第9話 破滅の足音
ナナイ村は森に接した村だ。農業を営むか森で獣を狩るか、大抵の村人はそういう暮らしをしている。
イミア達も、薬草を作って売りに行く事と、ライラが村の食堂で昼の忙しい時間帯だけアルバイトをする事と、自分達の分くらいの野菜を庭で作る事で生計を立てている。
何せ、物を売ってはいけないと言われたのだ。薬も自分で売ればもう少し儲けも出る。作物を作って売れば金銭に換えられる。なのにそれができないので、暮らしはきつい。
年配の人は、大っぴらにはできなくともおすそ分けという形で助けてくれようとするのがありがたい。
イミア達はそれに感謝しながら、生活をしていた。
しかし、確実に街の様子は変わりつつあった。
護符を買うために借金をする者、免罪符を懐に入れて、護符を買うために強盗をする者。
まともな商人はランギルを出て行くし、残った店にはまともな入荷が無くなって行く。
そしてそれらの不満や不自由を解消するためにと、護符や免罪符を買いに走る。
クライとロッドは、日に日に荒んで行く首都の空気に、そろそろ潮時と感じていた。
「もうこの国を出た方がいいです。いつ誰に襲撃されるか。
それに、脱出も困難になりますよ」
ロッドは真面目な顔でそう言った。
「ああ。パン1つ買うのも、買って持ち帰るのも命がけになりつつあるからな」
クライは頭を振って嘆息する。
「この国も終わりか。
でも、イミア達を連れて行きたい」
ロッドはそう聞き、考える。
「乗合馬車ではなく、馬車を1台確保しておきましょう」
「頼む」
それでクライとロッドは、国に帰るための準備を始めた。
「ここも変わったねえ」
悲し気にルイスが言う。
おすそ分けする余裕があるなら売れ、寄こせ。そう言われて年寄りもどうしようもなくなるし、物を買うにも暴利を貪られる。
ナナイ村でさえも、荒んだ空気に変化してきていた。
家に押し込んで泥棒されても、免罪符を振りかざして逃げるし、酷ければ暴力を振るわれる。
無法地帯のようなありさまだ。
「ナナイ村は、のんびりとしたいい村だったのに」
家に閉じこもり、イミア、ルイス、ライラは暗い顔を突き合わせていた。
「せめて雨がやんで作物が生育していれば、もう少しはましだったかもしれないのにねえ」
ライラが嘆息する。
「これはやっぱり、神が怒っていらっしゃるんだろうなあ」
イミアは言い、力なく笑う。
通常なら、こういう異常気象の時などにもカミヨが神に祈祷をするという儀式を行っていたのだが、禁止されていてできない。
「ライラ、イミア。この国はおしまいだ。この前の人が言っていた通り、ここを出よう。この国はもう私達を必要としていない」
ルイスがきっぱりと言った。
「先祖はここで神を祀り、その代わりに神はここを守護する。そういう約定だったけど、違えたのは皇室だ」
「そうね。じゃあ、持って行けるものをまとめましょうか」
イミア達は荷作りを始める事にした。
イミアは部屋で荷物をまとめ始めたが、そもそもここへ来る時にかなり減らして来たので、すぐに終わりそうだった。
(あの女の子、ケガはきれいに治ったかしら)
薬を、お金に換えたんじゃないだろうかと心配になる。
そして思い出すのは、クライとロッドだ。
血や泥に汚れる事に頓着せずに貧民階級の子を抱き上げるような貴族や裕福な平民はいない。
(無事に祖国へ帰ったかしらね……)
何となく、無事を祈らずにはいられなかった。
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