第74話 **ユリトスのターン**
「なんだ、ここは…」
目を開けているのか閉じているのか分からないほどの暗闇の中、元ピティナスピリツァ王国、第一王子のユリトスは目覚めた。目が覚めているのか覚めていないのか分からない状態ではある。
覚えているのはルイによって小瓶に入れられたという現実だ。
「くそ、あの女め、、あの小瓶を取られていたのは誤算だった。…フン、ずっとここに入れられるはずがない。この小瓶は所有しているだけで魔力が奪われるのだ。人間が入っている時には何倍以上の魔力が掛る。そう長くは持つまい」
小瓶に入っているモノは死ぬことはないが小瓶の主は延々と魔力を吸い取られる仕組みになっているようだ。作った本人もよく分かっていなかったのだが、それをユリトスはちょくちょく使っていたので体感として分かっているのだ。
しかし、主はすでにカミノアに変更されていた。ルイには「ルイが死ねば、、」と言っていたがその時点で変更されていたのだ。ルイに内緒にしているのはルイは神獣に対して変な気遣いをするのでまた心配するだろうと思い内緒にしている。ルイがこのことに気が付く事は永遠にない。
カミノアがルイに捨ててしまいなよと諭したのは、カミノアなりの復讐かもしれない。罪もない乙女が自分の為に死んでしまった。ルイは王族が悪いのだと言ってくれてはいたがやはり責任を感じてしまう。
人として生きていたあの頃は人の命など興味がなかった。己さへ良ければ後はどうでもいいと思って生きていた。しかし、水龍となってよくしてくれた人たちは自分を残して死んでいく。それを千年の間、ずっと体験しなければならなかった。それは死ぬ事より辛く悲しい出来事だった。水龍になったカミノアは水龍になった事で人間の心を取り戻したのかもしれない。
「ここから出たらやはり拘束され、あれ以上の拷問を受ける事になるのか…サウーザのガキ共め、いつか復讐してやる…出た瞬間に魔術で周りの奴らを圧倒しなければ、ここで魔力は使えるのか…私が魔力を使い続ければビアンカも根を上げるだろう。私はここにいる限り魔力が尽きる事はないのだから、アハハ!」
「ムムっ」
ユリトスは魔力を燃やしこの状況をどうにかしようと考えた。そうするとスゥと闇しかなかった景色が透明になり外が見えるようになった。
「おお、やったぞ。外が見えるようになった。ん、ビアンカと黒猫…」
『これどうするの?』
「どうすればいいと思う?」
そんな会話が聞こえてきた。
なんと声まで聞こえる!
「おい!ここから出せ!聞こえているだろう!おい!」
ユリトスは精一杯声を張り上げた。しかし、ルイはまったく中身が見えておらず、どす黒い色小瓶をこのまま持っているのは気持ち悪いと思うようになっている。
『ルイが責任を負う必要はないよ。面倒なら湖にでも捨てちゃえばいい、僕ならすぐに拾う事も出来るし見つからないように底の岩の所に置いて来るよ』
「今さら出て来ても、迷惑な話よね」
「は?どうする気だ!!出せ!」
『こんな気持ち悪いもの、捨てなよ』
「黒猫!余計な事を言うのをやめろ!!」
と、その時、黒猫と目が合った。黒猫はニヤリと笑ったような気がした。
そして、小瓶は湖の底に捨てられた。
「噓だろ!嘘だろ!、、、おい!この人殺し!!俺の俺の、、俺の話を聞いてくれーー!俺だって国の方針でやって来た事なんだ!父上に、、父上に言われて…、、、、はあはあ」
ユリトスの声は誰にも届かない。私利私欲のためにルイを捕獲しその後、生贄にしようとし、今までの王家の人殺しの罪をすべてユリトスが背負う形となった。
「助けてくれーーーーー!!」
▽
▽
『やあ、久しぶりだね。元気かい?』
「…」
『言葉を忘れちゃった?』
「…」
『ルイが死んじゃったんだ。ずいぶんとおばあちゃんになってね。幸せな生涯だったって言ってたよ。実は僕も寿命でね。本来はとっくに寿命だったんだけど、三百年寝ていただろう?それでちょっと伸びたんだよね。それで次世代は僕が決めていいんだけど、誰にしようかと思っていたんだ。
だって、ほら可哀そうだし…でも水龍がいないと水害や飢饉とかになるかもしれないから勝手に僕で終わりに出来ないんだよ。でも丁度いい人がいてよかったよ。僕もこれでやっと死ねる。長かった…
今ルイを待たせているんだ。一緒にあっちに行こうって言ってくれてね。君はこれから千年頑張ってよ。じゃあね』
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