第32話  クラス内戦闘➅

 ターバは向こうで、オレはここで各々準備をしている。

 準備と言っても、軽くストレッチをするだけ。

 それ以上のことはやるつもりも、やる必要もない。


 オレはターバをどうやって倒すか、考えていた。


 まず、ターバ相手に、水晶を使うかどうか、について。

 これについては、基本は・・・使わない方針でいこうと思う。

 できれば、対等な条件のもとで勝利を……と思うのは、どういうことなんだろうな。戦士の心と言うやつか?

 1つ、ターバの意表をつく手がある。隙が生まれるかはわからんが。

 

 刀は、収めておこう。

 ターバは、鞘は外に投げ置いておくスタイルだからな。

 オレが刀を納刀しているとなれば、当然の如く居合斬りを警戒するだろう。


 ……やっぱり、出しておこうか。鞘は腰につけておくけど。






「10分経過しましたので、ラインくん、ターバくんは来てください!」


 ここでバックにド派手な音楽が流れ、紙テープが空中を舞い、観客からの口笛と声援の中、オレの紹介文を読まれていればなぁ……。


 もちろん、そんなことはない。総合格闘技の決勝戦じゃないんだから。

 ん? 総合格闘技だっけ? こんな演出するの。

 ……まあ、いいや。




 オレたちは無言で握手を交わす。

 声に出す必要はない。互いに、互いをどうやって足元にひれ伏せさせるかしか考えていない。


 周りにはクラスメイトが全員いる。

 ここまで瞬殺を決めてきた二人の戦いだもんな。どれくらいの時間をかけて勝者が決まるのか、気になるよな。

 だからと言って、賭けをするものではありませんよ?


 さすがに、瞬殺は無理そうだ。当たり前か。


 ターバ……恐ろしい才能の持ち主。実は現役冒険者ですって言われた方がしっくりくる。


 一方オレには、水晶というアドバンテージがある。プラスの要素だ。いや、掛け算だな。


 それなしで、ターバに勝つ。

 ハンデを背負うわけではない。同じ条件になるんだ。

 水晶を使ったら、オレの勝ちは確定する。だって、武闘より水晶のが得意だから。


 簡易的な防具を身に着け、対立する。

 刀は抜いている。鞘は腰に提げている。


 ターバも剣を抜き、鞘は外に放り投げた。

 ターバは攻めの姿勢。

 そしてオレも──攻めの姿勢。


 ターバの薄赤色の瞳が、まるで血に飢えた猛獣のように見える。硬そうな、剛毛の白髪と相まって、その姿はホワイトライオンを彷彿させる。


 だが、恐怖は感じない。 

 感じるのは、ただ一つ。


 ──戦闘欲だけだ。


「……開始!」


 身体強化を発動し、走り出す。

 

 獅子と獅子(ターバが獅子で、オレが獅子でないわけがないだろ?)の戦いが、始まる。


 そして、中心より僅かにこちら側で、衝突する。互いの武器と武器がぶつかり、甲高い金属音が鳴り響く。


 ぶつかったのは刀と片手剣。

 ターバが右手に持った剣は後ろに引き絞られている。追撃か。


 ここまでは予想通り。


 ターバが右手の剣を振り下ろすのと同時に、鍔迫り合いになっている点を軸にし、回り込む。

 その勢いを利用し、左足でターバの膝裏を蹴ろうとしたが、失敗した。


 当たったのはターバのふくらはぎ。

 踵で蹴ったから、そこそこダメージは入ったか。


 振り向くと、ちょうどターバも振り向くところだった。ここからどうするか……。


「「フーーッ」」


 互いに大きく息を吐き出す。


 黒髪と白髪。

 薄赤色の目と蒼の目。


 奇しくも……補色。




 どう攻め落とす?


 どう仕掛ける?


 どう攻めてくる?


 どう防ぐ?




 持久戦になれば、オレに分がある。

 体力が優れているわけではない。

 武器の重さだ。少し重めの刀1本と、普通の片手剣2本。

 どちらが重いかと問われれば、答えは片手剣2本の方だ。


 だが、2本ということは、息もつかせぬ連撃ができる。

 片方で防御、片方で攻撃と、攻防を同時に行うことができる。


 ──だからなんだ。


 棍でだって、刀でだってできることだ。


 暫く睨み合いが続いたが、先に動くことにした。


 大上段からの斬り落とし! ──に見せかけての……突き!!


 斬り落としの際に力をあまり乗せないことで、突きに移ることができる。


 だが、突きはギリギリのところで避けられた。  

 だが、さすがに反応しきれなかったようで、刀の先がターバの右脇腹に掠った。


 だが、ターバは左手に持った剣を振り上げている。

 さすがに首には当たらないだろうが、攻撃を受けるのは少しまずい。


 両足に力を入れ、前に向かっている力を無理やりこちら側に引き戻し、刀を斬り上げる。

 上手く今の一撃は弾けた。


 あ……。


 と思ったら、ターバの右手の剣がオレの腹目掛けて突き出されるところだった。


 なるほど。


 簡単に弾けたのは、あえて力を抜いていたためか。さっきのオレのを見て、学習したのか?


