田中良子
この男を手に入れたい。
どんな犠牲を払ってでも自分の物のしたい。いいや、物ではない。彼は一人の人であり、掛け替えのない大切な人だ。自分だけの。そう。自分だけの物。
どこの誰とも知らない奴なんかには渡したくはない。
絵里ならば、多少は譲ってやってもいいかという気にはなる。が、想像するだけで胸が苦しくなる。それは嫌だ。たぶん嫌なことなのだろう。ならばすべきではない。いいや。彼は物じゃない。そんなことは考えるべきじゃない。だって自分の物だから。
苦しそうだった。
苦しんでいる。
そう、彼は苦しんでいる。こんな部屋で一人ぼっちで。誰も手を差し伸べる人がいない。詩衣奈。あいつだって口だけだ。所詮。切り離している。だってほら。今。この部屋が。何よりの証拠。こんな物に囲まれて。
誰もこの男を理解してあげられない。誰もこの男を理解しようとしないのだ。こんなにも、素直で、綺麗で、正直なのに。
こんな人、他にいないのに。
世界のどこにもいないのに。
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