第48話駄犬の飼い主

今私の前には土下座で謝る小隊長のランベール様と、その隣で不貞腐れているシモン様。


あの後、騎士の方が急いで小隊長様を呼びに行かれ、暫くすると物凄い足音と共に、私の前で滑り込みながら華麗な土下座を披露してくれました。


「マリアンネ!!ほんっっっっっとうにすまなかった!!!──お前も謝れ!!!」


「俺は悪くない!!俺は縄で首を絞められた挙句、縄で巻かれたんだぞ!?」


それは自業自得です。あの場合、殺らなければ殺られる場面でした。


シモン様はランベール様に頭を押さえつけられておりますが、シモン様は意地でもご自分の非をみとめません。


「……コイツは少々自意識過剰な所があってな。一度そうだと思い込むと、中々言う事を聞かんのだ……」


ランベール様は、少々諦め交じりに仰りました。


よくそれで副隊長やってますね……


「いえ、ランベール様が謝ることではありません。元はと言えば、私の話を全く聞かなかったシモン様の責任です」


「貴様!!俺が本気を出せば──!!!」


未だに、興奮が収まらないシモン様の口をカルム様が素早く押さえてくれました。

駄犬はよく吠えますからね。


「マリー、シモンは私が責任を持って押さえ込んでいますから、今の内に掃除をお願いします。……ああ、随分部屋が荒れているようなので、最低限の物を残してあとは処分して頂いて結構ですよ」


「──っ!!?んん──!!!!」


カルム様が悪い笑みを浮かべながら仰って下さいました。

そのお言葉に甘えて、掃除をさせて頂きましょう。

シモン様は何かフガフガ言ってますが、私には何を言っているのか分かりません。


私は誰にも邪魔されることなく、シモン様の部屋を掃除出来ました。

終わった後、部屋を見た時のシモン様の絶望に近いお顔を見た時は少々気分が良かったです。


──さて、残りの部屋もこの調子で参りましょう。


次の部屋は駄犬の飼い主、ランベール様のお部屋でした。

ランベール様は終始申し訳なかったと謝り続けていた為、居心地が悪く早急に終わらせました。


お次は、第二騎士団副団長のニコラ様のお部屋です。

料理長エリック様のお兄様ですね。

幼い頃はよく遊んでいただきましたが、ニコラ様が学院に入学してからはお会いすることも少なくなり、騎士団に入団したら全く見かけなくなりました。


──私にとってはお兄様的存在です。


コンコン


「失礼します。掃除に参りました、マリアンネです」


「待ってたよ、マリー」


幼い頃と変わらぬ笑顔で出迎えてくれました。


この方は、カデュール公爵夫妻が仰っていたように、見た目もそこそこ良く公爵家の次男、更には副団長という事で女性からの人気が高いのです。


「お久しぶりです、ニコラ様。早速、掃除に取り掛からせて頂きます」


箒を持ち掃除を始めようとしましたら、ニコラ様に腕を掴まれてしまいました。


「……マリー。エリックと婚約したって本当かい?」


──フラン様ですね……。余計な事を……。


「……はぁ~、何か勘違いをしている様ですが、私は婚約も結婚もする気はありません。脳筋バカ夫婦の作った借金を返済するまでは、身を固めるつもりはありません」


──この事はフラン様にも、エリック様にも伝えたはずですが?


どうやらニコラ様の所までは伝わっていなかったようですので、ニコラ様にも溜息混じりでお伝えしました。


「……エリックの奴、しくじったらしいな……」


私の返事を聞いたニコラ様は、何やらボソボソ言いながら微笑んでいたかと思えば、急に此方を向き直し、私から箒を奪って行きました。


「ニコラ様!?返してください!!」


「掃除なんていらないよ。自慢じゃないけど、私の部屋は差程汚れていないからね」


確かに綺麗に整理整頓されたお部屋ではありますが、それでは私が来た意味がありません。


「じゃあ、昔のように私の膝の上で話でもしようか?」


にこやかな笑顔で言われてますが、私はもうお子様ではありません。

ニコラ様から見ればまだまだ子供かも知れませんが……


「ニコラ様、お遊びは他の方でお願いします。私は仕事で伺っていますので」


「どうして、そんなクソ真面目な子に育っちゃんだろうなぁ。小さい頃はニコラ兄って呼びながら抱きついてきたのに」


ニコラ様は何処か寂しそうに、昔を振り返っておりますが、あの脳筋バカ夫婦を親に持てばこうなります。

……そんな事より、早く箒を返してください。


「……まあ、今日はこの辺にしとくよ。マリーの顔も見れたしね」


私が言いたいことが分かったのか、ようやく箒を返してくれました。

ロスした時間を取り戻そうと、急いでニコラ様の部屋を掃除いたします。

しかし、掃けど掃けどニコラ様が散らかしてくれます。

最終的に我慢の限界を超えた私により、ニコラ様は逆さ吊りの刑に処しました。


その様子を騎士の方々に目撃され、化け物でも見るような目で私を見てきました。


──何ですか、あの顔は?


そうして日が落ち、暗くなった頃にようやく全ての部屋を掃除し終わりました。


──二度目は御免です……



本日のお給金……騎士団寮の掃除10万ピール+特別手当5万ピール


借金返済まで残り5億8千73万2100ピール

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