強気な博士は、チビで弱虫で!?

白石 はく

第1話 離した手

目が覚め、気がつくとそこに居た。

そこはなんとも形容しがたい空間だった。

 明るいような、暗いような、寂しいようでどこか懐かしい。そんな空間に居た。


 

 「なんだここ...」ただそう考えていると、さきほどまで何も存在していなかった目の前の空間に、うっすらと、なにか人影のようなものが浮かび上がった。



 その人影には、顔であろう部位に、鉛筆で強く塗りつぶしたような黒いもやがかかっていて、自分が知っている人物なのかどうかさえ、確認する事ができなかった。

 


 しばらくすると、同じような背丈の人影がもう一つ現れた。こちらは自分と背格好が良く似ていたが、先程と同様にもやがかかっていたので、自分だと確認することは不可能だった。



 ここがなんなのか、どこなのか、質問しようにも声が出ない。そもそも、人影がこちらのことを認識しているような仕草が一切ないのだ。まるで存在しないものだと思っているかのように。



 その2つの人影はなにか言葉をかけあっているかのようだった。すると、最初に出てきた人影が、自分ともう一つの人影から遠ざかっていく。



 自分とよく似た人影は引き止める事もせず、遠のいていく人影を、呆然とただ見つめていた。

 


そのとき、なにか自分の中にふつふつとこみあげてくるものがあった。なぜお前は引き止めないのかと言う思いと、怒りの感情だった。



 考えるよりも先に体が動いていた。

 


必死に手を伸ばして掴もうとした。必死に声にならない声で叫んで引き止めようとした。しかし、人影は振り返りもせず、どんどん遠く離れていく。離れたくないと思うごとに、どんどんと遠く、遠く離れていく。

 


ふと辺りを見ると、もうそこには何も存在していなかった。最初に出てきた人影も、自分によく似た人影も、そして自分の身体や心でさえ、そこにあるのかどうか、理解することができなくなっていた。

 

 


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