコタくんと2人が良いなって思ったけど、瞳ちゃんも同じ帰り道だし、女の子に一人で帰ってなんて言えるわけがない。



「うん。もちろんだよ。一緒に帰ろうね」


「ほらね。それに私の方がここから家が近いから、その後で2人っきりになるんだから邪魔ってほどでもないのよ」



 瞳ちゃんは聡くんにドヤ顔しながら「ふふん」と不敵な笑みを零していた。



「お前ら良い加減にしろよ。だけど、聡ごめんな。今日は送らせてくれ」


「分かってるよ。ただ言ってみたかっただけだ。俺だって邪魔するつもりは最初からねぇよ」


「はは、ありがとな」



 私と瞳ちゃん、そしてコタくんは、神社を出ると聡くんと別れて、私たちの家の方に向かって歩き始めた。



「それにしても、まさかこのタイミングで2人が付き合うとは思わなかったわ」


「いや、俺もまさか今日告白するとは思わなかったんだよな」


「え? そうだったの?」



 私は驚いてコタくんに聞き直してしまう。

 すると彼はばつが悪そうな顔をして、「だってもしフラれたら、そのあと微妙な空気になるだろ?」と頭をポリポリと掻きながら呟いた。

 その姿がとても可愛くて私はまたキュンキュンとしてしまう。


 それから5分ほど歩くと瞳ちゃんの家に着いたので、バイバイして別れるといよいよコタくんと2人きりになることができた。

 私たちはどちらともなく手を握って、心なしか歩くスピードもゆっくりになっていた。

 このまま時間が止まってしまえば良いのに。

 そんなことを思いながら歩いていると、コタくんが「弥生と付き合うことができて本当に嬉しいよ」と言ってくれた。

 私も「うん。私も嬉しいよ」と伝えると、歩いていた足は気付けば止まり、私たちはお互いの目を見つめ合っていた。

 そして、徐々にコタくんの顔が近付いてきたと思ったら、チュッと唇に柔らかな感触を感じた。



「わ、悪い……」



 コタくんは自分でも驚いたのか、慌てて私に謝罪をしてきた。

 だけど、そんな謝罪は私には必要なかった。

 だって、こんなにも幸せな気持ちになっているんだから。



「ううん。良いの。嬉しかった……。だから、ね? もう一回……」



 私はそう言うと、今度は私から顔を近づけて、コタくんにキスをした。

 さっきは一瞬で終わったキスだったけど、今回はゆっくりとコタくんの唇の柔らかさを確かめるようにキスをした。



「……うふふ。幸せだな、私。――大好きだよ、コタくん」

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