第98話  帰る②

 翌朝


 少し高級な宿に泊まったため、朝は豪華だった。

 美味な朝食を堪能し、ゆっくり出発する。


 ここからへラリア王都まで、今日の夜には着くが、一週間後にいればいいってことら、し、い、か、ら……。

 久しぶりに帰省しようか。


 母さんに『通話トーク』を入れ、出発する。 

 さすがに、今日中に帰ろうと思ったら夜遅くになるからな。明日の朝に帰る。

 それまでは、領都で時間を潰そうか。


 って言っても、帰る途中に村の上を通過できるんだよな。やろうと思えば、だけど。


 土産でも買って帰ろうか。

 

 王都を散策し、適当に土産を見繕い、王都を出発する。

 フレイも朝ごはんは良いものだったらしく、ご機嫌だった。




 道中、何体か連合の魔物を発見した。

 たしかに、以前と比べると、数は圧倒的に減っていた。半分以下だ。


 発見次第、近づいて討伐してきた。

 フレイの『激震インパクト』と『雷翔サンダーミサイル』、オレの『晶装』で。

 ほんと、『晶装』の剣と槍は使い勝手がいい。【魔導士】に感謝しないとな。


 領都に辿り着くまでに討伐した魔物の数は、13匹。

 すべて一撃で沈めてきたからあまり時間はかからなかった。

 領都に着いたのは18時前。


 宿を取り、晩ご飯を食べる。

 一泊しかしないから、普通の宿だ。明日の朝には出発するからな。


「フレイ、明日の朝……9時頃に出発するぞ」

「ぶるる!」


 あ、村に馬小屋ねえや。フレイの飯を買わないとな。宅配でいいだろ。

 て言っても、店が開いていないんだよなぁ……。

 

「あ、やっぱり昼過ぎで」

「ぶるる」


 それだけ言うと、オレは宿の馬小屋から出る。そして、今晩の宿に入る。


 さて、寝るとしよう……っと思ったところに副騎士団長から『通話トーク』。

 時間を考えろって言いたい。相手が上司じゃなかったらな!


『はい……何の御用で……?』

『夜分にすまない。遺跡のことで聞きたいことがな。ラインの見た部屋に、白い石はあったか?』

『ええ、ありました。4つとも真っ二つに割れていましたが』


 劈開みたいに真っ二つだった。

 表面はツルツル――触っても何も起きなかった――だった。

 

『実はな、フェンゼル国でも一か所あったのだ。これはもともと見つかっていたものだが……』


 フェンゼルにも当たりの遺跡があったのか。


『そこはあまり調査されていなかったのだが、今回、騎士が訪れてみると、地下への扉が開かれていてな』


 つまり、昔は開かれていなかったということ。で、開かれたと。

 

『いつ開かれたのかは不明。で、そこに封印されていた魔物は――餓者髑髏がしゃどくろ


 餓者髑髏がしゃどくろ

 前世での伝説にもいた妖怪の一種で、見た目は言ってしまえば、巨大な骸骨だ。


『その魔物の姿は、額に2本の角を生やし、ぼろぼろのマントを纏った骸骨スケルトンだ。骨を自在に操る、変わった魔法を行使する』


 オレの水晶みたいなものか。

 巨大な骸骨ではないのか。鬼の骸骨みたいな感じか? 


 にしても、なんで餓者髑髏がしゃどくろなんて名付けたんだ?

 共通部分は骨であることだけだぞ……? 


『だが、この魔物による被害は出ていない。それに、この魔物は知能が高いらしい。連合に組み込まれた可能性が高いと見ている』

『強さの基準は……』


 オレの戦った魔狼フェンリルとか、副騎士団長ぐらいとか、強さの基準を教えてほしい。

 レベル制だったら、安全マージンとか算出できるんだが。

 

