第12話 逃避行

 雨足が強くなった。その中を馬車で走る。

「国境までもう少しです」

 御者台でロッドが言う。

 水たまりができて走り難い山道を行く。

 と、背後を時々見ていたライラが短く息を呑んだ。

「追手が!」

 まだ距離はあるが、馬や徒歩や馬車で追って来る者がいた。同じように他国へ逃げる者かとも思いかけたが、中に鎧を付けた兵がいるのと、女子供が1人もいない事で、追っ手らしいと判断した。

「よくもまあ、ここまでする」

 クライは舌打ちをし、それをロッドが咎めた。

「お行儀が悪いですよ」

「もう少しなのに──!」

 ライラが顔をしかめ、ルイスは脱力したように笑う。

「クライさんとロッドさんは逃げてください。できれば、ライラも連れて行っていただければありがたい」

 それに、ライラとクライがギョッとした顔を向ける。

 イミアは空を見上げ、笑った。

「そうね。私と兄さんはカミヨだから、それで気が済むでしょう」

「バカを言うな。そんな事をする気はない。

 ロッド、馬車を止めるんじゃないぞ。命令だ」

 ロッドはやや迷った末に、短く

「はっ」

と応えた。

「これ以上の迷惑はかけられないよ」

「助けに来てくれてありがとうございました」

 ルイスとイミアはそう言って中腰になったが、ライラとクライに止められる。

「冗談にもならんぞ。

 ロッド、もっと急がせろ!」

「これ以上は無理です。泥に車輪を取られてスピードが出ません」

 馬で駆けて来る兵の、表情まで見える距離になった。

 と、馬車の前に騎馬兵が回り込み、そろそろと馬車はスピードを落とされて行った。

「くそ!」

 クライは腰の剣に手をかけたが、それをルイスが制する。

「知らずに乗せた事にしてください」

「みすみす捕まるつもりか!?」

「それもカミヨの運命だったのかも知れませんね。守れなかった事で、我々も加護を失ったのかも」

 ルイスは肩を竦め、イミアは羽織っていた外套のフードをかぶった。

「ライラ。君は逃げのびてくれ。これまでありがとう」

「嫌よ!」

 ライラはルイスに縋った。

「イミア、我が国に来て欲しい。薬草の事ももっと知りたい。君の事も、もっと知りたい」

「はあ?はあ」

 イミアはクライの一世一代の告白、のつもりだったセリフを

(うん?料理かな?本の事かな?まあいいか)

と流し、止められた馬車から下りようと外に目を向けた。

 そして、それが目に入った。

「ん?あれは……まずいわ!」





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