第134話 煩う 4
ロベールは里桜を伴って、レオナールの執務室に訪れていた。
「陛下、本日はお時間を頂きありがとうございます。」
「大叔父上、そんなに改まってどうなさったのですか?」
ドアの横に控えるアルチュールに視線をやるが、優秀な侍従さえも内容を把握していない様だった。
「今日は折り入ってご報告が。」
里桜はその間もずっと下を向いている。レオナールの脳裏にふっと嫌な考えがよぎった。
「まさかと、思うのですが大叔父上、二人は…」
「はい。リオと私は家族となりました。」
口は開いていないまでも、レオナールは唖然としている。
ロベールはニッコリと笑うが、レオナールは蒼白と言った顔色だ。レオナールの視線にアルチュールは首を横に振る。
「予てから申請をしておりましたが、昨日ようやく正式に受理されまして。就きましてはリオを現在の寮ではなく、我がタウンハウスへ引っ越しをさせようと思います。」
ロベールが説明している間も、里桜は心ここにあらずといった風で、聞いているのか聞いていないのかも分からない具合だ。
レオナールは話し続けるロベールを手で制した。
「大叔父上、少し二人だけでお話しがしたい。リオを離席させます。」
そのレオナールの言葉さえ、耳に入っていない様だ。
「アルチュール、リオを。」
アルチュールは、声なく返事して里桜に近づく。
「リオ様。少しあちらのお部屋で。」
アルチュールに声をかけられた里桜は我に返り、何が起こっているのか分からず、ロベールの方を見た。ロベールはニッコリ笑って一つ頷く。すると、里桜は安心した様に笑った。
「リオ、少し席を外してくれ。」
「はい。畏まりました。」
リオはアルチュールに伴われて部屋を出る。扉がしっかりと閉まるのを確認したレオナールは、鋭い視線をロベールにやる。
「大叔父上、まさかとは思いますが、リオに無体な真似はしていないでしょうね。」
「リオの気持ちを蔑ろになど致しません。この事はリオ自身も望んでくれたのです。前々から考えていたことでしたが、リオには考える時間が欲しいと言われていまして。手続きをしたのは外遊が決まった頃でございます。」
レオナールはその頃のリオとの事を色々と思い出していた。
「その前から、少しずつ関わり合い方を考えておりましたので、今はお互いなんの障りもありません。」
レオナールは呆然としている。そこで、ロベールは堪らずに笑い出した。
「陛下。リオを我が娘に迎えたのです。」
レオナールは再び唖然としている。
「昨日から正式にリオ・マリー・ヴァロア公爵令嬢となりました。本当ならば、外遊を公爵令嬢として行かせてやりたかったのですが。」
レオナールの表情を見て再び、ロベールは笑う。
「いや、でも。公爵家に養子を取るとなれば、その公爵家と同格以上の公爵家の認可状がなければ…」
‘同格以上’と言うのがロベールにとってはとても厄介で、自身が七十一代国王の子であるから、レイベスやアルバートは同じ公爵でも王子、王女の子であって直接王との繋がりがないため格下になってしまう。後は、七十二代国王の子であるシドとアランの父ラウルは同格、他には七十三代国王の子であるジルベール、クロヴィスしか存命で同格以上の公爵がいない。
レオナールは何故今まで自分の所にこの話が入ってこなかったのかを考える。少なくとも、ジルベールやクロヴィスに認可状の話が来れば、レオナールの耳には入っているはずだ。バシュレ公爵にもつい先日会ったばかりで、そんな話はしていなかった。そこで、気がついた。
「
「バレてしまいましたね。シャルル様には陛下を驚かせたいから黙っていて欲しいとお願いをしたのです。シドにも口止めしていました。陛下の驚く顔を自分も見たいと言っておりました。」
ロベールは楽しそうに笑う。
「驚きましたか?」
「はい。」
レオナールは苦笑いの様な表情をする。
「陛下には大変失礼なことを致しました。しかし、久し振りにあんな鋭い視線を向けられました。」
「大叔父上。こちらこそ失礼を…」
「いいえ。悪ふざけをしたのは私の方です。もう一つ、僭越ながら陛下へお話したいことがございます。」
「何でしょうか。」
「娘のリオの事でございます。」
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