第48話東の教会へ

「ハーヴェイ……」


ゴリさんは天を仰ぎながら、元部下の方を労うかのように呟いておりました。

そして、そのゴリさんの頬には一筋の涙が……


「……ゴリラの目にも涙……」


ポツリと呟いた私の声がゴリさんに気づかれ、すぐに私の元にやって来て頭に拳を当てグリグリとされました。


「お前なぁ、今いい感じの雰囲気だったろ!?珍しくしんみりしてたのに、お前と言う奴は!!」


「痛たたっ!!!」ともがきながらも、いつものゴリさんに戻った安心感もあります。


ヤンさんに助けを求めましたが『自業自得だ』と言われてしまいました。

いい加減、脳みそが飛び出るんでは?って思ったところでゴリさんの拳が頭から離れました。


「……さあ、行くぞ」


「……はい」


真剣な顔をしながら、東の教会のある方を眺めながら仰いました。

私は頭を擦りながら、ゴリさんの後を追って行きます。



◇◇◇



教会へ続く道のりでは、町の方々を騎士達が必死に守っておりました。

私の姿を見たフリード様は「ここは俺らに任せろ!!」と心強いお言葉を頂いたので、安心して教会へと行けます。

正直、手を貸そうかと悩んでおりましたが、フリード様がそう仰るのなら大丈夫でしょう。


町を突っ切り、真っ直ぐ教会へとやって参りました。

教会へ着いてすぐ、私達は言葉を失いました。


「……これは……」


私達の目の前には血を流し倒れているシモーネさん、レナさん。ちょっと離れたところに町の偵察を行っていたジェムさん、ルイスさん。そして、リルとゴンの姿もありました。


その姿を目にしたヤンさんの殺気がとてつもなく恐ろしかったことは言うまでもありません。


「──ちっ!!間に合わなかったか!!」


ゴリさんに焦りの色が見えましたが、まだもう一人おります。

クルトさんです。

倒れている中にクルトさんの姿はありません。


──あの方は強い。きっと大丈夫です。


ゴリさんは倒れている皆さんの元に駆け寄ろうとしましたが、それを許さないとばかりに攻撃が飛んできました。


「あれ~?アイツら殺られたやん?」


一番初めに出会ったアンデッドが、こちらを見ながら不気味な笑みを浮かべておりました。


見た所、この一体だけのようです。

となれば、もう一体はクルトさんが相手をしているに違いありません。


「……こいつらをやったのはお前か?」


ゴリさんは殺気を隠しもせず、アンデッドに尋ねました。


「そう……と言ったら?」


その瞬間、ゴリさんは物凄い速さでアンデッドに斬りかかっておりました。

『待て!!!』とヤンさんの静止も聞かずに。


ザシュッ!!


ゴリさんの体から血が吹き出た瞬間でした。


「ゴリさん!!!!!!」


倒れるゴリさんの元に慌てて駆け寄り受け止めた所で、目の前のアンデッドがとどめとばかりに剣を振り下ろしてきました。

反射的にゴリさんを背にかばい、私は腰に付けた剣を抜こうとしましたが、どう考えても間に合わない。


──せめて、ゴリさんだけでも!!


ゴリさんを必死に庇い剣を受ける覚悟をしましたが……痛くない。


そろっと見ると、私を庇ってくれるユリウス様の背中がありました。


「大丈夫か!?」


ユリウス様だけではなくマルクス様、オスカー様の姿がありました。そして、殿下の姿も……


「私は大丈夫です!!……·しかし、ゴリさんが死……」

「死んでないぞ」


私の膝元から声がかかった事に驚き、下を見るとゴリさんが私を睨みつけていました。


「……人を簡単に殺すな」


「よいしょ」とゆっくり体を起こしましたが、傷口からは血が止まらず流れ出ています。


「……俺は大丈夫だ。こんぐらいじゃ死なん」


平気そうに見えますが、結構な怪我人です。


ゴリさんは剣を手にし戦闘態勢に入りましたが、それをヤンさんが蹴り飛ばして止めるや『俺の言うことを聞かんからだ。怪我人は寝てろ。邪魔だ』と睨みつけておりました。


ゴリさんがヤンさんの言うことを聞いて、大人しくなった所で改めてアンデッドと向き合い、ユリウス様、マルクス様、オスカー様が一気に攻撃を仕掛けました。


しかし、アンデッドはクルクルと上手いこと交わしながらマルクス様、オスカー様に攻撃を与えました。

ユリウス様は、流石神速の持ち主と言う所ですか。

無傷でアンデッドと剣を交えておりました。


──あのアンデッド強い……


交わすことは出来ていても、攻撃が当たることはありません。

こうなると体力勝負になってきます。

体力勝負に持ち込むと、ユリウス様は圧倒的不利。

アンデッドは疲れ知らずですからね。


マルクス様、オスカー様は傷を負いながらもアンデッドに立ち向かい、斬られる。

その姿を黙って見ていた殿下が剣を抜きながら立ち上がりました。


「殿下?……まさか……?」


「マリー。私の格好良い姿、その目に焼き付けなさいよ?」


そう微笑むと、アンデッドに向かって駆け出しました。

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