「まさか、同じことをしてくるとはな」

「いろいろ学んで身につけないと、強くなれないだろ?」

「それもそうだな」


 互いに少し距離をとる。振り出しに戻ったな。

 6を連発すればいいというわけではなさそうだな。1〜6、全ての出目を上手く出す必要があるな。


 ……そう、まだ手はある。だが、出すにはまだ早い。

もう少しだ。


 ターバが動き出した。

 ただ、直線に突っ込んでは来ずに、少し右回りだ。なんの意味がある? 

 刀の間合いに入ったところで、右手の剣を突き出してくる。


 囮の可能性……あり得る。が、囮に見せかけているだけの可能性もある。なら……。


 突きを半身で躱し、右腕を束縛する。

 脇の下で剣を挟んでいるため、攻撃はできまい。


 予想通り、右手は囮だったようだ。

 左手を振りかぶっていた。だが、そんなんでやられるオレではない。


 ターバの利き腕は右。つまり、左は右より力が入りにくい!


 オレの肩目掛けて振られた剣を、横向きから思いっきり跳ね返す。剣の先を狙ったから、ターバの手に伝わる衝撃はかなり大きくなった。


 ……はずだった。

 これで剣を落としてくれたらよかったのだが、まだ手の中にある。ただ、さすがに少し痺れたらしい。

 これ以上の追撃はないようだ。


 さて……この右腕どうしよう? よし、離すか!

 拘束を緩め、後ろに跳んだ。予想通り、オレのいた場所を2筋の剣閃が走った。


 また、ふりだしにもどる、か。


 今度はお互いに動き出し、斬り結ぶ。

 ターバはずっと両方の剣を振り続け、オレは時に避け、時に跳ね返し、時に攻めるを繰り返した。




 まだ。


 まだ。


 まだ。


 まだ。


 ──来た!!


 ターバの剣が2本とも攻撃を止めた。


 もちろん、ターバも意図的だったわけではない。 

 そもそも右と左では、攻撃の回数、タイミングなどが合ってなかったのだ。


 あれだ。最小公倍数を求めるみたいな。

 2つが噛み合ったタイミングが、今だ。


 オレは、一番威力の高い大上段からの斬り落としを繰り出した。

 跳び上がったため、威力が少し高くなる。


 そうだよな。避けることはできない。

 なら、2本の剣で受け止めるしかないよな。


 ごくごく当たり前の判断と行動だ。ターバが頭の上で2本の剣を交差させた。 




 ──だが、オレは斬り下ろさなかった・・・・・・・・・

 

 投げ下ろしたのだ。


 ターバの懐に入り込み、鳩尾に1発、2発、3発。そして掌底で頸部に1発! 後ろから首を掴み、地面に叩きつける。


 その間に『晶鎖しょうさ』で刀を拾い上げる。




 半径20メートル以内で、自分が認識できる範囲なら、水晶を操作できるから、刀に巻きつけることができる。

 生成も半径30メートル以内だったかな。

 やってみりゃわかるけど、今じゃない。




 ちなみに、ちゃんと仕組みがある。

 まず、迎撃や防御をするには、相手の攻撃と反対の向きに力を向ける必要がある。

 だから、オレの斬り下ろしを防ぐ際、上向きに力を入れていた。


 だが、オレは剣を投げ下ろした。

 大上段からの一撃は、かなり重いものになる。だから、余計力を入れていて、引き戻すのが遅れた。


 そして、鳩尾を攻撃することで体内の空気を外に出し、行動を遅らせた。

 これが、オレの用意した策の1つだ。


 背中をオレに向けた状態で、オレに攻撃はできない。

 万が一を考え、両足でターバの両腕を踏む。そして、後頭部に刀を突きつける。


「終わりだな、ターバ」

「──そこまで! クラスの最強は、ライン・ルルクスに決まりました!!」


 おお〜〜、と大歓声だ。全員拍手してくれてる。ターバくぅんん、見てますかぁ? ん?


「おーい、ターバやい」


 返事がない。ただの屍のようだ。


 いや、まさかね。 呼吸確認! 呼吸あり!

つまり!──気絶。


 地面に叩きつけた時だろうなぁ。

 ターバの足を払ってから叩きつけたから、そこそこ痛かったのかな。

 気絶するほどかは知らないけど。


「ほら、ターバ。お前のことも褒め称えてるぞ」


 返事はないだろう。独り言のつもりで呟いたのだが……


「──聞こえてるよ」


 …………。


「おい、いつから起きてた」

「最初から、だ。一度も寝てないけど? 負けたのは少し悔しいけど、いいもん見れたわ」

「いいもんってなんだ?」

「感傷に浸るライン・ルルクス」

「ばっ……浸ってねぇ!」

「いやいや浸ってたって!」

「うるせぇ! それ以上言うなら、ほんとに意識を刈りとってやろうかぁ? その負けたときのままの格好じゃぁ、何もできねぇもんなぁ?」

「……悪かったって」


 自分の不利を悟ったか。フッ……。



「──あ、みなさん、明日からは授業が始まりますからね」

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