第52話  最強決定祭②

 へラリア冒険者学校最強決定戦。通称、最強祭。

 王都を含め、16の領からなるここ、へラリア王国。

 各領に1つある冒険者学校の各学年から上位2名を選び、行われるトーナメント戦だ。




 ハーマル領(ここ)

 シクレス領

 イービス領

 シヴィル領

 シャーラ領

   :

   :

   :




 各領、名前は4文字からなる。理由は不明。

 ただ、領名は領主の家名となっている。家名が先か、領名が先か。


 領名は三賢者によって統一されたらしい。

 あれか? 上位者から貰う名前が名誉の証って考えか?

 中臣鎌足が中大兄皇子から藤原の姓を貰ったみたいな。それと同じか?




 馬車に乗って旅を続け、6日が過ぎた。

 そして、7日目の今日。オレたちは、ようやく目的地に到着した。


「ここが王都だ。君たち3人は初めてか? 私とリュース、ピュウは去年も来たからね」

「へー、そうなんですね!」


 めっちゃどうでもいい情報。


「結果はどうだったんですか?」

「1年のときは、準々決勝まで残ったな。2年のときは初戦敗退さ」

「俺はどっちも準々決勝まで残ったぞ」

「私と戦っていれば、私が勝つがね。だからこそ、生徒会長をやっているのだけど」


 だからこの人が生徒会長なのね。

 にしても、強さで生徒会役員を決めてるのか? いつか問題が起こるぞ。


「私は……決勝まで行ったなぁ」

「「…………」」

「……何、その間!?」


 いや、この流れでそんなこと――


「いや、この流れでそんなこと言われ――」

「――この流れ・・・・だと?」


 あーーあ。エイリュース先輩が生徒会の2トップの地雷を踏んじゃった。

 覚醒者ともなると、圧がすげぇな。

 鬼神みてぇだ。鬼神を見たことないからなんとも言えんが。


「――はいはい!」


 パンパンと乾いた音が響いた。

 教頭先生の(しわしわの)手だ。


「ここから先はいろんな人たちに見られることになります。貴族の方、冒険者の方、近衛騎士の方などなど。大会にいたっては、王族の方々や大臣、近衛騎士団長、副団長まで観戦なされます」


 あー。前世でよく言われたやつだ。「貴方たちは学校の代表です」だろ?

 あんま好きじゃないんだよね、この言葉。


「悔いの残らないような行動をしてくださいね。昔、騒ぎを引き起こした冒険者がいましてね……。その方々は王都から追い出されましたよ? 他にもいろいろ……」


 ん? 騒ぎを起こして追い出された冒険者?

 それ、カグナって名前なんじゃ……? 


 


 カグナってのは、白金Ⅲの冒険者チーム、『岩壁の盾』のリーダーだ。

 『岩壁の盾』は、オレの故郷の村に派遣されたチームだ。

 つまり、知り合い。


 予想以上に語られてるんだな……。一体全体、どんな騒ぎを起こしたんだか……。






 オレたちは門の前で馬車から降り、検査を受け、王都の地に足を着けた。


 王都は……領都とは比べ物にならなかった。

 その理由は、おそらく人。とにかく多い。


 それでいて、いるのは『人』。

 人間の他に、鬼、エルフ、リザードマン、etc……。大多数は人間だが。


「さて、さっそく宿に向かいましょうか」



 

 オレたちが通されたのは、ホテルだった。

 そう、ホテル。

 大理石の床に、カーペットの。前世でよく見たホテル。


 そこの3階に、部屋があった。


「204号室から208号室が、お客様方のお部屋となります。では……」


 スタッフは、そう言うと恭しく一礼し、去って行った。


「デミラス、リュース、エイリュースは204号室。ライン、ターバは205号室。クェイサー先生、キルサー先生は206号室に。ピュウは207号室。私は208号室にいます」


 おいおい。女は1人部屋かよ……。

 教頭と寝なさいよ。先輩と教頭が相手だからそんなこと言えないけど!


