37.火事場泥棒
「千田さん、いま、なんて言いました?」
「だ・か・ら、火・事・場・泥棒・ですッ!」
目を見開き、口も少し開いたまま固まる望奈さんが俺の目の前には居た。
大丈夫だろうか、意識がこっちの世界にない感じがする。
「あの~大丈夫ですか」
「ぁはははは、、そぉ、火事場泥棒ね。」
善意者の望奈さんには、直ぐに納得出来る発言では無かったようだ。
「ほらあっちにコンビニが見えますよ、あれがターゲットですッ」
指を指しながらコンビニがターゲットである事を告げるが望奈さんは、未だに心ここにあらずな状態だった。
「ほらほら、行きますよ」
俺は望奈さんの背中を押してコンビニの方に歩かせる。
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「こんなの間違ってる…今ならまだ大丈夫よっ、止めましょ、ねぇ千田さん。」
この子はこの期に及んで何を行っているのかね。
「望奈さん、既に、店員が居ないコンビニに壊れた入り口から入ってるんです、もう不法侵入ですよ」
「ちがうッ、私は押されて入ったから、無罪よ!‥そうよ!まだ私はセーフなはずよぉ..。」
「もう手遅れですッ!」
「そんなぁぁ、、、もうお終いだわ、私生きていけない。」
「そんな大げさに言わないでくださいよ」
「大げさって貴方ねぇ、少しは罪の意識は・・・そうね、貴方はそういう人だものね、ごめんなさい、もう良いわ好きにして..。」
もうダメだと言う感じに諦め、火事場泥棒の了承を得た俺は好きにする。
「分かりました、好きにします」
(それよか、この人は俺の事を何だと思ってるんだ、俺だってしたくて泥棒してる訳じゃないし、やらなきゃ物資が無くなって自分達の首がしまるだけじゃないか)
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コンビニは既に他の火事場泥棒が入ったであろう痕跡があった。
流石に全ての物を持ち出すのは不可能だったのか、お菓子や小物類や飲み物などは地面に散らかっており弁当やレトルトは全滅、だが裏手まで漁った奴は居なかったらしく、手付かずの状態でまだあった為、俺は遠慮無く必要最低限の物をカバンに詰る、勿論俺のカバンの体積の一部をドクロンが占めている為、望奈さんのカバンには非常食をメインに入れ、自分のカバンには飲み物などを入れる。
「ぁぁ、これで私も…」
望奈さんが何か泣きそうに小声で言ってるが気にしない。
(これで望奈さんも立派な共犯者です)
俺はそう思いながら更に望奈さんのカバンに物を入れる。
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容量的には全然空いてるが走る事もあるので重さも考えながら、途中で物色は止め、昼食に良さそうな物を探す。
「パンと非常食系どっちが良いですか」
「ならパンをもらうわ何でも良いわよ」
俺はそっとチョココロネを渡した、これをチョイスした理由は俺の好みによる影響が強いが、何でも良いと言われてる状態なら気にしない。
それと一緒に水やお茶を数種類、前に出し好きなのを取らせる。
パンも同じ様に選ばしても良かったんじゃと思ったが既にパンの袋を開けて、パク、と食べ始めてたので俺は何も言わず、同じ様に俺もパンを開け食べ始める。
―
―
「どうですか、火事場泥棒して、その現場で食べるパンの味は」
「・・・・・・・・・」
(やべッ)
望奈さんが一瞬固まり、そして首を回して顔を俺に向けてきて真顔で見つめられていた。
(怒ってるのか!?これは、何だその顔は俺は事実を述べただけじゃないか・・)
「パンの味は賞味期限も切れてる訳じゃないんだし、美味しいわよ、何処かの誰かさんの発言で真っ黒な感情が溢れ出してしまったけれど。」
「ごめんなさい」
「何で言ったのよ。」
「それは―…‥・・望奈さん誰か来ます」
外から聞こえてくる微かな靴の歩き音。
こんな時にコンビニに来るのは決まって同じ火事場泥棒だ、そいつがここは俺のコンビニだなどと意味不明な発言をして絡まれるのが一番厄介だが、今から来るのはどうだか。
「1人みたいね。」
足音が段々近づきよりハッキリと聞こえる様になり、恐らく1人だろうと音だけで判断した望奈さんがそう発言する。
俺と望奈さんは相手の出方次第では戦闘や逃げれる様に、音を出さずゆっくりと立ち、来訪者を待った。
―
―
