第229話 それぞれのあれから 1
時は経ち、里桜がゲウェーニッチに外遊をしてから四年が過ぎた。
里桜は、あれから一男一女を産み、今第五子を妊娠中だった。つわりも終わって、ひさし振りに王宮の庭でレオナールとお茶を飲んでいた。
「リナさんより、届いたハーブティーです。」
アナスタシアが、フルーツやハーブティーをテーブルに置いてゆく。
リナは
一番長く仕えてくれていたリナを自分の侍女から外すことを決断するのには時間がかかったが、リナが働き続ける事を望んだため、リナが我が子と一緒にいつつ働ける一番矛盾のない選択が、ジャンの乳母だった。
「うん。美味しい。」
里桜の笑顔に、レオナールも満足げな顔をする。
「懐妊の発表は五月十六日に決まった。」
「はい。分かりました。陛下。」
「しかし、時が経てばリオも食べ物が喉を通るようになると分かってはいても、つわりで苦しむのは見ていてこちらも辛くなる。」
「この子とエリザベートの時は軽かったと思っていましたが。いつも心配をかけてしまい、申し訳ありません。」
「私に謝ったりしなくても良い。」
「ははうえー。」
自分を呼ぶ明るい声がして、里桜は振り向いた。そこには、乳母子のルネと手を繋いで歩いてくるジャンの姿があった。その後に、ルイやマルゲリットもやって来た。
ルイとその乳母子のフランソワ、ジャンとルネの四人は、庭を走り回り、鬼ごっこをしているようだ。
レオナールの方針で、命に関わるような怪我でもない限り、子供同士の遊びで起きる多少の擦ったや切ったは、身分に関係なく子供たち同士で悪い方が謝り決着を付けさせることにしている。
乳母のエステルやリナも必要のない限り子供たち同士の遊びに口を出さないようにしている…が、手触りの良さや縫製の細やかさから最高級品だとすぐに分かる子供服が容赦なく草の汁まみれ、土まみれになっているのを見ると、‘静かに部屋の中で遊んでよ’と言いたくなってしまうのは、庶民の性が抜けきれない里桜からしたら仕方のないことだった。
今日ももうすでに、ジャンの袖口の可愛くて繊細なレースは何故か土色になっている。
「お母様。今日のお茶とても美味しいです。」
マルゲリットは六歳になり、今は弟たちと庭を駆けずり回ることも減り、こうして、一緒に座り、大人たちに混ざって話したりすることが多くなった。
そこへ、第四子のエリザベートを抱いたアデライトがやって来た。後ろには乳母になったフルールがいる。初めて会ったとき、十六歳だった彼女は子爵夫人になり、一昨年の暮れに第二子を産んだ。
「遅くなり、ごめんなさいね。」
そう言って、アデライトはフルールにエリザベートを託した。
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