最高の親友がある日突然TSして病みの深い女の子になった件
みょん
ずっと一緒に居たアイツが女になった
「なあなあ」
「なんだ?」
「TS病ってすげえよな」
「だなぁ」
学校の帰り道、俺は親友の言葉に頷いた。
俺の隣を歩くこいつの名前は
女子にも人気があり、俺もよく手紙を渡してくれと頼まれたりもして……それでもこいつは誰とも付き合うことはなかった。
『だって俺が彼女と付き合うとお前と遊べねえじゃん』
『いやいや、男友達より彼女が出来る方が良くね?』
『そうかぁ?』
なんてやり取りを一度したことがあるが、正直に言えば嬉しかった。異性と付き合うのは高校生男子における青春の一ページだ。それよりも親友の方が大切、そう言われたことが本当に嬉しかった。
夜とは中学校からの付き合いだけど、本当にこいつは良い奴だ。俺もこいつのことを親友として大切にしているし、何があってもこいつの親友であろうと心に決めているくらいには特別だった。
「んで、TS病が凄い話だっけ?」
「そうそう。男から女にいきなりなるってやべえじゃん。今までの生活全部変わっちまうぜ?」
それな、俺は頷いた。
現代で奇病の一つとしてTS病と呼ばれるモノが存在している。男性のみが発症する病気の一つで、ひとたび発症するとその性別が女性に変わってしまうという恐ろしい病気だ。
「漫画の世界かよって思うよな」
「だよな。ま、今となっちゃ珍しいことでもないらしいけど」
日本だけでなく世界でもそれなりに多く確認されていた。
原因は不明であり治すことも出来ず、ほぼ強制的に男だった生活を捨てさせられ女として生きていくことになる。珍しい病気であるのは確かだが、命には全くの別状はないため、なったらなったで仕方ないと済まされる病気でもあった。
「もしも俺が女になったらどうする?」
「やめろよ。考えたくもない」
「確かにな!」
お互いにケラケラと笑い、そうして俺たちは別れた。
何も変わらない俺たちの関係、ずっとそう思っていたが運命ってのは時に残酷なモノだった……まさか、あんなことになるなんてな。
それは何気ない日々のことだった。
休日ということで、いつものように前日に夜と遊ぶ約束をしていた。しかし、朝になって突然今日は無理だと一方的に夜にキャンセルされたのだ。
「……何かあったのかな」
まさか隠れて彼女とデート!? なんてことを思ったけどあれだけのイケメンなら彼女の一人や二人居たところで不思議ではない。その日は残念だったが、家にこもってゲームでもして過ごすことにした。
それから土日が過ぎて学校が始まったが、夜は全く登校してこなかったのだ。先生も何も言わないし、何より夜にメッセージを送っても全然返事が返ってこない。
「なあ、あいつどうしたんだろうな?」
「病気とかか?」
「……まさか」
いつも話をする友人たちも夜のことが気になっていたみたいだがやっぱり俺と同じで把握はしてないらしい。
何か重い病気かもしれない、そう思った俺は学校の帰りに夜の家にお邪魔することにしたのだ。おばさんが出てきたが、どうも俺を夜には会わせたくないらしい。嫌われているわけではないがやっぱりどこか様子がおかしかった。
「……でもそうね。いい加減あの子も前に進まないとだし」
「おばさん?」
「夜は今部屋に居るわ。
「え? えぇ……」
……なんだ、何が起こってるんだ?
妙な胸騒ぎを感じながらも、勝手知ったる夜の部屋まで向かった。どんよりとした空気が扉の向こうから伝わってくるような気がして二の足を踏む。
トントンと扉を叩いた。
『……母さん?』
「……? いや、俺だ」
『勇樹!? なんでお前がここに……やめろ開けるな!!』
……部屋を間違えてないよな?
中から聞こえてきたのは完全に女の子の声だし……そこで俺はハッとした。もしかして、そう思って俺は扉を開けるよりも言葉を続けた。
「夜……何となく察したよ」
……正直驚きの方が大きいが。
中から聞こえてきた声からパニックになっているのは分かるし、何より夜が辛そうなのも理解できた。だから俺に出来ることは夜を落ち着かせることだ。
「俺たちは親友だ。それは絶対に変わらない……どんなお前を見たってそれは変わらねえよ。まさか、何か変わったくらいで俺が離れると思ってる? 馬鹿言うんじゃねえよ何年お前の親友やってると思ってんだ?」
『……でも俺は……俺は……』
どんどんか細くなっていく声、それが夜の気持ちを表しているかのようだ。
「夜、もしもお前が良いと思ったなら扉を開けてくれ。でもまだ気持ちの整理が付かないなら今日は帰るよ」
『……………』
ま、まだあの病気かどうかはハッキリしないけどほぼ確定だと思ってる。
……本当に驚きの方が大きいしまさかって気持ちはまだある。でも……俺の想像通りなら夜はきっと苦しんでいる。だからこそ、俺はここまで言ったのだ。
……しばらく待っても夜は扉を開けてくれなかった。
そう……だな。今日は帰ることにしよう。
「夜、今日は帰るよ。また明日にでも来るから……そうだな。ゲームでも――」
そう言った瞬間、扉がゆっくりと開いた。
出てきたのは見覚えのあるパジャマに身を包んだ美しい女の子だった。
「……勇樹ぃ」
肩に掛かる程度の茶髪はボサボサで、目は充血して涙が流れている。それに目の下の隈が相当に酷かった。いつもよりも少しだけ背は縮んでしまっており、胸元を止めるパジャマのボタンは苦しそうにその膨らみを主張していた。
「……夜?」
「……なあ、どうしよう勇樹」
ゆっくりと俺に近づいてきた彼女はそのまま俺の胸に額を押し付けた。
「……俺……女になっちまったよ」
これが俺――
奇病として認識されているTS病、それに罹った親友と過ごす日々の始まりだったのである。
【あとがき】
ということで需要があるか分からないTSヤンデレモノに手を染めてしまいました。
はてさてどうなるか分かりませんが、またこちらの作品も皆さんよろしくお願いします。試験的なお話にはなると思うので、ちゃちゃっと書き上げようかなと思います。
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