どんな奴が入って来るのか待っていると、コンビニに1人の少年が入ってきた。
その少年は背も140cmも無いだろう小ささで見るからに小学生ぐらいだと思った、そしてその身体には似つかわしく無い大きなカバンを背をっていた。
「こんにちわ」
少年はいつもの日常と何ら変わらない様に普通に挨拶をしてきた。
「「こんにちは」」
二人同時に挨拶を返し、立て続けに望奈さんが問いかけた。
「君は1人で此処に来たのかな」
「ぁはい‥」
女性の望奈さんが話しかけて、これだけ不安そうにビクビクしている様子から、俺が話し掛けなかったのは正解だったのかもしれない。
「ぁ、あのっじtは―」
「落ち着いて、別に私達は君に何かしたりする訳じゃないから。」
「あ、あの、え~とその、実はお母さんが動けなくて、それで、その僕が、食べ物を取りに来て、それで、だから‥ここの食べ物を分けてください、お願いします 」
「良いぞ、別に好きに持っていって」
俺は何の躊躇いもなくそう答える、こういう場合俺が逆の立場なら男が無言で居るより男が良いぞ、と言ってくれた方が安心して取れる気がしたからだ。
「そうね、別に此処にある物は私達のって訳じゃないからね、私達が許可を出す立場では無いから、この人の言う通り好きにしてちょうだい。」
「あ、ありがとうぉ、ございます!」
少年はそう言いながら、精一杯にお辞儀をしていた。
(礼を言われる筋合いじゃ無いんだが、まぁ俺でもしてただろうな大人の様子を伺うのは当たり前のだったから)
「ねぇ君、君はこの辺りに家があるの?」
望奈さんが追加で少年に話しかけ、この辺の情報を取ろうとしだした。
「はい、此処から見えるあのマンションでてゴブリンが居なくなったから、出てきました」
少年は指を指し俺達に何処に家があるのか教えてくれた、もう少し人を疑う事を覚えた方が良いぞ少年、いつか痛い目に遭ってからでは遅いのだ。
「ありがと、でも次からはそんな簡単に家の場所を教えてはダメよ。」
「どうして、ですか?」
「悪い人だって沢山居るの、悪い人が君の家の場所を知ったら何かイタズラしちゃうかもしれないでしょ?。」
「お姉さん達はでもいい人ですよね?」
「そうだけど、本当に悪い人かどうかは出会って直ぐには分からないものよ、現にあのお兄さんは悪い人何だから。」
「えッ、お兄さんは悪い人なんですか‥そんなどうしようお姉ちゃん、僕、悪い人に自分の家教えちゃったよぉ」
(オイッ誰が悪い人だってぇぇ、本当に悪い人なら今すぐ殺してるぞ)
「大丈夫よ、私が何もさせないから、でも次からは簡単に、教えちゃダメだからね。」
「わかった、ありがといお姉ちゃん」
てかいつからお姉さんからお姉ちゃんにアップグレードしたし。
「後、さっき言ってたゴブリン居なく無ったて言うのは、どういう事か教えてくれる。」
「ゴブリンはね、あっちに行った、ッたっくさん大きいのとか、太ってるのとかいっぱい居たんだけど、皆行っちゃった」
「は?」
「ぃぃッ、ごめんぁさい」
「ちょッと何子供、脅かしてるのよ。」
「すまんすまん、つい声が出ただけだ、すまんな少年、それと最後にもう一度聞くけどゴブリンはどっちに行ったんだ?」
「ぁっち」
俺は少年が指差す方を確認する、それは先程も指してた方角と同じでテンパって指した訳では無さそうだが、逆に不味い。
「向こうには今朝の学校と市役所がある方向だ」
「うそでしょ、それ本当なの?。」
この辺りに疎い望奈さんがそれは本当かどうか確認してくるが勿論本当だ。
「本当です、それに此処からその方向に向かったのなら、他にも避難所に指定されてる場所がかなりの数あったと思います」
「そんな・・」
望奈さんが片手で頭を抑えるように項垂れる。
「少年、ゴブリン達は何時ぐらいにあっちの方に行ったか分かるかい」
「うんとね、たしか、1時間ぐらい前だと思うよ」
そうかならまだ間に合う可能性はあるな。
「望奈さん、何してるんですか行かないんですか?」
「え、。」
「何ですか、えって」
「いや、だって、貴方が行こうって言うなんて思って無かったから。」
「それは心外ですね、後でお仕置きですね、で行かないんですか?」
「行くに決まってるじゃない、てかッお仕置きって何よ、そんなの受けないからね。」
「はいはい、行きますよ」
俺は望奈さんを引き連れてゴブリン達を追うことにしたのだった。
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