「今日は部屋でゆっくりしていてください。夕食は、6時半に、1階にある食堂の入り口に集合してください」


 現在、15時ちょい過ぎ。3時間後。


 ……おい。馬車から降りて王都に入っても暇なのかよ。


 ……先生に『通話トーク』が入ったようだ。


「全ての選手が到着したので、本番は明日となりました」


 決まってなかったんかい! いつかポロッと口から失言が出てしまいそうだ。





 

 その日、食堂にてトラブルが発生した。トラブルと言えるほどのものではないか。


 オレたちは食堂で優雅に(笑)食事としていたんだ。するとそこに――


「――おやおや、その制服はハーマルの……」


 そんなテンプレ通りのセリフと同時に現れたのは……知らない人だった。

 だが、会長と副会長、ピュウ先輩は知っているようだ。


 ここに先生たちはいない。

 明日が本番となったため、打ち合わせが入ったそうだ。つまり、ここには生徒6人しかいない。


「へ~~ぇ、そいつらがお前らの後輩?」

「ああ、そうだ。うちの可愛い後輩たちだ」


 褒めても何も出ませんよ?


「ふ~~ん。今日のために、俺たちは新年度から限りなく実戦に近いトレーニングを行ってきた」

「それはこちらとて同じこと」

「いやいや、俺が言いたいのはな……」


 あーー。展開は読めたぞ。

 どーせ「去年よりも粘れないぞ」とか「痛みで泣かないようにな?」だろ?


「今年も優勝は俺たちが貰う。今のうちに――」


 チッ! 後ろの取り巻き共のニヤニヤが苛立たしい……! 後ろに5人。これがこの学校の選手か。


「――帰りの荷造りと、負けた時のハンカチを数枚集めておくんだな!」


 ハッハッハと笑いながら去って行った。

 取り巻き共も、バカにした目でオレたちを見て去って行く。


「お前らが1年代表か。先輩方直々に鍛えられた俺たちに、勝てる希望を抱――」

「夢を見るなら、布団の中にしてくれ。……雑魚がよ」


 ついつい心に思ってたことがーー。

 あーー。ふくすいぼんにかえらずだーー。


「なんつったてめぇ……。楽にくたばれると思うなよ?」

「そっとこそ、うちの先輩方を笑って、楽にくたばれると思うなよ?」


 魔力を少し放出品する。

 すると、びびったのか、5人の後を追いかけて行った。


「ターバ、今の奴ろ…どう思った?」

「ん? 雑魚だろ?」

「おいおい……。あそこの学校は規則が無いに等しい代わりに、強いんだぞ?」


 生徒会長がプチトリビアをぶち込んできたが、変わらない。


「いや、だから……」

「「雑魚ですって」」


 2人口を揃えての雑魚宣言。

 まあ、覚醒者には勝てないけど。覚醒者でないあれには勝てそうだ。

 この目で見て、感じて、判断したからな。


「そうか……。まあ、頑張って」

「ところで、なんで目をつけられてたんですか?」

「俺たちのせい……だよな」


 ん? 俺たち……ということは、3年生か?


「あいつら──シヴィル領の冒険者学校は、さっきも言った通り、強い。国内最強の学校なんだ。覚醒者も、年に最低でも10人は排出されてる」

「その対極に位置するのが、ハーマル冒険者学校だ」


 あーー。なるほどなるほど。つまるところ、ただの弱いものイジメね。






 そして、翌朝。


『では、陛下より、開会宣言です』

『うむ。よく集まってくれた、未来の金の卵たちよ。お主たちの勇猛果敢な戦いを期待しておるぞ』


 へー。あれが王様か。

 イメージ通りの年齢だな……。


 ただ、唯一イメージと違っていたこと。

 それは――ファンキーな点。


 まず、肉体。引き締まっている。腹から上しか見えないが、それだけでも引き締まっているだろうってのはわかる。


 長生きしそうだな。余計なお世話か。


 で、左右に控えているのが王子、王女かな。


 王様の、向かって右側に男が2人。左側に女が1人。


 王子は、2人とも20歳辺りだろう。王女もそれぐらいか、もう少し若いか。


 まあ、美男美女で羨ましいことで。後ろに王妃らしき影があるけど、見えねぇな。

 魔力探知の一歩手前──視力強化を使えば見えるかもしれないけど、禁止されてんだよな。

 使ったらバレるし。 


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