熱砂を掻くパドルウィール

33ポンド

第一章

1

木製の扉が開く音がする。

「おい、ウィント。朝だぞ。」

「ローダー……今何時?」

ローダーと呼ばれた男は腕時計にさっと視線をやると、ベッドの上の青年に向かってまた声を掛けた。

「まだ寝る気か?呆れたやつだ。もう飯の時間だよ」

「うーん……」

ウィントは眠い目を擦りながらゆっくりと体を起こす。

「ほら起きろって」

「分かったよ……」そう言いながら、彼は大きなあくびをした。

「ったく、昨日も遅くまでガラクタをいじり回してたんだろうけどな。いくらなんでも遅すぎるぞ」

そういいながらローダーは机の上に目をやる。そこには筆記具とともに、古めかしい金属製の筒や、複雑な魔術式が描かれた銅スレートなどが散らばっていた。

「ガラクタはないだろ……ちょっと使い道が分からないだけじゃないか。」

「それをガラクタって言うんだよ。ほら、行くぞ。」

「ちょ、引っ張るなって。頭をぶつけるかと思った。」「無駄に上背があるから低血圧になんだよ。早くしてくれ、食堂が閉まる。」

「分かってるって!」

二人は宿をとび出すと、駆け足で食堂へと向かった。

「まったく、相変わらず遅いな。あんたら。」

食堂の配給員も顔を覚えてしまったようで、あきれた顔をしていた。

────ダジワ市島。大ディリリエ砂漠の南部で最も栄えている都市だ。彼らはいま、ダジワの港に錨を下ろしている。

この世界では、かつて多くの国が興亡を繰り返してきた。大陸全土を統一した大国があったかと思えば、数多の小さな国々へと分裂していく国もあった。その歴史の中で幾度も行われてきた戦争により、都市は荒廃し、自然は多くが失われた。それでもなお人々が暮らすために、そして彼らが日々の生活を営むために必要な物資を運ぶため、商船が行き来している。そうした中でもかなり長い歴史をもつダジワは、比較的安定したコロニーとして長く繁栄してきた街でもあった。


「ローダー……今日で出港なんだから、別のやつ頼めばよかったのに。」

「別にいいじゃないか。同じメニューでも飽きないんだよ、俺は。」

二人は食堂の外席に座っていた。ここから見えるのはどこまでも続く砂漠だけだ。

「それにしても、この砂の下に町が丸ごと埋まってるなんて信じられないな。」ウィントがつぶやく。

「信じられないなら、実際確かめてみればいいんだ。お前はサルベージ技士見習いじゃないか。嫌って程見られるだろ?」

「そうだけどさあ……信じられないってのはあれだよ。なんかこう、ニュアンスというか……」

ウィントが言葉に詰まっていると、背後から助け舟が出された。

「言葉の綾、かな。お前が言おうとしてるのは。」

「副長。どうしたんです……か……」副長と呼ばれた男の方へ振り向いたローダーの顔が、みるみる青くなる。

「出港の時刻になってもお前たちだけがいないから、私がこうして探しに来たというのに……」

「ローダー、どういうことなんだ?出港は昼じゃないのか」ウィントがローダーに耳打ちする。

「俺も何が何だか……」二人の目の前に立つ男は、明らかに不機嫌だった。

「お前たちはいったい何を考えているんだッ!もう出港だというのに、こんなところで油を売っているとは……!」

「「申し訳ありません」」

「とにかく、すぐに支度をしてこい。」

「「はい」」二人とも、どうして自分が怒られているのかよく分からないといった表情をしている。


ウィントたちが準備を終えて港に着くと、今にもタラップが外されようとしているところだった。

「待ってくれ!僕らも乗る!」「やっと来たか。」

「まあいい。全員揃ったな。それじゃ、出航するぞ。」船長の声とともに船が動き始める。彼等の船、商船サンレザー号は、ダジワ市の港を離れていった。

「さっきはすまなかったな。少し感情的になりすぎた。」

先ほどの件について、副長であるカンカは謝罪の言葉を述べた。

「いえ、僕たちも悪かったですから。」

「それで、あの……なんで俺たちは怒られていたんですか?」「出港は昼だと聞いていましたが……」

「砂嵐の予報が出たんで、出港を5時間繰り上げすることになった。昨日、飛手紙とびてがみを送ったはずだが。」

「ローダー見た?」「いや、俺は……ウィントは?」「僕も、ええと……」

「まさか、まだ読んでいなかったんじゃないだろうな」口ごもる二人を見てカンカの目つきが変わる。

「うっ」

「まったく、何のためにわざわざ飛信紙を使って送ったと思っているんだ……。」

副長に呆れられるという貴重な体験をした二人は、その日一日肩身の狭い思いをして過ごすことになった。

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