第24話 転生二十八日目 1

「救世主、トシコ様。今日も大変素晴らしい成果でございました。」

「そう?ありがとう。リリアンヌ。あなたのおかげで、魔術を使えるようになって、私、とっても今楽しいの。これからも、私のためによろしく頼むわね。」


 リリアンヌは一礼して部屋を後にした。


「リンデル。今日は渡り人・・聖徒?とお茶会だったわね。」

「はい。左様でございます。救世主トシコ様。」

「住んでいる寮とやらも見てみたかったし、ドレスも気になっていたし。それにしても、私の誘いを何度も断るなんて、あの子は何を考えているのかしらね。リンデル、湯浴みをしたいわ。あと肌のお手入れも。舞踏会まで日がないのだから、お肌はケアしておかないとね。」



「リオ様随分、魔力の調整が上手になりましたわ。」

「うん。これだけ、強弱をつけて操れるようになってきましたら、火、風、土と訓練を進めても大丈夫でしょう。」

「リオ様が連日お水を出して下さるので、王宮の掃除をしている者は大変喜んでいるようですわ。それに、こんなに沢山のお水を数時間のうちに出してもお疲れの様子もありませんし、素晴らしいですわ。」


 今日も大きなバケツにたっぷり六杯の水を出したが、里桜自身疲れは全く感じない。


「リオ様、疲れを感じないからと、無理をしてはなりませんよ。まだ、魔術を使うときは誰かいるところでやって下さいね。」

「はい。わかっています。」



「リンデル、デコルテのお手入れは入念にして頂戴。」

「はい。かしこまりました。髪のお手入れは、今になさいますか?それとも夜に致しましょうか?」

「髪の毛は夜にするわ。」

「はい。かしこまりました。救世主トシコ様。」

「明日は、レオ陛下とダンスレッスンだったわよね?」

「はい。その予定でございます。救世主トシコ様。」

「陛下には、かわいい私を見て頂きたいわ。たっぷりお手入れして頂戴ね。」



「1.2.3・・1.2.3・・」


 ココアのような少し灰色が入ったブルネットの髪は、リナさんによく似ているけれど、リナさんの方がもう少し暗くて、彼女の髪色を例えるならチョコレートだな、なんて言うことを考えながら自分が踊っていたことに気がつき、ワルツのステップも大分身についてきたのだと里桜は感じていた。


「どうしました?」

「えっ?」

「さっきから笑っているので。」


 里桜がシルヴァンと練習をしてもらうのはこれが三度目で、今日が最後の予定だ。それ以外は非番の兵士にパートナーをお願いしていたが、そうやって色々な人にパートナーを務めてもらったから分かる様になったのは、相手のリードによって踊り心地が随分と違うと言う事と、シルヴァンのリードがとても上手な事。踊っている最中に考え事が出来る余裕があるのも、そのリードのおかげだと思っている。


「いいえ、なんでも。ただ、オリヴィエ様のリードがとてもお上手なので、考え事をしてしまっていたのです。その事に気がついてつい。」


 ‘ははは’と今度はシルヴァンが笑う。


「オリヴィエ参謀どうなさいました?声まで出して笑っていらっしゃいますよ。」

「いや、市井で働きたいとか、洗礼をしたくないと言っていた人とは思えない話し方だと思いまして。」

「ダンスレッスンの時だけです。」


 少しだけシルヴァンの方に顔を近づけ、里桜はより一層の小声で話した。


「なぜ?」

「コラリー夫人の怖さは、アナスタシアさんの比ではないからです。淑女たるもの・・・とまた始まってしまいますの。」


 シルヴァンはまた笑った。その少年のような笑顔に見とれてしまった。


「何か?」

「男性にこんな表現正しいのか分かりませんが、美しい笑顔だと思って、思わず見とれてしまいました。」

「貴重なご意見ありがとうございます。しかし、おじさんをからかってはいけませんよ。」


 シルヴァンは一瞬赤くなったようにも見えたが、何事もなかったようにそう言った。


「いいえ。からかったのではありません。本当にそう思ったものですから。」

「1.2.3・・1.2.3・・はい。よろしいでしょう。渡り人様は、短期間によく、ここまで頑張りましたわ。オリヴィエ参謀とも息が合っていらっしゃるようですし。これで、陛下主催の舞踏会へ出席されても、大丈夫でございます。今日のレッスンはここまでと致しましょう。」

「はい。コラリー夫人、本日もありがとうございました。オリヴィエ様もお付き合い下さいまして、ありがとうございました。」


 里桜はスムーズに礼の姿勢を取る。その所作は既に何処かの令嬢のような完璧さだった。

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