見えた先には大人の階段
「なあ夜」
「なんだ?」
デートも終盤に差し掛かり……いや、もう後は帰るだけなんだが俺はふと思ったことがあった。
こちらを向いた夜に視線を合わせ、俺は今日の過ごし方を思い返しながら話を続けた。
「俺たちのデートさ……デートって言えたかな?」
「う~ん、オレたちらしいとは思うけど」
映画を見に行ったりオシャレな喫茶店とかはまだいいが、それ以外はカラオケとかゲーセンなどとにかく遊ぶ場所ばかりだった。俺もどことなく男の時の夜と接するような感覚だが……まあでも、夜が楽しそうにしていたから良しとするか。
「……ま、いいか。俺たちらしい……そうだな。俺と夜なんだから」
「そういうことだ♪」
ニコッと笑った夜が腕を組み、俺は腕から伝わる柔らかさを感じながら帰り道を歩く。チラッと夜を盗み見ると彼女は俺を見ていてバッチリと視線が絡み合い、どうやら狙ってやっているのはいつも通りらしい。
それからしばらく歩いてた時だった――夜からこんな提案がされた。
「……なあ勇樹」
「うん?」
「今日母さんも父さんも居ないんだ。だから泊まりに来いよ」
「……女の子から泊まりに来いよは斬新だな」
「いいだろ別に! つうかオレたちには珍しいことでもないだろうが」
いや確かにそれはそうなんだが……だってもう夜は男じゃなく女なんだし……でも答えを待っている間に段々と表情が暗くなる夜を見ていると、何というかこっちが悪いみたいな気持ちになってくる。
「……ダメ?」
「行く」
彼女を悲しませるなんぞあり得ない、ということで夜の家に行くことが決まった。
「……えへへ♪」
「……可愛すぎかよ」
もうね、全ての仕草が可愛いんだ夜は。
泊まりに行くことが決まってからずっと夜はニコニコと笑みを浮かべ、片時も俺から離れなかった。それは途中で家に向かい、簡単に着替えを用意する間も変わらなかった。
「全くラブラブねぇ?」
「うるさいって」
「ずっとこうだから安心してよおばさん」
「あら~♪」
母さんの目が嬉しいでしょと語っている……嬉しいに決まってるだろ。
準備を終わらせ夜と一緒に彼女の家に向かった。本当に今日は帰ってくるのが遅いのか誰も居らず、俺と夜が中に入ることでやっと明かりが点いた。
「勇樹は夜飯何が良い?」
「……う~ん、何か作ってくれるのか?」
「任せろよ。ハンバーグとか他にも簡単なモノなら――」
「食べたい! つうか俺も手伝わうわ」
「了解♪」
弁当もそうだが、手作り料理ともなるとテンションが上がるのは当然だ。
まあ当然俺も手伝うが、夜と二人で料理をするというのも中々良い響きである。それからまず俺が一番風呂をいただくということで、夜よりも先に風呂に入った。
「……今日は良い日だったな」
放課後デートならいくらでもしたが、今日みたいにずっと一緒に居るというのは最近なかった。夜が男の時はお互いの家に何度も泊まったりしてたけど、あいつが女になってからは初めてだから。
「湯加減どうだ?」
「全然いいぜ……うん?」
おかしい、どうして夜の声が聞こえたんだろうか。
しかも、しゅるしゅると服を脱ぐ音まで聞こえるのは一体……まさかと心臓が大きく鼓動する中、ガラッと戸を開けて夜が浴室に入って来た。
「お、おまっ!?」
「別に良いだろ? オレたちは彼氏彼女の関係なんだし、こうやって一緒に風呂に入るのはおかしくないぜ」
「……そりゃそうかもしれんが」
体にタオルを巻いただけの夜が目の前に居る。彼女も彼女で少し緊張しているんだろうが、それよりも俺は彼女の大きな胸と形の良い腰に目が行ってしまい瞬時にサッと顔を背けた。
「別にいいんだぞ? ジッと見たってオレは怒らないから」
「ジッと見たくないつもりはないけど……早く体洗って温まらないと風邪引くぞ」
自分でもビックリするくらいの速さでタオルに石鹼を付けて泡立てた。そのまま体に擦り付けたが、背中からギュッと夜が抱き着いてきた。今の僅かな間で体に巻いていたタオルを外したのかダイレクトに背中に彼女の肌の感触が伝わってくる。
「なあ勇樹……オレの体、魅力ないかな?」
「そ、そんなことは……」
「触りたいとか何も思わないか? 好きにしたいとか思わない?」
「……ぐっ……ぐぬぬ」
んなわけあるかいと大声で叫びたかった。
何度も言うが夜は本当に美少女でスタイルも抜群、許されるなら欲望を全て開放してしまって好き勝手触ってみたいとか悪戯してみたいとか思わないでもない。だがその一線を越えてしまおうとすると足踏みするのは単に俺がヘタレなだけだ。
「……なあ夜」
「なんだ?」
「俺は……夜を大事にしたい。だからこういうことは……って思うけど、でもそうだよなそんな風に夜が気にすることもあるのか」
「……勇樹? その……オレがこんなこと言った手前あれだけど、あまり思い悩むなよな? オレが悪かったから」
時には前に出ることも大事、時には思い切り良く行動することも大事……俺は後ろに居た夜に向き直った。素っ裸の夜の全身が脳裏に刻まれ、鼻っ柱が熱くなるが知ったことではない。
「……触っていいか?」
「お、おう!」
男らしい返事をありがとう。
俺は大きく深呼吸をして夜の大きく実った果実に手を伸ばした。たぶん、色々な熱さで頭がおかしくなってるんだろう。それでも構わないと言わんばかりに俺は夜の胸に手を添えた。
「……………」
「ふぁ……っ♪」
こうやって直接触ったのは初めてだ。
とても柔らかくすべすべした柔肉、ずっと触っていたいと思わせる不思議な何かを備えているように感じる。当然ながら女性の胸を触ったのはこれが初めてで、俺はついつい夢中になってそれを揉みしだいてしまった。
「……あ、すまん!」
「ぅん……全然いいぃ。むしろもっと……? あ♪」
……あ。
夜が何に気付き、そして同時に俺も何に気付いたのかは……まああれだ。とある部分を見つめながら夜がこんなことを口にするのだった。
「……オレたちにはオレたちのペースがある。でも、もう良いと思うんだよ。だから寝る前にベッドでさ、いいだろ?」
「……おう」
「やった♪」
もしかしなくても大変な約束をしてしまったみたいだ。
けど、喜ぶ夜を見つめながら俺も期待していたのは言うまでもない。早く風呂から出て飯を食って、そして色々と勉強しながらしようと言われ……俺は大人しく頷くしかなかった。
父さん、母さん、俺は階段を上がることになる……かもしれない。
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