ぼくは何より弱さがほしい
木島別弥(旧:へげぞぞ)
第1話
日本には、「世界の果て」という名前の駅がある。そこが世界の果てだ。最も蔑まれ、最も疎まれ、最も傷ついたものたちが集まる場所だという。
ぼくは、青春十八切符を買って、「世界の果て」まで旅に出た。ちょっとした日帰り旅行だ。もちろん、同行する友だちはいない。誰にも知られず、ぼくの不幸な人生の慰めとして、「世界の果て」に一度、行ってみたかったのだ。
電車で揺られること、四時間、「世界の果て」の駅についた。ぼくは、「世界の果て」の駅で降りると、世界の果てをできるだけ奥まで歩いて行った。
神の墓、不死身の死ぬところ、時間の終わり、そんなものが世界の果てにはあった。
「誰もやって来ない僻地へよくぞ参ったものだね。何かひとつ、世界の果てにあるものを持っていくといい」
墓守がそういった。
世界の果てでぼくが欲しかったもの。ぼくが心の底から望んでいて、手に入らないもの。それをぼくは求めた。
「それなら、ぼくは弱さがほしい」
ぼくの真剣な願いに墓守はけたけたと笑った。
「弱さか。もっていくといい。ちょうど、ここに弱さが一個あまっているのだ」
それは、鈍く輝く不思議なペットボトルのジュースだった。
ぼくは、弱さのジュースを受けとると、一気にそれを飲み干した。
これから、ぼくはすべての戦いにおいて負けるだろう。ぼくは「弱さ」の能力者になったのだ。
負けてもいい。ぼくなんか、ただの勘ちがい野郎なんだ。十代にして人生の敗北者なんだ。ぼくはこの先、人生で負けつづければいい。
弱さの能力者として、すべての戦いに負けてやろうじゃないか。そして、惨めに死ねばいい。それがぼくの人生だろう。
どうせ、ぼくなんかダメなんだ。
負けて消えよう。
さらば、人生。
そして、ぼくの戦いは始まった。
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