第4話ブラッド家

今、私は多分客間であったであろう場所で、ソファーの様な物に腰掛けています。


目の前の前には、先程ブラッド侯爵のご子息だと言うお方が、同じくソファーの様なものに座っております。


──てっきり女性だと思っていたんですが、男性だったのですね。


「……ブラッド侯爵にお子様がいたと言うのは聞いておりますが、何か証明出来るものはありますか?」


確かにブラッド侯爵には二人のお子様がいらっしゃいます。

一人は幼い頃、野犬に襲われ命を落としたと聞いてます。

もう一人は、屋敷を出たっきり行方不明と聞いておりますので、この方が本物かどうか証拠が欲しいのです。


「……そんな物はない」


「では、貴方の身柄を拘束します」


証明がなければ、ただの不審者です。


「待て待て待て!!何故そうなる!?」


「私は不審者を捕まえに来たので、正常な判断かと思いますが?」


「だから、俺はここの人間だと言ってるだろ!?」


「証明がなければ、貴方が本物のご子息か分かりませんので」


この方、中々往生際が悪いですね。

早くしなければ、私が城を抜け出している事がバレてしまいます。


──仕方ありません。


「うわぁぁぁ!!何するんだ!!!」


埒が明かないので、自称ご子息様を縄でグルグル巻にして、担ぎあげます。


「……男の方にしては軽すぎますね。もう少し筋肉をつけた方がいいですよ?」


「お前、何者なんだよ!!?」


じたばたとうるさいです。

いっその事、気を失って頂きましょうか?


「……これ以上暴れるなら、少々眠っていただくことになりますが?」


そう言うと、ピタッと動きが止まりました。

最初からそうして下さい。


「……俺は……殺されるのか?」


「何故です?私は無闇な殺生は好みません」


ご子息様は真っ青な顔をして、私に聞いてきました。


「大丈夫ですよ。大人しくしていてくるのならば、手荒な真似は致しません」


「あ……死んだかも……」


更に顔を青くしたご子息様は、大人しく私に担がれ屋敷を後にしました。


◇◇◇


「──それで、連れ来たのか?」


「ええ、証明出来るものもありませんでしたし、あんな屋敷とても住めたものじゃありません」


無事に『マム』の地下へと戻って参りました。


「……お前は何で、幽霊の真似事なんてしてたんだ?」


これまでの経緯を簡単に説明したら、お次はゴリさんの尋問開始です。


「……真似事なんてしてねぇよ。俺はこれが通常なんだ」


長髪に、ヨレヨレの服がですか?

貴方、侯爵家のご子息を名乗るならもう少し身なりに気を配った方がいいですね。

そこら辺のゴロツキの方が余っ程小綺麗ですよ?


「それで、お前はなんで、あんな屋敷にいたんだ?」


「だから、俺はブラッド侯爵の息子だと言ったろ?……親父が殺人なんてするはずないんだ。俺は、親父の無念を晴らしに来たんだ!!俺の一家を殺した殺人鬼を俺が捕まえてやるんだ!!」


なるほど、表向きはブラッド侯爵が犯人と言われてますからね。

それを、自ら犯人探しとは立派な事です。


「そう言えば、何か唸ってましたが、あれは何です?」


「……唸ってもねぇよ。あれは──」


ぐぅ~~~~~~


あっ、なるほど、理解しました。

腹の虫の音でしたか。


ご子息様は顔を真っ赤にしながら俯いてしまいました。


──お腹が空いているなら、空いていると言えばいいものを……


「……マリー、女将に食いもん貰ってこい」


「仕方ありませんね」


すぐに女将の所へ行き、軽食を貰って来ました。


ご子息様は飢えた犬のように召し上がっていますが、もう少し綺麗に食べれないんですかね?


「食いながらでいい。お前これからどうする気だ?」


「……あの屋敷に居ると、また縄で巻かれて連れてかれそうだからな。他に住む場所を探す」


私に言ってます?私はもう捕まえませんよ?

任務は完了しており、この件は終了です。


「それがいい。──そうだな、暫くはここにいればいい。働き口も探してやろう」


ゴリさん、気味悪いほど親切なんですが?

頭でも打ったんでしょうか?


「それよりも、ゴリさん。報酬を下さい」


「ああ、そうだったな。──ほれ」


ドサッとテーブルの上にお金の入った袋が置かれました。

音からして、期待できそうです。


「ありがとうございます。では、私は城へ戻りますので、また何かあれば連絡ください」


「ああ、お疲れさん」


お金の入った袋を握りしめ、足早に城へと帰ります。



本日のお給金……幽霊退治5000ピール+手当て2000ピール


借金返済まで残り5億7千999万2100ピール

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る