第52話 お茶会に参戦しました
二日後、ようやくお茶会が開催された。と言ってもハートとルイのふたりだけだ。宿に大きな白い馬車が迎えに来ておりルイはカミノアたちと乗り込んだ。何事かと近所の人たちは宿に集まっていた。
城に招かれたルイだったがちょっとキレイ目なワンピースを着てあまり元貴族だと分からないように振舞った。
「ルイ、いらっしゃい。体調が悪いと聞いたけど大丈夫?」
「ええ、疲れが溜まっていたみたい…もう平気よ」
「…そう、あなたもやはり急いでこの王都まで来たのね。それで疲れが出たんじゃないの?若いからってムリし過ぎたのね」
ハートはルイに席を進めるとハーブティーを入れた。
「そうね、…ハートはローズと一緒にサウーザに行く途中だったんじゃないの?」
ハートはゴクンとハーブティーを飲み込みカップを置いた。ハートはラグ爺を膝に乗せ野菜を上げ出した。
「そ、そうなんだけど、あなたのウサギのラグちゃんをローズが攫ってしまって本当に申し訳なくて、直接謝りたかったの。船で一緒になるかと思ってたんだけど…ルイは乗ってた?」
ハートは自分の行動にどう説明していいのか模索しているようだ。
「ええ、もちろん。でもラグたちがいたから一目を避けていたの。それからキャラハン公爵に拾って貰って早くこの王都に着いたのよ。その疲れが出たのね。日時を変更してくれてありがとう」
キャラハン公爵までざっと省略した。
「いいのよ。そうよね。いやだわ、私。なにか不思議な事があったのかしらとワクワクしちゃったわ、うふふ」
「うふふ」
水龍に乗ってノーズレスクまで来るなんて不思議な事でしょうね
「でも気にしてくれていたのね、ありがとう。朝起きてラグがいない事に気が付いて慌ててしまったわ。ラグは家族だから」
ラグ爺の鼻がピクピクと動く
「そうよね。本当にごめんなさい」
「あ、もういいのよ。無事に戻って来たし。自分で帰ってきたの。頭のいい子なのよ」
「本当に頭がいいのね。ローズがこのウサギがいいのって言っていた意味はそれなのかしら」
違うと思う。
ふたりはその後も他愛無い話をした。ハートはもうローズに付き添って里帰りはしないし、これからもローザの面倒は見ないと決めたと言っていた。
なぜ急に?
「なぜかしら?ルイがひとりで宿に泊まりローズにもきちんとした対応をしてしっかりとしているなって思ったの。私はローズに振り回されてばかり、それが当たり前だとも思っていたし、もうあの子も大人だし私も人妻ですもの。今度から旦那様を支えていきたわ」
今度、夫を紹介するし、キャラハン公爵もあの時のお礼が言いたいと言ったら会わせてもらえる事になった。会った所で人となりなど分かりはしないけど、少なくともこの国はかの国たちよりマシな気がした。
ローズはハートを待ってずっとサウーザにいるかもしれない。ハートはローズがいないだけでこんなにも静かで暮らしやすい事に驚いていた。
◇
◇
ローズは無理やり城に連行された後、暇を持て余していた。
「お兄様、水龍はもう出ませんの?」
「ローズ、いい加減にしてくれ。こんな慌ただしい時期に戻って来てもみんな忙しいのだ。大人しく母上殿と過ごしていてくれ」
「ああん、シオン兄さまの意地悪ぅ」
「ハートはどうしたのさ」
「カインお兄様、ハートは途中まで一緒に来ていたのに引き返して戻って来ないの。私をひとりにするなんて!私、ハートに怒っているのよ」
「そ…そう」
カインはローズに後で夕食を一緒にしようと声を掛けた。ローズは満足したのか部屋に戻って行った。
「カイン、ハートはどうしたんだ?」
「それが早馬で文が届いていたんだけど…もうローズのお世話はしませんって一言だけで…」
「…はあ、等々ハートにまでも愛想を付かれたのか…まぁ我ら兄弟もハートに全部押し付けてしまったからなぁ、カイン早くローズをノーズレスクの戻るよう説得してくれ。ノーズレスクに戻ればハートがいる」
「ハートはもう世話はしないと言ってるんだよ?」
「…ノーズレスクに戻せ。夫に何とかしてもらう」
「せっかく、タールが片付いたと思ったら今度はローズか…」
はあ、と二人の王子が溜息を吐く
城の敷地内の修繕に、第一王子の聞き取りと大変な時にローズが帰郷すると連絡が来た。帰郷自体珍しくはなかったが我が儘なローズは夫と喧嘩をする度に帰郷していた。そしてその度にハートも付き添わされた。ハートは陛下の弟の娘だ。ローズと同じ歳という事もあって、ハートにいつも甘えていた。それは王家の陛下夫妻、王子たちもハートにいつも甘えていた。自分たちの妹なのにいつもハートに面倒を押し付けていたのだ。
ローズがノーズレクスの王子と恋仲になり婚姻する運びとなったが、ローズと一緒にハートもノーズレクスの貴族と婚姻させたのだ。我が儘なローズにあちらの王家も手を焼くとわかっていたのでハート付きで嫁に出したのだった。
すでにハートの両親は他界してそれも都合がよかった。ハートも王族のひとり、行き先も考えなければならず面倒ごとをすべて排除した形にした。ローズも片付く、ハートもローズの世話係として嫁にもやって一石二鳥と考えた選択だった。しかし等々そのハートにも愛想を付かされた。
それを考えたのがシオンだった。すべて考え陛下に承諾を貰ったのだ。そしてローズにはハートも一緒で嬉しいだろうと持ち掛け、ハートにはローズが君と一緒がいいと言っている。と、言って無理やり婚姻させた。
シオンはハートが自分になんとなく好意を持たれているのは知っていたが、美しく聡明なハートは妻としては十分な素質だが、ローズが近くでウロウロされても困ると考え、ハートも一緒にノーズレクスに嫁がせたのだ。好きでもない男に身をささげるのは嫌だった事だろうと思うが、貴族は特に王族は国の為に婚姻する事は珍しい事ではない。ハートも王族の人間、きっとわかってくれるとシオンは思った。
「ハートに手紙でも書こう。またいやいやでも面倒を見てくれるだろう」
シオンは自分の願いならハートは叶えてくれる事を知っている。
「やっぱ、ハートじゃなきゃあムリなんだよな。兄上からお願いすればハートも効いてくれると思うよ」
「そうだな。忙しいが仕方ない」
「代筆はダメだよ」
「わかっている」
まだまだ後処理は終わらない。
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