第42話決戦に向けて

ようやく落ち着いて話を進めれるようになったのは『マム』について一時間後の事でした。


まず、運ばれた西の神父様は命に別状はありませんが重傷。

暫くは動けない様です。


次にファニーさんの事です。

ファニーさんの動向は常にキャリー様の部下の方から報告が上がっているようですが、ここ最近洞窟の中から聞こえる声が増えたと。

これは更にアンデッドが増えていると言うことでしょうか?

戦力を上げていると言う事でしょうか……?


そして、シャーロット様が掴んだ情報。それは──


「奴らは次の満月。アンデッドの力の増すその時を狙い攻め入るはずじゃ」


「次の満月!?明日じゃない!?」


「そうじゃ」


シモーネさんが思わず叫びました。

そう、次の満月はなんと明日なのです。


なるほど……月の力を借りると言う訳ですか……


皆さん開いた口が塞がりませんね。


「こうしちゃいられないわ!!オスカーすぐに城に戻るわよ!!」


最初に声を上げたのは殿下でした。


殿下は、この話を陛下と騎士団の団長方々に話をする為オスカー様とユリウス様、マルクス様を連れ急いで城へと向かいました。

帰り際、キッと私の方に向き会うと「……この件が終わったら、貴方に話がある」と死刑宣告のような言葉を残し去っていきました。


嵐が去ったかのように静まり返った店内では、キャリー様が「我々も行くか」と席を立ち、ゴリさんの頬に軽くキスをしてからエルさんを連れて店を出ていました。


その一部始終を見ていた私達ですが、最近ではキスぐらいではたじろぐ事も無くなり、すぐに明日の事を話し始めました。


「──僕は今から銃弾の作製に入るけど、樹液を銃弾にするなんて初めてだから成功するか分からない」


先程聖なる樹から採ってきた樹液を手にティムさんが申しました。

大丈夫。ティムさんならやってくれるでしょう。

皆さん口には出しませんが、ティムさんを信用しています。

ティムさんは「じゃあ、邪魔しないでよ」と一言残し、部屋へと篭ってしまいました。


「私はジェムとレナ、クルトを連れて東の教会へ行くわ」


シモーネさんが薬瓶を袋いっぱいに詰め、それをレナさんに渡すと、東の教会へ行くと言い出しました。


十中八九、東の教会は真っ先に狙われる。神父様を守る人間が必要だとシモーネさんが仰いました。


「それなら私も行きます」


「マリーはダメよ。傷がまだ癒えてないもの。今のままじゃ足でまといよ?」


立候補したのですが、見事に振られてしまいました。

確かに私の体は万全の状態では無いかもしれませんが、先程よりは動けるようになりました。


「大丈夫。こっちにはクルトがいるもの」


シモーネさんが優しく私を宥めるように頭を撫でくれました。

ですが、アンデッドの強さは皆さん分かっているはず。

四人で相手をするのは無理です。


「…………」


私の顔色が曇るのを見たヤンさんが『フェン、リル、ゴンを付ける』と仰ってくれました。

フェン達がいれば安心です。彼らは優秀な番犬ですから。


「じゃあ、残りのルイス、ニルス、ヤンは俺と一緒に町の偵察だ」


私の名前が挙がらないのは「お前は休め」と言うことです。


──まあ、休めるのは実質数時間なんですがね。


こうして、皆さんバタバタと『マム』から出て行き、残されたのは私だけです。

急に静かになった店内を見渡し無意識に溜息が出ました。


この溜息は何の溜息でしょうか。

皆さんに置いてかれたから?それとも自分の不甲斐なさにでしょうか?


「はぁぁ~……」


こんな事考えている時点で私は皆さんに遅れを取っているのでしょうね。

皆さんは今この町を守ろうと必死になっています。

私ができるのは、早く傷を癒し現場復帰を遂げることです。


──ティムさんお手製の回復薬でも飲んで一眠りしましょう。


明日の決戦に控えて……


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