第4話 食堂のニアミス
学校には食堂が2つある。片方は食券を買ってカウンターに出し、トレイに乗った料理を受け取って自分でテーブルまで運んで食べるセルフ式の食堂だ。安いし気安いし、利用者は多い。
もう1つは、一流レストランもかくやという食堂だ。値段も高いがクオリティも高い。給仕がついて、料理は略式とは言えフルコースだ。
イミアは断然安い方だ。日替わり定食が人気だ。
ミリスや取り巻き、アレクサンダーや取り巻き達高位貴族は、高い方しか利用した事は無い。
今日の日替わり定食のメインはチキンの照り焼きで、イミアも友人と食べていた。
「ここの日替わり定食を食べられるのもあと少しね」
「名残惜しいわ。安いし美味しいしボリュームはあるし」
しみじみと言い合う。
この友人は男爵令嬢で、本の趣味も合い、仲良くしてきた仲だ。そしてどちらも、向こうの食堂には縁の無い経済状態だ。
「同じ物が、町だと倍くらいでしょ」
「学生っていいわよね、本当に」
名残惜しく思いながらも、いつまでも座っていると席を探す学生の迷惑だ。立ち上がってトレイごと食器を返却すると、食堂を出た。
そして廊下を曲がったところで、泣きわめく女子グループが見えた。
「あ。ミリス様と愉快な仲間達だわ」
それに友人はプッと笑ってから、咳払いをした。
「何を騒いでるのかしら」
何となく見つかったらまずい気がして、角の観葉植物の陰に隠れながら眺めた。
アレクサンダーにミリスが泣きついているようで、取り巻き令嬢たちが口々に、ミリスを慰めるような事を口にしていた。
「午前中は図書館に来たのよね。向こうはまだ追試があったはずだけど、さぼったのかしらね」
「ミリス──様が図書館へ?何しに?かくれんぼでもしてたの?」
そのくらい、ミリスに縁の無い場所である。
「まあ、私に嫌味を言いに来たんじゃない?わざわざご苦労様だけど」
イミアはそう言って苦笑する。
その間に、ミリスはアレクサンダーに肩を抱かれ、その肩に縋り付いて退場して行った。
「大体、殿下はあなたの婚約者なのに。いいの?ミリスってば自分が婚約者になったような顔と振るまいよ?」
「ルル。とうとう様が消えてるわよ」
ミリアは一言言っておいた。
「まあ、どうでもいいわ。私は」
「政略結婚なんてそんなものだけど、あんたも醒めてるわね」
友人は呆れたように言い、それで2人は図書館に向かった。
その後で、すれ違った学生の会話を耳にした。
「ミリス・ハイデル侯爵令嬢、食堂でワインをかけられたって騒いでたぞ」
「ふうん。色々とあるなあ。さっきは教科書が破られてたとかで試験が受けられないって言ってたそうだけど」
「教科書は試験にはいらないしな」
「そうだな」
イミアとルルは、顔を見合わせて肩を竦めた。
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