第66話  準備②

 目の前には無精ひげの30手前(多分)のおじさん。

 余計なものを全部そぎ落としたかのような体。


 まるで刑事ドラマの主人公刑事だな。


「おう、坊主がオリハルコンの所持者か。俺はここの工房長だ。ああ、名前はクロ・タリオウスだ。年は29。この中ではかなり若い方だな」

「初めまして、ライン・ルルクスです。年は17です」

「そうか。ライン、ところで、なぜ30手前という若い俺が工房長なのか。わかるか?」


 えーー。そんな、「私っていくつに見える?」みたいに聞かれても……


「単純に……優秀だから、じゃないのですか?」

「くく。ああ、正解だ」


 笑ってらっしゃる。何がおかしかったのだろうか。


「1つ。オリハルコンは、どうやって加工するかわかるか?」

「魔力をこもった道具で加工するのでは?」

「まさか。そんなんやってたら、近衛騎士団は今頃、目も当てられないほど武器が不足しているだろうよ」


 あーー。確かに。

 じゃ、どうやって加工してるんだ?

 さっさと答えを言いやがれ。


「答えは、だな。オリハルコンの所持者が自分自身で加工するんだよ。俺たちはそれの補佐だ。歪みなんかを、専用の道具で直してく」


 え…………まじでか。

 じゃあ、この熱気はなんだ? 音は?


