第3話 闇夜に彷徨っています

 私は今、闇夜を彷徨っている。


 今まさに両親に売られそうになったのだ。信じられなかった。信じたくなかったが、泣いている暇はない。逃げなければ売られてしまう。急いで準備をして窓から飛び出した。危機一髪だったことだろう。ドアにノックをする音が聞こえた。心臓がバクバクいっている。



 誕生日に第一王子から頂いた高価な異国の絨毯に風の魔法を付与し魔力を一年かけて充電…充魔…?してようやく空飛ぶ魔法の絨毯が出来た。何度か夜中に邸から抜け出して飛行練習を兼ねて空の散歩を楽しんでいた。まさかそれがこんな形で役に立つなんて。


 両親の会話はソファーの下に独自で開発した盗聴器が仕込んであり、会話を部屋で聞いていた。小さな魔石に風と火の魔法を駆使して盗聴器を作った。両親の会話の途中から雲行きが怪しくなり始めたので急いで魔法の絨毯に金目の物を積んで窓から飛び出したのだ。危なかった。ドレス・宝石・隠し金、全部詰め込んで、絨毯に飛び乗った。窓の幅と絨毯の幅が同じだったので金目の物は落ちずにすんだ。


 コンコンとなる扉


 慌てずゆっくりと上空に舞い上がり見えたくなった所で北に発信させた。真夜中の為周りからは見える事はないだろう。逃げるときは北に向かうのはなぜなのか…盗聴器は回収できなかった。仕方がない。


 会話が聞こえるからいいか


「娘がいないぞ」「私たちの会話をどこかで聞いて逃げたのね」「まだ、近くにいるはずだ。捜せ!」そんな声が聞こえてくる。私が作った盗聴器はずいぶんと離れていたもよく会話が聞こえてきた。大変優秀のようだ。

 

 父は兎も角、母にはがっかりだ。結局、保身に走ったのだ。とりあえず、一時金は自分たちの物でも売れば賄えるはずだ。母の妹や愛人に頭を下げて出してもらえいいのだ。一時金だって本当は返さなくていいはずだ。それなのに慌ててお金を作ろうと娘を娼婦館に売るなんて信じられない。娼婦館に売られれば、その場で客を取らされるかもしれない。そんなことになればもう…


 涙を拭う。両親とは縁を切る。この国とも…第一王子、第二王子…

 さよなら、好きだった人たち


 可愛がってはくれていたが結婚はしてくれなかった。そう、結局私のことなど魔力が多く無属性で使い勝手言いとしか思われていなかったのだ。

 いつもあれを作ってくれ、これは作れるかと言って喜ぶ顔見たさに作って来た。盗聴器だって空飛ぶ魔法の絨毯だってそう。ご注文の品なのだ。魔法の絨毯は時間が掛るとして納品はしなかった。安全が確保されれば納品しようとしていたのだ。納品しなくてよかった。何度も改良した。この魔法の絨毯は飛ぶ時の風の抵抗を無くし、落下防止も付けた。


 バカらしい。この三年間こき使われただけだった。

 

 どこまでも遠くに行きたい。誰も知らない遠くへ。


 魔法の絨毯は夜が明けるまで飛び続けた。




 この世界は魔法が使える。一般には属性があり、産まれた時からその属性は決まっている。八歳くらいになるとその属性が開花する。火・水・土・風の属性を持って生まれるのだ。

 一般人だと魔力が少なく生活魔法くらいしか使えないが貴族になると魔力は多くなり大きな魔法も使えるようになる。しかし、たまに無属性が産まれることがある。それはどんな属性にも所属していないことから、全属性使いこなせるか、まったくどれも使えないかの両極端の属性なのだ。使えない属性だとわかると無能だと言われ貴族界からはじき出されるのだ。



 夜が明け、朝日が昇る頃なると視界がよくなり周りが見えてきた。今は大きな森の上を飛んでいる。その大きな森が続く先にぽっかりと平地が見えた。野営でもする場所なのかその場所に舞い降りる。木の下に寄って結界は張る。


 夜まで休憩をしよう。お腹が減った。自身で作ったネックレスから食べ物を取り出す。このネックレスも注文品だ。まだ未納品のもの。ネックレスの宝石に収納魔法を付与しているのだ。こんなことの為に食料品を入れていたわけではなかった。どれくらいの頻度で劣化するとか色々な宝石で実験をしていたのだ。劣化が早い方の宝石から食料を取り出し食べることにする。

 劣化が早いか遅いかや容量の大小は宝石の質に比例する。いい石であれば劣化が遅く容量も大きい、安値の石は容量は小さくなり劣化も早い。仕様基準を明確にすればこれほど便利なものはないのだ。


 納品しなくてよかった。

 

 宝石は預かっている物に過ぎないが、両親からは贈り物と勘違いされていた。ならば私が貰ってもいいのではないか。いつも無料で開発をしている。それを第四王子の所に持って行き、大量生産をさせ販売をしているのだ。そのお礼は王子たちの笑顔、これぞプライスレス


 だがそれを知った時は釈然としなかった。冗談じゃない。

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