7
翌朝、ようやく海が落ち着きを取り戻した頃、船長は全員に事情を説明した。そして右パドルウィールの捜索と、念のため左パドルウィールの点検作業が始まった。
「なあ……あれって、何だと思う?」右パドルウィールの捜索中、ゼレが言った。
波間の向こうに小さな影があった。最初は鳥かと思ったが、よく見ると人間だと分かる。
遭難者は砂漠を歩くための装備を身に着けていないらしく、身体が砂に沈みこんで身動きが取れなくなっているようだった。
「助けるべきだよな?」ゼレは聞いた。
「もちろんです。」とウィント。
パドルウィールの捜索は他のグループに任せて、彼らは海難救助に向かった。
「大丈夫ですか。」ウィントが遭難者の少女に声をかける。
「おい、しっかりしろ。」ゼレも呼びかけるが返事はない。
「気を失っているみたいですね。」
「まずいな。」
とりあえず半身が砂に埋まっているのを解消するために、サルベージ用の道具を使うことにした。ゼレは魔法陣の刻まれた帯を取り出すと、その帯で彼女を囲むように円を作った。
「ウィント、魔力を頼む。」彼は陣がずれないように抑えながら言った。ウィントは頷き、魔法陣へ手を伸ばした。手の甲で魔力の入力位置を触り、感触で陣の有効性を確かめる。それから、魔力
陣の内側の砂地が液状化し、上昇流が起きた。
ウィントは右手で彼女の左手を持ち、その手首をつかんで自分の方に引き寄せた。ゼレはその間に、魔力の出力を調整する。ふたりは呼吸を合わせ、彼女を砂地から引っ張り出すことに成功した。
「……うっ。」意識を失っていた少女がうめき声をあげた。
「よかった。」とウィント。
「気が付いたか。どこか痛むところはあるか?気分が悪いとか……。」とゼレ。
「水を……」彼女は極北語で、かすれた声でそう言った。
「……なんだって?」
ゼレは首をかしげたが、極北出身のウィントには、彼女が何と言っているのか理解できた。
「水だ。ゼレさん。」ウィントは極北語を使った彼女を不思議に思いつつ、そのままゼレに伝えた。
ゼレが腰の水筒の蓋を開け、彼女に差し出しだ。少女は水を飲もうとしたが、咳き込んでしまって上手く飲めないようだった。
見かねたゼレが言った。「とにかく、ここじゃこれ以上の処置はできない。船に連れて行こう。」
サンレザー号に戻ると、何人かの船員が駆けつけてきた。
「いったいどうしたんだ?」
「海に落ちて死にかけていたんだ。すぐに対処しなければ」とゼレ。
「分かった。そのまま医務室へ行ってくれ。俺達は船長に知らせてくる。」船員がそう言って頷いた。ゼレも無言で頷き、少女を背負うと船内へと続く扉をくぐっていった。
「あの子……極北語を話してた。」ウィントは確認するようにつぶやいた。
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