「ちなみに、他のオッサンどもも補佐はできるが、こうやって何もないときはミスリルの加工だ」


 ミスリルは普通の工具、道具でも加工できるからな。だからこんなに熱気があるのか。


「あの緑の塊がミスリルですか?」

「ああ。反対の壁に置かれているのが加工済みのミスリルだな。あれは魔法具の核用。あれは防具の装飾か。まあ、オリハルコンよりも量が多いからな」


 そこには、大小様々なミスリルの塊と、一部にミスリルが埋め込まれた防具があった。


「オリハルコンの武器は自己修復が可能だからな。防具は他の金属と比べても軽い。防具は、精々が手甲ガントレットだな。そっちまで割く余裕はないからな」


 じゃあ、オレは防具も作ってもらおうかな。なんか、大量にゲットしたっぽいし。


「さて、長々と話しすぎたな。まあ、正直なところ、これぐらいの年代になるとこうやって工房長をやらされ――」

「――おいおい、クロ。お前、つまんない嘘吐くなって」


 そう言って現れたのは、50前後ぐらいのちっこいおじさんだった。


「こいつはな、わしたちよりも腕がいいんだ。厳密に言えば、オリハルコンとの相性がいいんだ。他の金属はまだまだだが、オリハルコンとなると、もうすべっすべになるんだ」

「師匠…………俺は謙虚にだなぁ……」

「まあいいじゃねえか。春は体調崩して、ろくに近衛騎士の武器を作ってやれなかったんだしよ」

「だから今からやるんだろ!」

「そうかそうか。坊主、運がよかったな。こいつの実力は折り紙付きだ」


 ちっこいおじさんは、わっはっはと笑いながら去って行った。


「さて、早速始めようか。それじゃ一先ずこの机の上にオリハルコンを、全部出してくれ。念じれば出てくるから」

「わかりました」


 体内のオリハルコンに意識を向け、全部を外に出す。形は自由に変えられたので、インゴットにした。




 全部出し終わった。横長の机に、インゴットが大量に積み重ねられた。

 机が縦40(cm)×横150(cm)。

 インゴットは1つ辺り、横10(cm)×縦20弱(cm)で、それが7段ほどある。ちなみに、密度は弄っていない。


「こいっつぁ……」

「こりゃたまげた」

「これは…………」


 なんて声が工房中から聞こえる。

 もちろん、クロさんも例外ではなかった。


「おいおい……まじかよ……」

「クロさん?」

「あ、ああ。さて、何がお望みだ?」


 とりあえず、何がどれだけ作れるか、だよな。


「これだけあれば一体どれだけ作れますか?」

「――わからん! ただ、憶測だが、武器だけなら最低でも10個。防具なら、全身鎧フルプレートアーマーを2つ……いや、3つほどか?」


 うわぁお。すんげぇなぁ。すごすぎてわかんねえや。


「そうですねぇ…………」

「いや、まずは自分の好きなようにやってみな。好きなように作ってくれ。重さも変えれる」

「はい」


 なにがいいか…………。


 まず、棍。ふむ……。

 他には剣か。

 冒険者として活動するなら、ナイフもほしいな。

 手甲ガントレット足甲グリーブ胸鎧ブレスプレートは必須だな。


 とりあえず、形だけでも作っておこう。


 オリハルコンに意識を向け、自分の体に纏わりつかせる。

 余裕あるし、手甲ガントレットは指先から――手のひら、指の内側を除いて――肘まで。手のひら、指の内側には滑り止めの革を貼るからな。

 足甲グリーブは足首の上から膝まで。


「よし、そのまま動くなよ」


 ささっと、形だけ整えられた。

 装飾は後回しらしい。


 こうすることで形を固定させるらしい。

 これをしないと、密度や形が毎回変わってしまうらしい。


 あとは武器か。


「坊主、武器なんだが、今まで……三賢者の作られた武器を見てみるか? あくまで模造品だが。特殊な武器で、説明はあるが使い方がまるでわかっていないものも多いが」

「ぜひ、お願いします」

 

 それならイメージも膨らみそうだぜ。






 一度部屋を出て、今度は祈りの間に一番近い部屋に入った。


 そこは、だだっ広い展示室だった。

 ショーケースに入れられた様々な武器、武器(?)、絶対武器じゃないものまで。


「物の前の札に、名前と軽い説明文が書かれている」


 なるほどなるほど。

 見取り図を見ると、左側が遠距離武器、真ん中が近距離武器、右側手前が中距離武器、右奥がその他。


 




 1時間半後。


「決まったか?」

「はい!」

「よし、それじゃあ戻るぞ!」


 




 更に1時間後


「よし、終わりだ!」

「ありがとうございます!」


 机の上には、様々な武器防具が置かれていた。

 大剣、片手両刃剣、刀、ナイフを3本、棍を1本、棍棒メイス、片手銃を1丁、狙撃銃を1丁。棘の生えた、人の頭ぐらいの大きさの球と、握り拳2つ分の棒、片手斧、ハルバード。

 盾を大小2個ずつ、手甲ガントレット足甲グリーブ胸鎧ブレスプレート、サングラス。


 …………玩具コーナーに銃があった。


 説明文は、なにも書かれていなかった。

 その場合は三賢者が適当に作った物品とのこと。いや、使用用途は知ってるけどね。

 現代人向けだな。 


 大剣、片手両刃剣、刀、ナイフ、棍、棍棒は一般的だ。

 片手銃、狙撃銃は『晶弾しょうだん』と組み合わせる。片手銃は、トカレフだ。


 火薬はないが、その代わりにちょっとした空洞がある。そこに魔力を注ぐと、火薬があるかのように、爆発が起きる。


 …………なんてことはなく。

 自力で発射させないといけない。


 狙撃銃は、スコープに遠視の効果が付与されている。


「さて、これで終わりだな。明後日には出来上がってると思うぜ。……にしても、なかなか特殊なやつを作ったな。使い勝手の悪いと言われる刀、謎の片手銃、狙撃銃」

「狙撃銃はオレの力と相性がいいんですよ。片手銃は、ただ、かっこいいし、余裕もあるから作ろうと思って。これを戦いの場で持ち出したら、未知の武器として少しでも牽制になるかなって」

「なるほどな。まあ、この狙撃銃のこの部分……」


 スコープをコンコンと指で叩き、


「ここには遠視の効果が付与されているからな。だが、それを期待していたなら、少し高いが、望遠鏡とか双眼鏡を買った方がよかったんじゃないか?」

「見た目の問題です!」


 半分本当だ。

 もう一度言う。半分は本当です!!


「まあいい。装飾はこちらで適当にやっておくが」

「ええ、お願いします」

「おまえ、あれだろ? 近衛騎士でもあり、冒険者でもあるやつだろ?」

「…………」


 一応、秘密って言われてるんだよな。


「近衛騎士です」

「任務内容は冒険者と同じ、と。てか、隠しても無駄だぜ? ここをどこだと思ってやがる。俺たちは依頼人の素性がわからねぇと……――仕事は受けねぇぞ……?」

「…………肯定します」

「ん、よろしい。それじゃ、明後日。朝一で取りに来な。任務の内容は、どんな内容だろうと他言無用。それが俺たちの鉄則だ。安心しろ」


 感謝の言葉を告げ、副騎士団長のもとに戻る。

 その日は、王都を一通り案内してもらった。『不可知の書』にメモしておいたから、もう迷うことはないだろう。


  


 最近新たにわかった『不可知の書』の技能。

 それは、念じるだけで見たいページが開くこと。

 そして、拡大もできること。おかげで、地図はとても詳しいものとなった。


 王都の地理を『不可知の書』に叩き込み、その日は1人で近場の定食屋で晩ご飯を食べた。

 明日はフリーだ。明後日は呼び出しをくらったが。


 

  

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