第4話 30回のチャンス
特に必要なものは無いが、福引合計30回にするために約2000円分の買い物を済ませた。これで準備は整った。満を持して福引会場へと足を運ぶリーサ。
到着するとそこには長蛇の列。若干の早歩きで、2人抜かして並ぶことが出来た。この本来自分の前に並ぶはずだったであろう2人分が、きっと福引の運命を変えるはずだ。と自分に言い聞かせるリーサの心臓はドキドキしていた。
そんなリーサを、イザナギはニヤニヤしながら見ている。
「分かるな~その気持ち」
イザナギに話しかけられたが沈黙するリーサ。なんせ周りには沢山の人がいる。
「運命ってさ、様々なタイミングと決断によって決まるものだよね。でもチャンスは儚くも一度のみ。その一度の選択の連続によって、人の運命は決まっていく。でもさ、それが正しかったか、悪かったかなんて誰にも分からない。全て結果論なんだよね。面白いな~人間って」
自分が神だからだろう。上から目線でペチャクチャと人間の運命について話すイザナギに、リーサは内心イラついていた。しかしいけない。平常心を保たなければ福引に影響してしまう。そう言い聞かせて期待に胸を膨らませる。
「ねぇ見て見て! リーサの後ろにもズラーっと人が並んでいるよ! 凄い凄い!」
後ろなんかどうだっていいのだ。重要なのは、自分の前の人が一等のペアチケットを引き当てないかどうか。幸いにもこの最終日まで、まだ一等は出ていない。
約30分ほど並んだだろうか。
ついにその時がやってきた。
目の前の人が最後の福引を回す。
これを凌げば。
私のターンだ。
カランカランカラ~ン!!
激しく鳴り響く鐘の
麻雀に例えるならば勝ちを目の前にしたオーラスの局面。
相手の親番ラスト一牌。
その衝撃……!
リーサは目の前が真っ白になる感覚に陥る。一手遅かった。一巡遅かった。そんな運命を、私は引き当てたのか。
「おめでとうございます! 二等のすき焼きセットで~す!」
凌いだっ!
心の中で激しくガッツポーズをする。
盛大な鐘の音で、一等が出てしまったと思い込んでいた。人生でこれ程までの安堵感を味わったことがあるだろうか。リーサはそれほどこの福引にかけていたのだ。
ホッと胸を撫でおろし、瞬時にリーサの目の色が戦士のそれに変わる。
「危なかったねリーサ! さぁいよいよリーサの番だ! 頑張って!」
イザナギは楽しそうにエールを送る。
イザナギの声はリーサには届いてなかった。それほどまでに集中していたのだ。ゆっくりと受付に進み、右手に握った福引30回分のレシートを、力強く差し出す。
雑念を振り払い、ペアチケットへの執着を限りなくゼロに近づける。
まさに【無心の境地】で、リーサはガラガラに手をかける。
「あ、まだ触らないで下さーい。今レシートを確認中です」
「あらごめんなさーい」
なんたる恥ずかしさ。
咄嗟に何事も無かったかの様に平静を装ったが、リーサの顔は真っ赤である。
上空ではイザナギが爆笑している。
落ち着け自分。そう厳しく言い聞かせ、先ほどの失態を悔いる。
何が無心の境地だ。前のめりの欲望丸出しではないか。恥ずかしい。とてつもなく恥ずかしい。勝負は急いてはならぬが鉄則。大丈夫。まだ一等は残っているのだから、落ち着いけばいい。
深呼吸すると、レシートの確認が取れた。
「それでは合計で30回。こちらを回して下さい」
「よろしくお願いします」
それはまさに、プロ棋士の対局開始時ほどの、礼節を重んじた貫禄ある挨拶であった。
ガラガラのハンドル、ただその一点だけを見つめ、ゆっくりと右手で握りしめた。確率はどれくらいなのだろう。果たして30回程度で引けるのか。この私に。脳裏に弱気な自分が問いかける。
ダメだ。いけない。そんな弱気でどうする。さっきまでの威勢はどうした。強気で勝負に急いた自分はどうした。落ち着け。
運命のガラガラ一回目。
リーサはゆっくりと。
ガラガラの中身をじっくりと混ぜる意識で、回した。
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