第112話 決断 2

[かける。おいで。]


 里桜たちが空を眺めていると、流れる雲の様に真っ白な天馬がやって来た。天馬は里桜の前に静かに降りると、挨拶でもしている様に顔を下に向ける。里桜はかけると名付けた天馬の鼻筋をゆっくり優しく撫でる。


「天馬が、嘶くこともなくあんなに従うなんて。」


 ロベールが里桜に荷物を渡す。


「リオ様、お気を付けて。」

「くれぐれもご無理はなさいません様に。」


 リナとアナスタシアが心配そうな視線を寄越す。この二人に何度心配をかけていくのだろうかと、里桜の胸は痛む。


「いつも心配をかけてしまってごめんなさい。」


 二人は微笑む。里桜もそれに微笑み返す。慣れた様子で天馬に跨がると、向きを変えさせる。


「ロベール様、みんなを宜しくお願いします。リナ、アナスタシア。それじゃ、行ってきます。」


 天馬は低く短く嘶いた。そしてみんなに見送られて、里桜は飛び立った。




 馬車で旅に出た時はあんなにも時間が必要だったのに、天馬に乗るとあっという間に王宮が見えてきた。最初は面食らった建物も、今や懐かしさを感じる。


「さっ、翔降りよう。」


 天馬はまるで言葉が分かっているかの様に、それを合図に下降する。王宮の庭には何か沢山の人がいる。


「翔、あれなんだろうね?」


 天馬は、その人の輪の近くに降りる。いたのは、何人かの騎士や兵士とレオナール、シド、ジルベール、クロヴィスだった。突然天馬で現れた里桜に騒然とする。


「このお嬢ちゃんは…本当に想定外のことをするね。」


 天馬で降り立った里桜に、ジルベールは呆れた様な声を出す。


「その天馬はどうした?」


 冷静に問いかけたのは、レオナールだった。


「ロベール様の天馬をいただいたんです。名前は翔。」

「天馬に名前を付けたのか?」

「ロベール様が、私なら十分な魔力量があるから平気だろうと仰って。呼んだらノーラまで飛んで迎えに来てくれたんですよ。よい子です。」


 ジルベールは一つため息を吐いて、


「そりゃ、飛んでくるだろうけど…都合の良い男みたいに言うなよ。天馬・・」

「それよりも。」


 里桜が天馬からストンと降りた。


「シド様、お手紙ありがとうございます。おかげで、現状がよく分かりました。ブラウェヒーモはジーウィンズ近くの街なんですよね。私、翔に乗って行ってきます。」

「ダメだ。」

「でも行かないと、としこさんがあぶないんですよね?しかもとしこさんの魔力を吸って白の魔力を手に入れているとか…ならば対抗できるのは私だけです。」

「リオ様いけません。」


 強く止めたのは第一団隊の副団隊長イレールだ。


「いいえ、行きます。そして、としこさんを助けます。」

「リオ様のお命まで危ないのです。今までの魔獣たちとは違い、魔物なのです。リオ様に行かせる訳には参りません。」

「しかし、としこさんを助けられる可能性があるのは私だけです。」

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