私は肉をグラム単位で売っている。

私は肉をグラム単位で売っている。

 わたしにくをグラム単位たんいっている。きゃくなににくなんグラム必要ひつようなのかをいてはかりはかってるのが仕事しごとだ。わたしはあまりあたまがよくないのでそれ以上いじょう能力のうりょくはない。


 あるとき、鶏肉とりにく200gにひゃくグラムってったきゃく苦情くじょうってきた。

「おたくったにく、パサパサでクソ不味まずかったわ。なんてものをわすんだ!」

 わたしにく仕入しいれを担当たんとうしていないが、とりあえずあやまった。

 きゃく不満ふまんげなかおでブツブツ文句もんくっていたが、しばらくするとかえった。


 あるとき、豚肉ぶたにく200gにひゃくグラムったきゃくもどってきてさきほどったにくせつけてきた。

きみィ、このにく〇〇産まるまるさんではなく××産ばつばつさんだよ。ホラ、たまえ、脂肪しぼうかたちがうだろう?」

 かれっていたスマホでわざわざ拡大かくだいした写真しゃしんまでせてきた。

「さっきアヤシイとおもったんだよ。マッタク、看板かんばんいつわりアリとはこのことだね」

 ニセモノをわされたというのにかれ嬉々ききとして、まるで得意とくいげにわたしめるのだった。

 かえすがわたしにく仕入しいれは担当たんとうしていないし、わたしではその微妙びみょうちがいはからなかった。

「いや、わたしはアルバイトなんでそこまではからないです」

 前回ぜんかいのこともあってイラだっていたのでそうかえすと、

「そんなカンタンなこともからないのににくっているとはね。いますぐにこの仕事しごとめたほうがいいよ」

 かれはいかにも失望しつぼうしたとわんばかりにそうって、店長てんちょうびつけてさらに一時間いちじかん説教せっきょうした。

 やっとかれかえったとおもったら、今度こんどわたし店長てんちょう説教せっきょうされ、そのかえりが随分ずいぶんおそくなった。


 あるとき、ウチでった牛肉ぎゅうにく使つかってユッケをつくったひと食中毒しょくちゅうどくこした。

 マスコミが取材しゅざいて、たまたま店先みせさきにくっていたわたしがテレビにうつってしまった。「あなたはどういうつもりでそんなキケンなにく販売はんばいしたのですか?」とたずねられ、咄嗟とっさに「わたしにくはかりしているだけなので」とこたえた。

 すると「わけするな!」「この人殺ひとごろし!」と集中しゅうちゅう砲火ほうからい、SNSエスエヌエスに「殺人者さつじんしゃ」としてさらしあげられたわたし炎上えんじょうした。仕事しごとをクビになり、んでいたアパートもされ、わたしはホームレスになった。


 このたった一回いっかい出来事できごとで、わたし社会的しゃかいてき生命せいめいたれた。

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