しょうたくんと不審者
今日はしょうたくんママはおばあちゃんの介護に行く日です。かわりに中学生のよしつぐ兄ちゃんがしょうたくんを公園に連れて行ってくれました。
しょうたくんはなかよしのお友だちといっしょによしつぐ兄ちゃんにたっぷり遊んでもらいました。
ママたちとは違ってよしつぐ兄ちゃんは鬼ごっこやボール遊びも力いっぱいしてくれます。みんな夢中で遊んでいるうちに、あっと言う間に夕焼けチャイムが鳴ってしまいました。
『ぴんぽんぱんぽ~ん。こちらは〇×区役所です。まだ外であそんでいる子供たちは、いそいでお家へ帰りましょう。ぴんぽんぱんぽ~ん』
「あ~あ、もう帰らなくちゃ。しょうたくん、またあした」
「バイバイ。よしつぐおにいちゃんまたあそんでね」
チャイムを聞いてお友達はママとお家に帰って行きましたが、しょうたくんはまだ帰りたくありません。
「やだ~、もっとあそぶ!つぐにいちゃんとボール!!てつぼあ!!」
お家へ帰ろうと言われたしょうたくんは、だだをこねてしまいました。よしつぐ兄ちゃんは困っています。
「さっきチャイムで『いそいでお家へ帰りましょう』って言ってただろう?もうすぐ暗くて寒くなるし、早く帰らないと」
よしつぐ兄ちゃんは早く帰りたくて焦っています。ついには業を煮やして、しょうたくんを肩にかついでお家に向かいました。いわゆる『お米様だっこ』です。
「やぁだっ!!にいちゃんきらい!!」
しょうたくんは大きな声で泣きながら叫びました。
それを見ていた他の幼稚園の子のママたちがびっくり。顔を見合わせて何かを言いあっていたかと思うと、一人が電話をかけ始めました。
そこにやってきたのは「公園のおじさん」と呼ばれている町内会長さん。いつも公園を綺麗にしたり、怪しい人がいないか見まわったりと、子供たちを見守ってくれる、ちょっとこわいけれども優しいおじいちゃんです。
よしつぐ兄ちゃんも幼稚園に入る前からお世話になっています。
「あ、会長さんお久しぶりです」
「お、吉継大変そうだな。いつも下の子の面倒見ててえらいな」
よしつぐ兄ちゃんが気付いて挨拶しました。会長さんもニコニコと話しかけてくれます。よしつぐ兄ちゃんはいつも家の仕事のお手伝いをしたり、弟妹たちの面倒をみてくれる優しいお兄ちゃんなのです。
そこへ公園の近くの交番からおまわりさんが自転車に乗ってやってきました。
「こちら、〇〇中学の制服を着た三十代の男性が三歳くらいの女の子を連れ去ろうとしていると言う通報があったのですが」
「あ、こっちです!!」
さっき電話をしたママがよしつぐ兄ちゃんを指さしました。
実はおヒゲをそるのが苦手なよしつぐ兄ちゃんはいつも中途半端に剃り残しがあるので、ちょっと年上に見えてしまいます。
よしつぐ兄ちゃんのことも町内会長さんのこともよく知っているおまわりさんは困ってしまいました。
「えっと……通報があったので確認しなければならないのだけど」
「何かあったんですか?」
困り果てた顔で話しかけたおまわりさんに、よしつぐ兄ちゃんが不思議そうに訊き返します。
この街は落ち着いた住宅街で治安は良いところなのですが、それでもたまに不審者や変質者が出ることがあります。
中でも有名なのはピンクのランドセルを背負って小さな女の子に声をかける五十歳くらいのおじさんと、近所の中学の制服を着て小さな男の子の身体を触ろうとする七十歳くらいのおじいさんです。学ラン姿のおじいさんは、よしつぐ兄ちゃんのお友達も幼稚園の頃に被害に遭ったことのある常習犯。
最近おとなしくなったと思ってたのに、また懲りずにやらかしたのでしょうか?
「その……不審者が小さな子を連れ去ろうとしていると通報があって、通報した人が君を指さしてるんだ。……すまないけど名前と学校、クラス名を聞いてもいいかい?」
「え?まさか僕がですか!?僕は〇〇中学二年二組の歌川吉継です。こちらは弟の翔太で北斗幼稚園のばら組です」
「うん、そうだよね。知ってるけど、一応ちゃんと確認したって形が必要でね。
しょうたくん、ここにいるのはお兄ちゃんでまちがいないよね?」
肩に担がれたままよしつぐ兄ちゃんとおまわりさんのやり取りを見ていたしょうたくん、だんだん不安になりました。
「おまわりさん、どうしたの?」
びっくりして涙が引っ込んだしょうたくんがおそるおそる訊くと、『公園のおじさん』がちょっとこわい顔をして言いました。
「しょうたがあんまり泣いてたから、吉継が悪い人だと勘違いした人がおまわりさんを呼んでつかまえてもらおうとしたんだ」
「お兄ちゃま、つかまっちゃうの!?」
びっくりしたしょうたくんはまた泣きそうです。
「しょうたがあんまり泣いて、おまわりさんにちゃんと『これはぼくのお兄ちゃんです』って言わないとつかまっちゃうかもしれないな」
「お兄ちゃまつれてっちゃやだ!!おまわりさんきらい!!うわ~~~~ん!!!!」
お兄ちゃんが連れていかれると思ったしょうたくんはサイレンみたいな大声で泣きだしました。耳元で泣かれたよしつぐ兄ちゃんは頭が痛くなりました。
「だいじょうぶ、お兄ちゃんだってわかったから連れて行かないよ。優しいお兄ちゃんが大好きなんだね」
おまわりさんはしょうたくんの顔をのぞきこみながら優しく言い聞かせてくれます。
「ほんと、お兄ちゃまつれてかない?だいじょうぶ??」
「だいじょうぶ、しょうたくんがちゃんと『お兄ちゃんだ』って教えてくれたからね」
「やった!!つぐにいちゃんはやくかえろう!!」
やっとしょうたくんは泣きやみました。
「あんまりお兄ちゃんを困らせちゃだめだぞ。またこんなことになるかもしれない」
おまわりさんにさとされて、しょうたくんはしょんぼりしています。
「おにいちゃまごめんなさい。おまわりさんごめんなさい」
「ちゃんとごめんなさいが言えてえらかったな。あんまり吉継をこまらせちゃだめだぞ」
『公園のおじさん』に言われてしょうたくんは「うん!」と力強くうなずくと「もうお兄ちゃんを困らせません」と指切りをして帰りました。
それ以来、よしつぐ兄ちゃんが毎朝しっかりツルツルになるまでおヒゲをそるようになったのは秘密です。
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