追放された不遇職『テイマー』ですが、2つ目の職業が万能職『配合術師』だったので俺だけの最強パーティを作ります

志鷹 志紀

1章 配合術師への覚醒編

第1話 追放


「アルガ、お前を追放する」


 宿屋の一室に呼び出された俺は、扉を開けた瞬間にそう告げられた。

 ……突然のことで、理解が追い付かない。


「え、えっと……ごめん。何の話? 付いていけないんだけど……?」


「耳も頭も悪いな。アルガ、お前を追放するって言ったんだ」


 追放を告げた男、カナトは周りに女の冒険者を3人はべらせながら、俺を睨みつけていた。

 当然のように、その女たちも俺のことを睨みつけている。汚い物を見るかのような、そんな眼差しを俺に送っていた。


「いや、追放って……俺、何かした?」


「アンタは!! いらないのよ!! アンタが『テイマー』だから!!」


 カナトにベッタリと胸を押し付けている女治癒師、ラトネはヒステリックにそう叫んだ。

 金切り声が煩わしい。これだから彼女のことは嫌いなんだ。


 『テイマー』とは、魔物を仲間にできる職業だ。

 テイムという特殊な魔法を扱い、魔物を仲間にできる。

 仲間にした魔物は普段、自身の影に収容される。収容可能な魔物の数は、総魔力量に比例する。

 俺の影の中にも、現在のところ10匹の魔物が収容されている。


「いやいや、テイマーだからって……そんな理不尽な」


「確かに魔物を仲間にできるという点はスゴいっス。でも……仲間にした魔物の数だけ、食費や管理費はかかるっスよね? アルガさんの存在自体が、ボクたちを逼迫ひっぱくした状況に追い込んでいる自覚はあるっスか?」


 カナトにベッタリと胸を押し付けている女武闘家、サンズはネチネチとそう告げた。

 29歳なのに若輩者を装った一人称と語尾が煩わしい。これだから彼女のことは嫌いなんだ。


「そんなこと言われても……俺がテイマーなことは加入した初日に伝えただろ?」


「魔物を仲間にできるという点が珍しいから仲間にしたけれど、実際は本人のレベルが上がらないと弱小の魔物しか仲間にできないじゃないですか。レベルが上がれば強い魔物も仲間にできるそうですけれど、仲間の魔物と経験値が分散されるからレベルアップも遅いです。おまけに『戦士』などの前衛職のように身体能力が強化される訳でもなく、『魔法師』などの後衛職のように魔力が上昇する訳でもない。魔物がいなかったら、ただの貧弱な一般人です。私達の中で一番レベルが低いですし、一番弱いことを自覚していますの?」


 カナトにベッタリと胸を押し付けている女治癒師、ナミミはため息を吐きながら質問してきた。

 こちらに罪悪感を抱かせるような、その態度。これだから彼女のことは嫌いなんだ。


「え、これまで3人が言っていること……全部、俺の責任か? 加入したその日に、全て説明しているだろ?  お前たちのミスだろ?」


「こいつらの言っていることもそうだが……一番の理由はお前がいると、俺たちの評判が悪くなるんだ」


「は、はぁ? どういうことだよ、カナト」


「お前、テイマーがなんて揶揄されているか知っているよな?」


「そ、それは……」


「『仲間の魔物がいなければ、クソの役にも立たない』『魔物に指示を出すだけの誰でもできる仕事』『虎の威を借る狐』、そして彼女たちが言ったことも全てひっくるめて『不遇職』と呼ばれている。そうだろ?」


「……あぁ」


 世間一般的に、テイマーは嫌われている。

 素の能力は低く、魔物頼りの戦闘。仲間の魔物がいなければ、クソの役にも立たない。


 レベルが上がれば強い魔物も仲間にできるが、仲間の魔物と経験値が分散されるからレベルアップも遅い。その為、俺を含めたほとんどのテイマーは、レベルが10未満で仲間の魔物もE級以下の弱小ばかりだ。


 頼りの魔物たちも管理費等が別途かかる為、いくらカネがあっても足りない。

 そういった点をすべて含めて、テイマーは『不遇職』と揶揄されている。


「だけど、さっきから何度も言っているように説明したように、俺は加入時に全て説明しているぞ!!」


 今から2年前、俺はカナト達の仲間になった。

 テイマーの悪評は既に知っていたため、俺を仲間にすることのデメリットは全て説明している。

 だが……彼らはそれでも尚、笑顔で俺を受け入れてくれた。当時はそれがスゴく嬉しく、救われたのだが……。


「あぁ、その通りだ。だが、そのことと俺が追放すること、いったい何の関係がある?」


「……は?」


「お前を加入させたデメリットは既に聞いているが、だからといってお前を追放してはならない理由にはならないだろう?」


「……お前、本気でそんなことを言っているのか?」


 パーティリーダーは加入した仲間のことを、どんなことが合っても守りきる。その代わり、加入した仲間は精一杯パーティに貢献する。

 それが俺の知る、パーティの姿なのだが。常識なのだが。


「……なるほど」

 

 どうやら、俺が間違っていたようだ。

 俺が信じていた常識は、彼らには当てはまらないようだ。

 冷酷に俺のことを睨みつける、4人の眼差しがそれを理解させた。

 ……これだから彼らのことは、嫌いなんだ。


「……わかった。出ていくよ」


「あぁ、さっさとしやがれ」


「本当に!! クソみたいな男ね!! 早く出ていきなさい!!」


「どうせどこに行っても、何も成し遂げられないでしょうけれど……まぁ、せいぜい頑張ってくださいっス」」


「二度と私達の前に顔を出さないでくださいね。あなたのことは、心底嫌いですので」


 2年前の思い出が蘇る。

 歓迎され、喜ばれたあの日の思い出が。

 ……忘れたい、あの日の思い出が。


「……ガッカリだ」


 罵詈雑言を背中に受けて、俺は部屋を出た。

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