第26話襲撃

「女子供はマリーの方!!年寄りはレナ!!怪我人は私の方へ!!」


テキパキとシモーネさんが指示を出し、私はその指示通り女性と子供を避難所としてお借りできた、モーガン子爵の屋敷へと誘導しております。

レナさんは能力を活かし、足腰の悪いお年寄りを担ぎ屋敷を何往復もして頑張っています。

シモーネさんは次々にやってくる怪我人の手当で大忙しです。


「私達にも何かお力になれることはありますか?」


声をかけてきたのは、この屋敷の当主モーガン子爵とその使用人の皆様。

モーガン子爵の当主様はつい最近代替わりになり、長男のヴィリー様が当主に着任したばかりです。

ヴィリー様はとても優しい方で、避難所として使用をお願いした際も快く承諾してくれました。

更には手伝いまで買って出て頂けるとは、どこまでも良い方です。


「ヴィリー!!こっち手伝ってちょうだい!!」


突然のシモーネさんの大声に驚きました。

いくらヴィリー様が優しい方だからと、呼び捨てるとは……

仮にも貴族ですよ?


「ああ、いつもの事です。シモーネとは幼なじみですから」


私が怪訝な顔でヴィリー様を見ていると、察したヴィリー様が私に説明してくれました。

まさか、シモーネさんの幼なじみが貴族の方とは思いも知りませんでした。


「ちょっと!!早くしてよ!!」


「分かったよ。相変わらず人使いが荒いんだから……」


文句を言いながらも、シモーネさんの指示に従うヴィリー様の顔はどことなく、綻んで見えました。


──あぁ~、この方はシモーネさんの事を……


良かったですね、シモーネさん。嫁入り先が見つかったじゃないですか。

当の本人シモーネさんは全くその気が無い様子ですがね。

まあ、恋愛と言うものはいつ何が起こるか分からないものですからね。

ヴィリー様に無言の声援を送りながら、誘導を続けていると──……


ガシャーーーン!!!!


窓ガラスを割ってクルトさんが飛び込んできました。

いえ、飛び込んできたと言うより、と言った方が正解の様です。


クルトさんは額に傷を負っている為、血で片目が使い物になりません。

それでも、直ぐに体勢を立て直しアンデッドを待っています。


「クルト!!大丈夫なの!?」


「これぐらいかすり傷や。それより、ここからはよ逃げ。もうここは目付けられとる」


クルトさんの目線の先を見ると先程まで屋根の上にいたアンデッドの様ですが、手に持っている武器は何ですか?

剣の様ですが、鞭のように丸まっていますよ!?


「──あれはウルミーっちゅう武器や。僕も初めて見たんやけど、あれはヤバいで。剣が鞭のように靱やかに動くんや。しかも、アイツはその剣を自在に操っとる」


武器の説明をしながら「参ったな……」と苦笑いしながら仰りました。


「ここは僕が時間を稼ぐ。まあ、あんまり持ちそうもないで、出来るだけ早う頼むわ」


そう言い残し、再びアンデッドの元へ。

私達はクルトさんの意志を無駄にする訳には行かないと、屋敷の裏手から逃げようと裏口を開けました。


「──……なんて事……」


裏口を開けると、そこにはアンデッドが3体が待ち構えていました。


──ちっ!!挟まれましたか……


しかし、このアンデッドは意志を持っていないタイプのはずです。

それならば、私だけでも何とかなりそうです。


そう判断するよりも先に体が動き、アンデッドに攻撃を仕掛けていました。


「シモーネさん!!ここは私に任せて、皆さんを早く安全な場所へ!!」


「私も残るわ!!」


「いえ、レナさんは動けない方を優先して運んでください!!それはレナさんにしか出来ない事です!!」


レナさんが私の援護を買って出てくれましたが、レナさんにはレナさんの仕事があります。

レナさんは私の目をジッと見て「……すぐ戻るわ」と伝えるや否や、凄い勢いで動けない方を担ぎあげ安全な場所まで走って行きました。


「……さて、3対1ですか……中々骨が折れそうですね……」


3体のアンデッドを見ながらポツリと無意識に声が出ていました。

しかし、ここから先は通す訳には行きません。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る