第14話 カレンドル入国
馬車が国境の検問所を抜けてカレンドルに飛び込んだ瞬間、大量の土砂が川のように斜面を流れ落ちた。
ほんの数秒しか経っていないのに、景色は一変していた。木も草も無くなり、茶色一色の泥地がそこに広がっていた。
逃げ出せた兵や追手が、その泥地の向こうで、唖然としたような顔付きで立っている。
「あと数秒遅れていたら……」
クライが言い、ロッドとライラは体を震わせた。
目の前で起こった惨事にカレンドルの国境を守っていた兵士も驚いていたが、ようやく役目を思い出したらしい。名前や入国目的を確認しようとした。
それにロッドが近付いてヒソヒソと何かを見せて囁くと、兵士は直立不動になって、
「どうぞ!お気をつけてお通り下さい!」
と敬礼した。
「ああ。雨が」
ルイスが空を見上げて弾んだ声をあげ、皆で空を見上げると、久しぶりに青空が広がっているのが見えた。
取り敢えず自宅に来てくれとクライに言われ、ロッドの操る馬車に揺られて着いたところは、城だった。
イミアもルイスもライラも、ポカンと口を開けて、勘違いか夢ではないのかと考えた。
しかし、「お金持ち」の一言では済まない建物、「ちょっと使用人の数が多い」では片付かないほどの女官やメイド、「ガードマン」と誤魔化せない門や至る所で警備している兵や付いて来る近衛兵。
「クライの、自宅?」
イミアの問いに、クライはにっこりと答えた。
「そうだけど。
ちょっと、うちの両親に会ってくれないか。就職と住居の斡旋をできると思うし」
「いや、両親って……」
考えたくない、と思うライラだった。
「クライ、ロッド。本名は?」
訊くと、クライとロッドは気まずげに答える。
「クライスラー・カレンドラ。第一王子だ」
「従兄で側近のロドレス・マキシマム。公爵の二男です。
その、薬草の勉強にランギルに行っていたのは本当ですよ」
ライラは飛び上がりそうになったが、ルイスとイミアは苦笑した。
「貴族だとは思ったけど、王族だったかぁ」
「大丈夫よ、姉さん。今更口の利き方がどうのとか言ったりしないわよ。ね?」
「勿論だ」
クレイはホッとしたように笑い、
「まずは着替えて落ち着くといい。疲れただろうし」
と、メイドに合図を送った。
後でライラは言った。
「ホッとした私がバカだったわ。入浴とか着替えとか軽食とか、違うわよね。あれは、エステと着付けとお食事会って言うのよね」
と。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます