第41話  体育祭に向けて

 伝え聞いた話である。


 1組には、──人間から見て──他種族は鬼であるヤマルとエルフのリーインのみ……。

 だが、他クラスにはそれぞれ4、5人はいるらしい。


 種族が違うからといって何かあるわけではないが。平均運動能力とか使える魔法とかに差が生まれるだけだ。

 黒人、白人、黄色人種の違いとなんら変わりはない。






「はい、皆さんおはようございます。早速ですが、こちらで選手は考えました。あとは各自で順番を決めたり、入れ代わったりしてください。朝会もまだ残り5分はあるので。とりあえず、紙を前に掲示しておきますので、見ておいてください」



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体育祭出場選手(仮案)


 選択①

 ・クラス対抗リレー……20名(男10 女10)

 ・障害物競争……20名(男10 女10)


 選択②

 ・綱引き……20名(男女問わず)

 ・借り物競争……20名(男10 女10)


 選抜リレー……50メートル走 上位4名

 選抜模擬戦……クラス内戦闘 上位3名


   クラス対抗リレー……100メートル

   選抜リレー……200メートル


────────────────────

 


 ふむ……。なるほどなるほど。


 つまり、オレが出ると確定しているのは、選抜リレーと選抜模擬戦か。

 選択は、HRで決めるんだろう。

 にしても、メジャーな種目ばかりだな。


 模擬戦もあるのか。

 どうするか……。武器は何を使うか、水晶は使うかどうか……。

 どうせだし、棍で、水晶ありでいこうか。上級生も見ることだし。入学式でも披露したがな。






 そして夕方のHR。


 このクラスの男女比は1:1ではない。

 男子15人、女子25人だ。つまり正確な男女比は3:5ということになる。


 つまり、男子は5人ほど、選択で2つでることになる。

 女子は5人が、選抜でどちらも出ることができない。

 だが、そこは綱引きで解消できる。全員、最低2種目は出場できるのだ。


「ではまず、自分のやりたい方に手を挙げてください。クラス対抗リレーか、障害物競争か。では、クラス対抗リレーの人!」


 手は挙げない。

 オレは意外と足が速いことがわかった。

 だが、どうせ選抜リレーで走るんだ。なら、ここは障害物競争に!


「23……24……25。25人ですね。では、今手を挙げなかった人たちは障害物競争。そして、今手を挙げた25人の内5人、障害物競争に変わってください」


 ここで数人ほど手を挙げる。

 どこの世界も、こういうところは変わらないな。

 挙げたのはほとんど女子であることも……。まあ、男子は10人ピッタリだったから、女子が諦める必要があったわけなんだけど。


 ターバは、クラス対抗リレーか。

 ヤマルは障害物競争。

 ヌーとクォーサ、スゥは、ターバと同じく、クラス対抗リレー。




 この時、オレたち1年生は、体育祭を甘く見ていた。特にオレ。


 ここは、冒険者・・・学校。生徒たちを屈強な戦士にするための設備が揃っている……。




 出場選手が決まったのは、翌週の月曜日の朝のことだった。

 オレは、障害物競争、借り物競争、選抜リレー、選抜模擬戦の4つ。

 ターバは、クラス対抗リレー、綱引き、選抜リレー、選抜模擬戦。選択で、オレとは違う方を選んだのだ。

 ついでに、ヤマルは障害物競争、綱引き。

 ヌー、クォーサが、クラス対抗リレー、借り物競争。


 最近、ヌーとクォーサとあまり話してねぇな。

 スゥとはよく話すが。あ、スゥはクラス対抗リレー、綱引きだ。


 さて、明日からは練習だな。毎日5時間目が練習に当てられている。




 よし、5時間目だ! 

 障害物競争は、練習できないらしい。

 使う器具を出したり収めたり、面倒くさいらしい。

 つまり、ぶっつけ本番になる、と。借り物競争も、練習のしようがないため、ぶっつけ本番。


 とはいえ、やることはちゃんとある。

 綱引きの相手役。本番に備えて少しでも走ること。……これだけ。




 そして、金曜日の5時間目が終わったとき。


「今週もお疲れ様でした。これから、手が空いてる人たちでテントを設置します。生徒用が各学年で24個。先生用に5個。来賓用に2個です」


 来賓用に2個……。まあ、保護者は来ないわな。来賓……誰が来るんだ?


「来賓は、領主様、数人の区長、その方たちの護衛兼視察の近衛騎士一団。それと、念の為の予備席をいくつかです。バイトがどうなるのかわからない人は、バイト先に『通話トーク』してもいいですよ」


 今日は生憎、出る日だ。日程の変更はない。


「ターバ、スゥ。何も言われてないよな?」

「ああ」

「うん」


 よし、出る日だ。平日は基本毎日でるんだけどな。  


 モフールさんが、領都を出て学校前まで来る。そこに合流し、近くの村々まで物資を届け、学校に帰る。

 学校から領都の間は、キーランさんの会社で雇っている冒険者が学校前で待機しているため、襲われる心配もない。

 冒険者にとっても、依頼の帰りだったりするので、歩かなくていいという点で得だ。


 ちなみに、平日全出勤はどこも同じである。

 中には、水曜は休みとか、平日全出勤じゃないところもあるかもしれないが……その場合、給料が安いか、めちゃ大変か。


 平日のバイトとはいえ、そんな遅くまでやるバイトはない。

 断言できる。

 だって、門限あるんだもんな。門限は9時だ。食堂も9時まで。


 バイト先も、このことは承知している。

 9時ギリギリになりそうであれば、学校に連絡を入れ、晩ごはんを支給する必要がある。

 まあ、それが面倒くさいからこそ、8時までに返すという暗黙のルールが出来上がったらしいんだけど。


 他より遅く返すのは恥と感じる会社が複数誕生し、それで最終的に8時までとなったのだろう。

 オレたちも8時までに帰れる。

 6時〜8時だな。基本は6時過ぎに帰れる。


 学校が終わるのが、15:00。そして3時間ほどバイト。

 なんか、部活みたいだな。

 ゴースたちも6時前には帰ってくるから、一緒に晩ごはんを食べれる。


 どこもホワイトだ。

 うんうん。前世でよく見た、社畜の残業によって生まれる綺麗な夜景も、この世界で見ることはない。


 光も若干違う。

 こちらはほとんどが光エネルギーだ! エネルギー変換効率はLEDよりもいいと思う。

 魔力最高!!






 そして、バイトを終えた帰りの途中。


「お前ら、月曜日は体育祭なんだってな。実は、お偉いさん方が乗る馬車の御者に俺が選ばれてな。俺も見に行くぜ。で、何の種目に出るんだ? 選抜模擬戦は確定だろ?」

「オレは他に、選抜リレー、障害物競争、あとは……借り物競争です」

「私はクラス対抗リレー、綱引きです」

「俺は同じく、クラス対抗リレー、綱引き、選抜リレーです」

「おお! そうかそうか。ま、俺はただの運び屋だからな。声は出せねぇけど、応援はしてるぜ?」


 運び屋って……。間違ってはないけどな。

 medicineじゃなくて、drugの方の薬の売人みたいに聞こえるぞ?

 ……そんな見た目してるけどさ。


「大抵、優秀な人材の集まる1組が勝つらしいけどな。油断は禁物だ。気をつけろよ。1組だから、勝つんじゃない。優秀だから勝つんだ」


 他クラスとは、互いに引き立てあう関係なのか。

 他クラスでも、相性の有利不利で負ける可能性があるということだろう。


 誰かが覚醒した、という話は聞いていない。

 大丈夫だと思う。


「大丈夫です! 本気を出せば負けませんから」

「覚醒したって話は聞かないしね」

「はっはっは! 楽しみにしてるぜ。期待はずれな結果はやめてくれよ? 近衛騎士が見定めに来るからな」






 日曜日。今は朝9時。

 食堂の時間の都合で、ゆっくり起きることができない。欲を言えば、8時ぐらいに起きたいものだ。


 売店で靴用洗剤を買い、学校で使う靴を洗う予定だ。


 前に領都で買った半長靴は授業では使わない。

 動きやすいんだが、浮くんだよな。他の人のと全く異なるから。

 だから、村にいた時から履いている靴を使っている。

 魔物の毛皮を使っているから、そこそこ丈夫だ。買ったやつのが全てにおいて優れているけど。




 早速売店で洗剤と、靴用ブラシを買い、風呂場で洗い始める。

 ここしか場所がないからな。

 おかげで、風呂場の掃除道具一式を買うことになったがな。

 半銀貨が2枚飛んだ。

 意外と安くついたかな。4枚は覚悟してた。




 丁寧に洗っているが、力を入れすぎないように注意しないとなぁ。  

 ブラシも柔らかいけど、力を入れすぎると傷ができるし、ブラシも駄目になるからな。


 売店のおばちゃんが言ってたことだけど。

 風呂はガシガシ擦っていいらしいがな。




 よし、綺麗になった! 1時間半も経ったのか。

 よし、靴はさっさと水分を抜いておこうか。『水滴ドロップ』……あれ?

 あ、そうだ。生活魔術は詠唱がいるんだった。

 つい水晶の感覚でやっちまったぜ☆


「──『水滴ドロップ』」


 操作範囲に靴を入れ、靴に染み込んだ水を絞り出す。

 それをそのまま排水口に流す。

 そこで、魔法を切る、と。


 天気が悪くても問題ない!

 水を絞り出すとき、衣類を痛める心配もない。ただ水分を抜くだけだからな。


 北向きの部屋なんてないから、日干しでもいいんだけどな。

 こうやって水分を抜いて、その後で日干しする。

 日干しには、洗剤とは別の殺菌効果がある(らしい)からな。

 日干しは大事!


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