第30話ゴリさんの秘密2

ゴリさんはいよいよ観念したのか、私達に座れと促すとポツリポリゆっくりと話し出しました。


「……まず、俺の名はルッツだ。ゴリラでは無い」


「「いや、知ってるし」」


思わず皆さんと声が被りました。


「ははははっ。──……はぁ~。俺はな……元、隠密部隊隊長だ」


まあ、先程の質問の件で薄々勘づいてはおりましたが、改めて言葉にされるとやはり少々驚きますね。


「えっ?ちょっと待って、ゴリさん。体で隠密?」


いい所に気づきましたねルイスさん。

確かに目の前のゴリさんはお世辞にもスリム体型とは言えません。見事な中年体型です。

この体で俊敏な動きが出来るかどうか……


皆さん疑いの目でゴリさんを見つめていると「あほっ!!若い頃はこれでも色男だともてはやされたもんだぞ?」などど戯言を仰るもんだから、疑いが増しました。


まあ、とりあえずそこはおいおい聞き出すとして、話を先に進めます。


「俺は長年隠密部隊の隊長としてこの国を支えていたが、ある日、こんな陽の当たらない仕事をしていていいものかと思い始めてな。気づいたら辞職届けを出してたわ」


「わはははは!!」と笑っておりますが、笑い事ではありませんよ!?

仮にも隊長と言う役職をもらっている人間がおいそれと辞めれるものではありませんよ!?


「国王陛下には怒鳴られたがな。条件を飲むことで辞職を許された」


その条件は?


「平民として国を支えること……だ」


格好つけて言われていますが、大したこと言っておりませんよ?

要は平民として住むことは許しますが、国の犬として働き続けろと言われている様なものじゃないですか。


言われてみれば確かに国の重鎮の方々の依頼も少なからずあり、このゴリラはどうやって仕事を取ってくるのか不思議でもありました。


──陛下がバックにいたとは……


「まあ、ここまでだと俺は都合のいい駒だと思っているだろ?」


そうですね。


「だがな、俺は駒でもいいと思ってる。城を出たからこそ、お前達と出会えた。今の生活が楽しくて仕方ない」


ニカッと笑うゴリさんに、思わず私達は赤面してしまいました。

ゴリさんがいいのなら、私達は何も言うことはありません。

その証拠に皆さんいつもの様にゴリさんをからかっています。


「──……で、その方はゴリさんの彼女?もしかして……嫁!?」


「ちがっ!!こいつは──」

「そう!!私は隊長の嫁だ!!」


ルイスさんの問いかけに答えようとしたゴリさんの言葉を遮って、キャリー様が興奮気味に話し出しました。


「私は隊長の事を忘れた事は一日とない。今日もルッツ人形を抱きしめて朝を迎えたところだ」


恍惚とした表情で仰るキャリー様に少々ゾワッと鳥肌が立ちました。

そもそもルッツ人形とは?


「それなのに、私を捨てて城を出てしまって……私がどんな気持ちで貴方を探していたと思っているんです!?」


顔を手で覆い悲しむキャリー様の姿に皆さん軽蔑した様な目でゴリさんを見ています。


「いや、ちょっと待て!!違うぞ!!」


「何が違うって言うの!?女にここまで言わせてるのよ!?」


「いや~、まさかボスがこない男やったとわな……」


「ゴリさん、最低~」


「キャリーさん!!俺は!?ゴリさんなんて俺にしなよ!!」


ゴリさんが慌てて誤解を解こうとしていますが、シモーネさん初め、クルトさん、レナさん、ルイスさんに阻まれて全然話ができません。

皆さんに責められたゴリさんは、限界を超えたらしく「うるせぇ!!」と一言。


「いいか、耳の穴かっぽじってよく聞け。こいつはな、嫁でもなんでもない。俺につきまっとっているただの変質者だ!!」


「酷い!!!」


キャリー様がゴリさんの言葉を聞き、すぐさま反論。

顔を覆い、泣き出したキャリー様の背中を優しく摩っているシモーネさんとレナさんが女の敵とばかりにゴリさんを睨みつけております。


「お前らな……」


ゴリさんが疲れたようにボソッと呟きました。

しかし、ゴリさんが嘘を言っているようには思えません。

ゴリさんはこんな顔しておりますが、女性をぞんざいに扱うような事はいたしません。


そんな事を思っているとポンポンとヤンさんが私の肩を叩いてきました。


「…………」


ヤンさんは『俺が説明する』と仰り、皆さんの前へ。

どうやら、ヤンさんはゴリさんに任せていたら日が暮れてしまうと判断した様ですね。


──賢明な判断です。


そうして、ヤンさんからゴリさんとキャリー様の関係を説明して頂きました。

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