第78話  魔物連合第三隊

 オレがエルフの国――アグカル国の宿に戻ったのは一週間後のことだった。


 声を殺して泣いた。

 人前では泣かないように耐えた。だから、王都の宿に戻って泣いていた。

 気持ちが落ち着くまで4日かかった。




 近衛騎士、冒険者は…………とりわけ、低級の冒険者がどれだけ死の近くに立っているかは理解していた。なのに…………


「なんで」


 覚悟が足りなかった?

 違う。今回の犯人は魔物連合でまず間違いない。なら、


「お前ら…………オレの友達に手ぇ出して、無事には済まさん!! オレが!!」


 ――必ずぶち壊してやる!!!






 そして、あの日を境に魔物連合の動きが活発化しだした。


「あの日、何があったんだ? 聞かせてくれよ……」


 その質問に対する答えは返ってこない。

 聞く者はいない。なぜならここは、アグカル国王都上空。


 ちょうど向かっている最中に、支援要請が入った。

 

「直で戦場へ向かえ、という話だったな。王都の北東方向…………あれか!」


 北東の方角に目をやると、ちょうど炎の柱が上がった。その炎の柱は、魔物を巻き込んでいた。


 戦っているのは近衛騎士と冒険者。ただし、冒険者は雑魚どもの相手。隊か?


 なにはともあれ、急いで向かおう。




 戦場に到着した。


 均衡状態だった。こちら側も2人、死者を出していた。

 敵はオーガの集団。赤い2本の痣がある。魔物連合だ。

 ただ、白金級のオーガに、なぜ近衛騎士が苦戦を? エルフと人間の間に差はないはずだ。


「要請に従い、参上した!」

「「おお!」」


 騎士の顔に、勝利を確信した表情が浮かんだ。




 騎士たちは援軍だから、ではなく、覚醒アヌースの所持、仮面、服装など、事前に聞きていた特徴と、目の前の存在の特徴の一致。

 よって、特殊任務下の凄腕だと判断した。


「オーガ相手に、なぜ苦戦している?」

「は! 実は――」

「――いや、すまない。オレの失言だった。進化型か、こいつら全員!!」


 魔力を抑えられていて、普通のオーガにしか見えなかった。

 だが、ところどころ、魔力が漏れている。


「お前ら、どこの隊だ……?」

「う゛うぅ…………」

「喋れないのか、喋らないのか…………」

「喋れない可能性が高いかと。私どもも先ほどから声をかけているのですが、先ほどのような、普通のオーガと同じような唸り声をあげるのみでして……」


 ふむ…………となると、どの隊にも属さない?

 いや、属してはいるが、指揮官不在か? 魔術師であれば、傍らで指示を出す存在がいれば役に立つ。それとも……


「命じられて、冒険者を殺しに来たか、か」

「と、言うより『人』の殲滅が目的のようです。こいつらが連れて来ていた雑兵を冒険者に任せ、私たちが相手をしているのですが、目標を私たちに、即座に変えてきました」

「なるほど。しかし、こうして喋っている間に攻撃をしてこないとは…………」


 ? …………!? まさか!!