『強さの基準となるかはわからない。だが、封印された時期は不明だが、封印された以上、かなりの強さは有しているはずだ』


 同時期に封印されたわけではないだろう。……多分。


 転生者は各時代に存在する。

 【三賢者】とか【最強】みたいな偉人となってはいない方が多い。

 が、魔物の名前を最初に考案するとアッという間に広がる。


 三賢者の時代以前は、政治体制とかしっかりしていなかったらしい。

 犯罪も多かったと聞く。


『高度な知能を有するらしい。そういった点で、かなり強いだろう。魔術も扱えるらしい』

『なるほど……』

『こんなものだな。まあ、注意喚起だな』

『わかりました。では、失礼します』


 話が終わったため、寝ることにした。

 明日は久々の帰省だからな。




 その頃、副騎士団長と騎士団長は『通話トーク』で話をしていた。


『――災厄の魔物、ここに封印せん。願わくば、この魔物が再びこの世に現れんことを…………だったか』

『ええ。間違いなく、強敵となるでしょう。おまけに、アンデッド種……』

『討伐しない限り、永遠に消えることはない』


 封印すれば話は別だが、その方法は伝わってはいる。

 だが、それには特殊な物が必要となる。

 それは、少数だが伝わっている。少数のため、切り札だ。


『倒せないなんてことはないだろう。何も、悲観的になる必要はないだろう』

『そうですね。ただ、心配するにこしたことはないでしょう』

『そうだな。何はともあれ、まずは情報収集が先決だ。遺跡の調査は各国で続行することとなっている』


 連合の動きが落ち着いている今、遺跡の調査は活発化している。

 だが、結果は芳しくない。

 そもそもの数が少ないのでは、と言われている。


 遺跡がいつ、どこに建造されたのかは伝わっていない。

 それに、遺跡と呼ぶには狭いし、特に何もない。

 大抵は外れだ。作られた目的も一切不明。


『わかりました』

『【放浪者】たちには、各国騎士団長から情報を渡すように、となった。私から伝えよう』

『では、失礼します』

『……ああ』


 副騎士団長に押し付けようと思っていた騎士団長だった。

 

 騎士団長も副騎士団長も忙しい身だ。騎士団長は特に。

 各国騎士団長との会議、王族――とりわけ国王の警護、首脳会議の参加。

 会議は頻繁に行われているため、かなり忙しい。


 それを除いても、人間は楽をしたい生き物だ。人間というより『人』だ。



 

 フェンゼル国にある遺跡の封印の間には、白い石が6つ置かれていた。

 そのどれも、真っ二つに割れていた。

 真ん中の石柱も、ひび割れて、崩れかけていた。


 それに、餓者髑髏がしゃどくろは災厄と例えられている。

 最低でも魔狼フェンリル級の実力は有していると思われている。

 





 翌日


 村に久々に帰省し、村人の暮らしを久々に楽しんだ。

 別に楽しくはないけど、あれだ。体験ツアーだと、何をやっても大抵は楽しく感じる謎効果だ。


 さすがに暇だったため、3泊4日だけして王都に帰還した。


 道中に遺跡がないかと探してみたが、見つからなかった。

 そんなに注意深く探したわけではないが、木が生えていないかどうかはパッと見ればわかる。


 ……地表に遺跡があるとは限られない。だが、そんなことをしていたら日が暮れる。

 そこは冒険者共に任せれば…………オレも任務上では冒険者なんだった。

 いや、本職は近衛騎士だ! 探せと命令されたわけではない!

 



 そして、王都に到着した。

 少しゆっくりできそうだし、少し良い宿を取ろうか。

 金はたんまりあるしな。財布の中に金貨がある。


「――あ、ラインじゃないか。久しぶり」

「ありゃ……【貴公子】様じゃないか」


 【貴公子】ザイン・ハーバー。

 この二つ名は非公式だが、それに相応しい顔を持つ。ファンクラブあり。


 オレは今、仮面を着けていない。

 服も変え、コートの色も変えている。

 これで【水晶使い】とライン・ルルクスをイコールで結べるのは限られているが、それは置いといて……。


「【貴公子】は非公式のままか?」

「いやあ~~~はっはっは…………」

「……非公式なんだな」


 非公式の二つ名は、名前の修飾語扱いとなる。

 そのため、二つ名のみで呼ばれる、名乗ることはない。


 その点、ラインは【水晶使い】がもう一つの名前だ。【水晶使い】と名乗ればいい。

 ザインは名乗るときや呼ばれるとき、二つ名を付けたければ【貴公子】ザインとなる。


「残念だが、ミスリル級だ。今は遺跡の探索を任務としているよ」

「へえ、遺跡の発見を? どうだ?」

「まいったことに何も成果はなし! それに、深く入りすぎると連合に襲われるかもしれないからね」


 深く入るってのは、森や山の深くに入ったら、という意味だろう。


 たしかに、連合の動きは落ち着いているが……連合はただ奥深くに潜っているだけだろうと言われている。


「まあ、用心しなよ」

「ラインもね」 

「それはそうと、少し戦ってみないか? 3年生の最強決定祭以来、会ってもないんだしさ」

「まあ、暇だし……いいぞ」


 




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