第19話 疲れました
「恐れながら、陛下に質問してもよろしいでしょうか」
「もちろん」
「ガルーナ王国という国をご存じですか?」
「知らんな、おまえたちは知っているか?」
陛下は後ろに控えている数人の若い男性に質問をした。どうやらこの国の王子たちらしい。
「知りません」
何人もいる王子ががん首揃って同じ事を言う。
「その国がなんだ」
ひとりの王子がルイに高圧的に質問をした。
「かの国と橋渡しをしていた国です」
「聞かない国だ」
高圧的に質問をした王子は先ほどと同じことを言う。
「陛下、申し上げます」
柔らかいキレイな顔の王子がスッと手を挙げた。
「申して見よ?フリル」
「その国はノーズレクス…という国ではないですか?」
「…どういうことだ」
「最近、すごい付与師がいると話題になっていた国です。多くの国が付与を行ってもらう為、高価な宝石を預けていたらしいのですが、その付与師が持ち逃げをして行方が分からなくなったと公表しておりました」
そういえば、高価な年代モノの宝石がいくつもあった。王族なのだからこのくらいの宝石を持っているのだろうと疑いもしなかった。
「そ、そうであれば…その宝石はお返しします」
「いや、まだそうだとは分からない。そもそもあちらが言ってるのは付与師の大泥棒のことだけだ。そうだな、シオン」
「そうですね、宝石のことはこちらの問題ではありません」
シオンと呼ばれる王子は王子たちの中でも中心のようだ。
「それはノーズレクスの問題だ。かの国とは関係ないな」
しかしノーズレクスの事は皆頭に入れた。
「陛下。陛下の第三夫人の長女ローズ姫がノーズレクスの王族と婚姻をしています。ロスト姫から話が聞けるのでは?」
「ああ、ローズキャロライナか…いや、彼女の身に危険が及ぶかもしれぬ。しばらくは様子を見る」
陛下は一枚の紙を懐から取り出し、お付きのモノに渡した。
「ルイ殿、その写真を見てどう思う」
ルイはお付きのモノから渡された写真を受けとった。それはもっと鮮明に城が見て取れる写真だった。
天空の城ラ〇ュタのようです。
「そ、そうですね。私はよくわかりません。私は外から祖国を見た事がありません。そもそも浮いているなんて思ってもみませんでしたから」
ただ、原動力はなんなのか…ヒコ〇セキのようなモノがこの世になるのか…動くのも不思議だ。古代兵器なのか…もし私を引き渡さないと攻撃をしてくるようなら対策が必要になる。そもそもこの写っているのはかの国なのか。まぁ時期的にそうだと思うけど…私も逃げる一手だけだと面倒だし、でも私の魔力だけでどうなるものでもないので、あとはアイディアだして、それから…
「ルイ殿?」
「え?」
「なにかブツブツと独り言のように言っていても聴き取れぬ」
「あ、申し訳ございません」
「焦るでない、そなたを引き渡すようなことはせぬよ」
「ありがとうございます」
「この使者からの文書は合っているかね」
「拝見いたします」
文書の内容はルイの本名と特徴が書かれてあった。
ルイは今、金髪碧眼だが生まれつきの色は違う。
「合っております」
「見た目が違うようだが…?」
「髪と瞳の色を魔法で変えております」
周りがザワリとする。
「こ、この国では珍しいことですか?」
「誰も出来ぬよ」
「そうでしょうか?無属性ならば出来ると思いますが、誰か無属性の方がいらっしゃいましたら念じてみてはいかがでしょう」
「コール、おぬしは無属性だったな」
「はい、試しております」
しばらくすると、エメラルドグリーンの髪がブルーになり、ブラウン系の瞳は赤に変化した。
おお、と声がする。
ね、ね、
「なるほど」
「戻してみよ!」
またあの高圧的な王子がルイに言う
「やめんか!タール」
「は!」
「申し訳ない。常々上のモノが高圧的な態度でものを言うなと教育しておるのだが…女性に対して素顔を見せよとは。恥を知れ!」
「陛下、申し訳ございません」
タールはなぜか、ルイを睨む。
「ルイ殿、どうやってこの国に参ったのかは教えられないと言っているとか」
「…はい。ですが陛下のみ、でしたらお答えします」
王子たちがザワリとする。
「ふむ…王子たちは信用出来ぬと?」
陛下はチラリとタールを見る。
「陛下がお伝えしてもいいと思えば王子たちにお伝えください」
「ほう…」
陛下はシオンに目配せをした。シオンは静かに頷く。陛下はシオンに絶大な信頼を置いているらしい。
「では聞こう。お前たち下っておれ」
王子たちは陛下のそばをスッと離れた。シオンはルイの手を取り陛下の近くまで連れて行き、三歩後退した。それ以上離れることは出来ないようだ。
ルイは片膝を付き、陛下に顔を近づけ、手を口元に添えて小声でどうやってかの国から脱出したのかを話した。陛下は「ほう」「それで!」「はあ」「なるほど!」と、なにかの物語を聞くように楽しんでいる。
話終えると、シオンがまたルイの手を取り、元いた位置まで連れて行く。
「陛下、どうでしたか?」
シオンが陛下に感想を聞いた。
「おもしろい話であった」
「嘘ではありません!」
ルイは思わず、声を荒げてしまった。陛下はスッと手を挙げた。
「わかっておる。ルイ殿は大変な思いをして我が国まで来たのであったな。おもしろいと言ってすまんかった」
「あ、いえ、声を荒げまして申し訳ございません」
陛下と王子たちとの謁見は終わった。素顔は今後も見せなくてもよいとなった。しかし、分からなくなるのでこの国では金髪碧眼でいるようにとの仰せだ。
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