「まて、ここら一帯は綺麗すぎる! まさか、戦闘は行っていないのか!?」

「軽い撃ち合いが……」

「ちっ! 冒険者どもと即座に撤退し――」

『――もう遅いわ』


 その、謎の声と共に、轟音が響き渡る。


「「――!?」」


 現れたの――空から降って来たのは、異形の魔物だった。


 灰色の肌、漆黒の角が眉間から2本、金色の色彩。

 腹部に赤色の2本の痣。


 そして、その容貌。

 それは、オレの知る知識の中で一番近いもので、ナーガ。

 だが、ナーガとは下半身が蛇、上半身が人間。


 しかし目の前の存在は、下半身は蛇のものだが、上半身は人間とは言えもするが、言えもしない。

 なぜなら、下半身と同じく濃い緑色の鱗が生えており、また腕が6本もある。


「お前は、一体なんだ…………?」


 正直、見た覚えもない魔物だ。似た魔物にも心当たりがない。


「あの姿に心当たりのある者は…………?」

「いえ、まったく……」


 エルフたちも知らないか。

 エルフは人間より長寿だが、知識は共有されているはず。

 しかも、魔物図鑑の内容はそのまま――多少わかりやすくまとめたが――『不可知の書』に写してある。


 だが、そんなオレが知らない。『不可知の書』で確認したが、ページが開くことはなかった。

 似た魔物でも、と念じたのだが、一向に開くことはなかった。つまり……


「未確認、か」

「これは厄介ですね……」


 進化型オーガが5体、そしてこの異形蛇が1匹。


「雑魚どもの討伐はどうなっている?」

「あとゴブリンが数匹残っている程度で、2分もあれば倒せるそうです」

「そうか、なら……冒険者どもは撤退させろ。お前たちから2人付いていけ。ただし、戻ってくるな。残るのは近接型」


 エルフは、他の種族よりも持久力において優れている。

 魔法持久力も、筋持久力も、全身持久力も、だ。


 とは言え、人間や鬼の中にも、エルフより優れた持久力を持つ者もいるが。

 そんなことを言い出したらキリがないな。


 言うなら、エルフは持久力に補正がかかっているようなものだ。経験値ボーナスがな。


『ふむ…………お主が特殊任務下にある近衛騎士じゃな? そして、その容貌……【水晶使い】か』

「そこまで知っているとはな。なあ……お前たちはどこから情報を入手しているんだ?」

『それを喋ると思うか……?』


 しわがれた声だ。だが、なるほどな……。フッ……。


 ここで二つわかった。「喋るわけがない」。つまり、こちら側に内通者がいる、もしくは潜入能力に長けている存在がいる。


 そして、もう一つは、未だ完全に目標を達成しているわけでもない。

 もしくは、達成してはいるが脱出ができていない、もしくはしない。


「そうだったな……。我らは敵対中だったな」

『ああ、そうじゃ』

「敵対する道しかないのか?」

『我らの目的はただ一つ。『人』の滅亡。そして、魔物だけの世界を作る!』

「ふん、くだらん! なにが楽園か! 我らと共存すれば……」

『言語道断! 我らの仲間を何体葬ってきたと――』

「――こっちだって、何人もお前ら魔物に殺されてる。だが、理解した。敵対の道しかないようだな」


 理解した、ああ、理解したさ…………。


 共存はない、ありえない。

 魔物にとって『人』は餌なんだ。もちろん、カクトツなどに代表される、『人』が餌とする魔物も食う。


「食うために戦う、か。餌であり、敵対してくる存在である『人』を排除するのは当然の理、か」

『ああ、そうだ』


 あまり知力もないな。

 感覚では理解しているが、言葉にできないのだろう。オレが簡単に言葉にできたが。 


『ほう……ゴブリンどもが殺されたか! よくも我が部下を殺してくれたな! エルフどもよ!』


 ありゃりゃ……お怒りだよ。

 捨て駒扱いだと思ってたんだが、本当に「仲間」と認識してたんだな……。

 とは言え、この状態は少しまずい……。


「お前ら、早く逃げろ」


 2人の魔術師がアヌースに乗り、去っていく。

 冒険者どもの足はどうするのか、と気にはなったが、オレはそこまで面倒を見ることはできない。


『逃がすはずがなかろう! ──炎球ブレイズボール!』

「逃してやれって……『晶壁しょうへき』」


 中級魔法、『炎球ブレイズボール』。『火球ファイアーボール』の上位互換だ。


 ──ドンッ


 勝つのは、もちろん『晶壁』だ。火と土じゃ、こちらに分がある。


「お前らは後方から『飛撃』などの遠距離攻撃でオーガを狙え! オレの援護だ! 決してあれは狙うな!」

「「了解!」」

『では、あの世への土産をくれてやろう。魔物連合第三隊隊長、ナーラージャ。お主も名乗るがよいぞ』

「【水晶使い】ライン・ルルクス」

「アグカル国この──」

『──雑魚どもの名前なぞ、覚える必要はない。黙って最期を噛み締めておけ』


 確かに、こいつはあの隊長人狼よりも強い。

 だが、あの時と比べてオレは、身を包むものが違う。あらゆる補正がかかっている状態だ。

 あの時よりも格段に強くなっている。


 だがそれでも、勝てるかどうか……。






 


 

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