第28話三男
サンドイッチを届けたら帰れると思っていたのですが、どうやら本命はサンドイッチではなく、私のようです。
「……私に何用でしょうか?」
「ふふっ。貴方にとっても良いお話よ。……ねぇ、あなた」
私にいいお話ですか?
借金が帳消しになったとかですか?
もしくは、割のいい仕事先の斡旋ですか?
どちらにせよ、勿体ぶらずに早く話してください。
「……マリー嬢。三男のエリックと結婚してくれないだろうか?」
三男?エリック様ですか?
いや、それより何故婚約を吹っ飛ばして結婚なのでしょうか?
「本当はニコラと縁談を組もうとしていたんだけど、エリックの方が貴方を大変気に入ってしまってね」
ニコラ様は存じております。次男の方ですね。
ニコラ様には幼い頃、よく遊んで頂きました。
お兄様が欲しかった私には、ニコラ様はお兄様の様な存在です。
しかし、エリック様は存じてないですね。
私を気に入ったと申しておりますが、人違いでは?
「……すみません。結婚の話よりも、エリック様と私は面識が、無いのですが……」
「何言ってるのよ!!今日も会ってるじゃない!!」
本日もお会いした?はて?
「……フラン落ち着きなさい。マリー嬢が知らないのも当然だ。あいつは子供の頃は体が弱く部屋からあまり出れなかったし、城でもあまり名を名乗っていないらしい」
城ですか?と言う事は同僚でしょうか?
「まったくあの子ったら肝心な事を言わないのね!!そう言う所あなたそっくりよ!!」
「そう言うな。あいつも言うタイミングが分からんのだろう」
あの、そろそろ種明かしをしてもらって宜しいでしょうか?
「ああ、すまないマリー嬢。私達の三男エリック・カデュールは、城で料理長をやっている」
……料理長……?
確かに、料理長の名を存じていませんでした。
皆さん料理長、料理長とお呼びになるのでそれが普通になっておりました。
「ごめんなさいね。ウチの子こういう事に疎いのよ」
少々お待ち下さい。まさかの名前に頭が追いついておりません。
一旦、整理しましょう。
料理長は何を隠そうカデュール公爵家の三男で、エリック様と仰るようです。
そして、そのエリック様が何故か私を気に入りカデュール夫妻に縁談の話しを持ちかけてくれとお願いしたと言う訳ですか?
──という事は、料理長は最初から私を嵌める為にここに送り込んだという事になりますね。
「どうかな?君にはとてもいい話だと思うんだが?」
「……すみません。大変光栄な事ですが、今の私は平民の借金持ちですので、公爵家になど到底嫁げた者じゃありません。ですので、このお話は無かったことに──」
「ダメよ!!私の息子とクレアの娘が結婚して身内になるのが夢なの!!平民なんて気にしないし、借金なんて私達がどうにかするわ!!」
フラン様、そんな事を思っていたのですね。
──勝手に子供を巻き込まないで下さい……
フラン様の夢だろうと、このお話は到底受け入れられません。
「こう言うのも何だが、うちの子達は優秀だし顔もそこそこだと思っているんだが?」
確かに、長男のシリル様は次期当主様で今は領地の半分を任されておりますね。次男のニコラ様は第二騎士団所属で副団長を勤めております。そして、三男のエリック様は城の料理長です。
「ねぇ、マリー。うちの子の気に入らないところがあるなら言ってちょうだい。直させるわ」
そうですか?では、失礼して……
「……そうですね。まず、気に入った女性に自分からアプローチが出来ず、両親に縁談をまとめてもらおうなどと考える卑怯者などお呼びじゃありません。まずはご自身でアプローチお願いします。──続いて、私より弱い男性など以ての外です。体力筋力ついでに精神面も鍛えてから来て下さい」
失礼だとは思いましたが、こればかりは言わせてもらいたかったのです。
……流石に言いすぎましたか?
カデュール夫妻がポカーンとしてしまいました。
まあ、これで嫌われれば私としては都合がいいです。
「あはははは!!やっぱり貴方はクレアの娘ね!!最高だわ!!」
急にフラン様が笑いだし、止まらなくなってしまいました。
「ああ、マリー嬢。君は私達の思った通りの女性だ」
「これは、何がなんでもマリーを私の娘にするわ!!」
何と言うことでしょう。嫌われるどころか株が上がってしまいました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます